接ぎ木の目的
- 病害虫に弱い品種を、病害虫に強い品種に接ぎ防除するため。
- 樹勢が弱い品種を、樹勢が強い品種に接ぎ、木の勢いをコントロールするため。
- 一つの個体に複数の品種の花や果実をならせるため。
- 特定の個体を増殖させるため。
- 授粉に適した品種を接ぐことで結実率を上げるため。
主に苗木生産業者が1や2の目的で接ぎ木苗をつくり、販売しています。
栽培者の場合、プロ農家でもほとんどの人が購入した苗を利用しますし、筆者も購入苗の選択をおすすめします。
しかし、3の目的をもった接ぎ木であれば、ぜひみなさんに楽しんで挑戦していただきたいと思います。
モモの木にアンズやスモモをならせたり、一本の木に巨峰とシャインマスカットとピオーネをならせたり、そういった夢のような楽しみ方ができるのが接ぎ木のおもしろいところです。
4の目的であることも多いでしょう。同じ品種でも果実の食味には個体差があるため、とくにおいしい実をならす枝、より奇麗な花を咲かす枝を他の木に接ぎ木することがあります。また、より良い品種を導入する際に、新植するよりも既存の木に接ぎ木した方が早く収穫に至ります。
特定の植物を他の植物に“コピー&ペースト”する例として最も有名なのはサクラのソメイヨシノでしょう。
突然変異で5倍の花数を保有する樹体が発見されたのが数百年前、以降現代に至るまで、その同一個体が接ぎ木というコピー&ペーストで増殖され続けています(ソメイヨシノは、自然に増殖できない品種なのです)。
5の目的も非常に実用的です。違う品種の枝を一つ接ぐだけで、効率的に授粉ができて、全くならなかった木に鈴なりに実がつきだした、なんてこともあります。
接ぎ木の原理
では実際に接ぎ木をやっていきましょう。
まずは単純な仕組みを説明します。これだけ覚えておけば接ぎ木は誰にでも簡単にできます。

断面の外周をぐるりと囲む緑色の部分に形成層があります
植物の体内には、形成層という養水分を移動させている経路があります。外皮の内側にある薄い層で、断面積のほとんどを占める木質部分は単なる支えに過ぎません。
接ぎ木をする場合、台木の切断面と穂木の切断面を合わせることになるのですが、この形成層の一部でもピッタリ合っていれば成功します。
もう一度言います。これさえ理解できれば成功するというところですよ!
形成層と形成層の一部でもピッタリ合っていれば接ぎ木は成功します。

断面の外周をぐるりと囲む緑色の部分に形成層があります
要は接ぎ木とは、形成層という経路の「バイパス手術」なのです。
一カ所でも形成層がつながれば、断面の周囲に“カルス”という植物の遺伝情報を持った万能細胞がうねうねと形成されていき、枝と枝を完全に固定して一体化してしまいます。
カルスが形成されて固定化するまでは絶対に乾燥させてはいけません。
- 形成層が離れていた。
- カルスが固定される前に乾燥してしまった。
接ぎ木の手順
ここでは筆者が用いる方法を紹介します。接ぎ木技術は主に個々の農家で継承されることが多いためにたくさんの手法が存在しますが、私の場合でも成功率90%以上はありますので参考にしてみてください。
今回は柿の“富有”に柿の“太秋”を接ぎ木します。
①穂木の準備
接ぎたい品種の枝(太秋)を準備します。
徒長枝(強く上に立っている枝)の方が初期の生育が良いのですが、あまり太いと切りにくいため筆者は画像くらいの鉛筆より少し太い枝を使用します。
片刃のナイフで40°くらいの角度でスパッと削ぎます。
ハサミで切ると目に見えないレベルで繊維を押しつぶしてしまいます。専用の小刀があると良いですが、大刃のカッターナイフでも細い枝ならば切ることができます。失敗したからといって表面を何度も削ぎ直すと、断面が凸凹になるので必ず一発でスパッといきましょう! 失敗したら位置を少しずらしてやり直しです。
枝をひっくり返して反対側を削ぎます。
今度は少し長めの2~3センチ長、スッと表面を削ぎます。緑色の形成層が見えれば良いので、厚さ1ミリほど削げば大丈夫です。
一芽か二芽を残してカットします。
この場合は一芽残して切りました。
②台木の準備
台木の方の枝は、できるだけ若い1~3年目くらいで立ち気味の強い枝を選択します。
表皮がツルッとしてさえいればもっと古く枝のない幹にも直接接ぐことができるのですが、今回は既にある3年目の枝に接ぎます。
根元の方でバッサリと切り落とします。少し高さを残しておけば、失敗しても、失敗した部分を切り落として同じ場所でやり直しができます。
台木の方の形成層を出すために小刀で皮を剥ぎます。
この隙間に穂木を挟み込むので、完全に切り落としてはいけません。
慣れるまでは失敗が多いと思いますし、自分の手を切ってしまいやすいので充分注意して切り込みましょう。
③穂木を台木に接ぐ
両方の形成層と形成層にピッタリ合うようにグッと挿しこみます。
根元までしっかり押し込んだ方が形成層の接地面積が大きくなり成功率が上がります。
接ぎ木を簡単で手軽にし、成功率を跳ね上げた接ぎ木界の革命児、メデールテープ(接木テープ ニューメデール/株式会社アグリス)を使用して、接いだ枝を固定します。
慣れれば10センチもあれば充分です。
台木の根元からしっかりとガッチリ固定します。断面が絶対に乾かないように完全に密封するように巻きつけます。よく伸びるので数回使ってみると簡単に巻けるようになります。
巻き終えた先端の余ったテープはねじり上げておけば大丈夫です。
これで接ぎ木は完成! 新芽は勝手にテープを突き破り出てきます。テープそのものも自然に分解してなくなるので、もう何も手はかかりません。
メデールテープが出てくる前は、保護のためこのように袋で覆って、春になったら中が煮えないように常に管理する必要がありました。
この手法を採用する場合は、“接(つぎ)ろう”というワックスで断面を覆い、乾かないようにしましょう。

接ぎ木成功1年後の写真(ウメ“豊後”にウメ“南高”を接ぎ木)
接ぎ木の親和性
接ぎ木は、どんな木でも自由におこなえる訳ではありません。
近縁種であればあるほど接ぎ木の成功率は高く、つまり一般的に同じ属の植物同士であれば可能だと考えていただければと思います。
例えばバラ科サクラ属のスモモに同属のウメを接ぐことは可能ですが、同じバラ科でもサクラ属のスモモにリンゴ属のリンゴではなかなか成功しません。
更に、同じ属だからと言っても必ず接ぐことができる訳ではなく、それぞれの品種同士の親和性にバラつきがあり一概には言えません。
ここで全てを網羅することはできませんが、とにかく最初は同品目からやってみて、これとこれは接げるかな?と試してみると良いでしょう。
接ぎ木をはじめると、園芸の楽しみはより深まること請け合いです。