大きなハウスなしで「早出し」をするには?
非農家出身ながら、定年後の今はバリバリの直売農家である、大阪府・能勢町の岡田正(おかだ・ただし)さん。
岡田さんの得意技の一つが「早出し」だ。カリフラワーやブロッコリーをはじめとしたいろんな品目を、他の出荷者よりもちょっと早く、「初物」として高単価で出す。それが、岡田さんのように少ない面積の畑でも、直売所で稼ぐ秘訣(ひけつ)だという。
実際、岡田さんの畑は山際の小さな段々畑だけ。自宅も新興住宅街にあり、もともと住んでいる農家のような広大な敷地はない。もちろん立派な育苗ハウスは持っていない。
春先に早く野菜を出すには、ハウスや温床なんかの加温設備が不可欠だと思っていたが、岡田さんはどうしているのだろうか。
自宅の片隅にある「手作りミニ温室」
「これが便利なんや」と岡田さんが見せてくれたのが、自宅の敷地の片隅にある手作りのミニ温室だった。拍子抜けするほど、小さい。この1畳ほどの温室に隙間(すきま)なく詰めたら育苗トレイが9枚入るそうだ。
岡田さんが春先に出荷するカリフラワーやブロッコリーは、128穴のセルトレイに播種(はしゅ)して育苗する。
つまり、最大で1152本の苗をこの小さな温室でつくることができるわけだ。
カリフラワーやブロッコリーは1回目の播種を2月上旬にする。この頃は、外気温が氷点下8度まで下がることもあるが、温室の中は、発芽や育苗に最適な25度前後を保つことができるという。
植え付けの時期になると、苗を出して、また新しく播種したトレイを入れる、というように回転させる。
4月中旬にまくエダマメやトウモロコシまで、この温室を使って育苗をする。
「エダマメやトウモロコシなんかは、気温ががくんと下がると、発芽せんことがある。この温室に入れといたら、ほぼ100%うまくいく」と岡田さん。
こんな小さい温室だが、フル活用すれば、小さな農家なら十分なほど、たくさん苗がつくれる。
ミニ温室の仕組み
熱源は農電園芸マット
温室の熱源は「農電園芸マット」(日本ノーデン)。耐水性のあるホットカーペットのようなもので、このサイズなら1万5000円前後で買える。
これを、「農電電子サーモ」(同社)というサーモスタットにつないで25度に設定すると、温室内が25度以下の時には通電(加温)して、それ以上になると自動でスイッチが切れるようになる。
サーモスタットの温度をはかる端子は、セルトレイの土に刺して、地温と連動させている。
ミニ換気扇で開け閉め不要に
春先は気温も天候も不安定で、晴天の日に温室を閉め切ったままにすると、温度が急上昇すして40度や50度にもなってしまう。これだけ小さな温室だと、なおさら、すぐに高温になってしまいそうだ。
「だから、これが大事なんよ」と岡田さん。よく見ると、温室の壁には小さな換気扇がある。
換気扇もまた農電電子サーモにつながっており、こちらは25度以上になると作動するように設定。内部が高温になると、自動で換気(冷却)する仕組みになっている。
「換気扇がない頃は、天気が良くなると、扉を開け閉めしに戻らなあかんかった。この換気扇があれば、3月中旬頃までは閉めっぱなしでも大丈夫や」と岡田さん。
壁面は断熱性の高いポリカーボネート
壁面は、ホームセンターなどでも買えるポリカーボネートの中空板。
内側に空気の層があるので、ビニールやアクリル板よりも保温・断熱力が高い。
また、普通のハサミやカッターで切れるので、加工がしやすい。値段もお手頃価格。
植え付け前に1週間ほど寒さに慣らす
温室で育てた苗がある程度大きくなったら、畑にある1坪ほどの小さな無加温ハウスに1週間くらい置く。
高温、高湿度のなかで不自由なく育った苗は寒さに弱く、そのまま畑に植えては枯れてしまう。そこで、7〜10日ほど、夜間には氷点下にも下がるような厳しい環境で「寒さに慣らす」。
別に立派なハウスを建てなくても、工夫すれば早出しはできる。「早出しすれば、このウネ1本だけで5万円くらいになる」と、岡田さんは自慢げだった。