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野菜栽培とどう違う? 庭木や果樹の土づくりとは

鶴田 祐一郎

ライター:

連載企画:農家が教える栽培方法

野菜栽培とどう違う? 庭木や果樹の土づくりとは

野菜栽培で土づくりが必要なように、樹木にだって土づくりが必要なのです。
一度植え付けたら長い間楽しめる「永年作物」をより長く元気に育てるためには、どの範囲までの土を作れば最も効果的なのか、どのくらいの深さまで掘り起こして良いのか、どんな資材を使うべきなのか、本記事で見ていきましょう!

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樹木だからこそ土づくりはたいせつ!

持続可能な生産活動を行うことは、栽培に関わる全ての人にとって大変重要な使命です。
今どき山を燃やして肥えた畑を広げながら栽培している人はほとんどいないでしょうが、意図せずとも、特定の植物を土から産みだす行為の実質は“消費的”な活動です。
土地を消費することで我々は作物を生産することが可能になっているということを自覚しなくてはなりません。

野菜栽培などでは収穫後、畑全面を耕しなおしますので、その際に堆肥(たいひ)などの有機物を投入し、土づくりをすることで持続可能な生産をおこなうことが可能になります。ですが、庭木や果樹などの永年作物は、その場所に植えつけられて以降、根を張り何年ものあいだ動くことがありません。
それゆえに多くの場合、土づくりがおろそかになりがちで、ただただ土地を消費し続けて弱っていく木を散見します。みなさんがお持ちの木が弱ってしまう前に、定期的な土づくりを心がけましょう。

土づくりは簡単

庭木や果樹での土づくりの考え方は、基本的には野菜栽培と同じです。
要するに有機物の施用を効果的におこなえば、土壌中の理想的な物理的環境(水はけが良く根が張りやすい土)や生物的環境(微生物が豊富な土)が改善されるのです。

どこに堆肥を投与すべきか

野菜畑のように、全面に堆肥を広げて耕うんすることができれば話は単純です。耕うん機、トラクターなどの機械をお持ちで、木の枝が邪魔にならないのであれば全面を耕してもかまいません。しかし、そのような状況にない場合がほとんどであると思います。
土づくりをするのに最も効果的な場所は、下図に示されたピンク色の部分。主幹(植えてあるゼロ地点)から1.5メートル離れた位置を起点に、地上部の枝が張っている先端部分までの地下部になります。

接ぎ木

幹から離れれば離れるほど根に当たりにくいため、深く掘る必要があります。

土づくり実践例

接ぎ木

最も簡易な例(ブドウ/品種:藤稔<ふじみのり>)

ドーナツ方式

このように有機物を最も効果的な位置に敷いておくだけでも高い効果を得られます。
もちろん1.5メートル以内の株元にもまいたり、これ以上広く散布したりするに越したことはありませんが、コストパフォーマンスで言えばこれだけでも充分な効果が認められます。冬場の果樹園に行くと堆肥をドーナツ状に施された木々を発見することができます。

接ぎ木

余力のある人は、耕して土中に混和させるとより良いでしょう。多少の根切りは気にする必要はありません。またすぐに新しい元気な根が発生します。ただし、鉛筆以上の太さの根(切ればブツンと手応えを感じるレベルの太さです)を20本以上切るようだと、その年は若干木の勢いが落ちてしまいます(高く伸びる「立ち枝」の発生が少なくなるなど)。

タコツボ方式

もう一つ、プロでも実践例が多く、よりコストパフォーマンスに優れ、かつ重機も使わない例を紹介します。
“タコツボ方式”という散布方法です。なんだか効果がありそうな名前ですね!

接ぎ木

タコツボ施肥、埋め戻し後(ナシ/品種:豊水)

毎年少しずつ施用していくイメージで、主幹から1.5~2メートルほど離れた位置に、4~6カ所ほど縦に穴を掘り、有機物などを混和して埋め戻してしまう方法です。
前年施した位置とは少しずらして穴を掘り、3~4年かけて木の周りをぐるりと一周します。
単純で分かりやすく、必要資材も少なく済みます。
ただし、スコップが入らないほど地面が固い場所の人にとってはなかなかの重労働になるのかもしれません(本当はそんな場所でこそ土づくりが大切なのですが)。

接ぎ木

穴を掘る様子

接ぎ木

30~50センチほど掘り上げます

おすすめ資材

本記事中で“有機物”や“堆肥”と表現してきた土壌改良資材ですが、園芸雑誌やWebサイトでも同様に表現されることが多いと思います。
その実、有機物が牛ふんだろうと馬ふんだろうと大きな差異はありません。
しかし、樹木の土づくりという観点で言うと、“鶏ふん”だけはあまり向いていません。安価で手に入りやすい資材ですが、長期間の肥効を期待したい樹木にとっては、肥効が失われるのが早すぎるのです。4週間程度で“窒素の無機化”(後述します)が止まってしまうため、化成肥料に近いといえます。土壌改良効果も、その他の有機物に比べると劣っていると言わざるをえません。
樹木の土づくり、土壌改良としては、牛ふん堆肥か腐葉土のどちらかを選択するべきでしょう。そのどちらも最寄りのホームセンターにて安価で入手できるはずです。

つるちゃんの一口メモ

「窒素の無機化」

※ちょっと難しいと感じた場合は読み飛ばしても大丈夫!

C/N比という言葉をご存じでしょうか? 炭素(C)と窒素(N)の比率を表し、炭素率とも呼ばれます。細かい説明はここでは避けますが、土壌改良資材において、このC/N比の数値が高いほど窒素成分が土壌中で「有機化」(有機物が分解した“腐植”という物質や微生物が増え、土の状態が改善する)し、C/N比が低いほど「無機化」(植物が肥料成分を吸える状態になる)します。
C/N比が高いほど土壌改良の効果が高く、C/N比が低いほど肥効が高いのです。
牛ふんのC/N比は20程度でバランスの良い堆肥。
腐葉土はC/N比40程度で、土壌改良にはより適すが肥効は期待できない。
鶏ふんはC/N比10以下で、肥効は期待できるが土壌改良の効果は低い。
ちなみにもみ殻や稲わらなどの資材はC/N比80以上あり、土壌中の窒素成分がなくなるということが起こります。

土壌pHについて

土づくりにおいて、土壌の物理性、生物性は有機物の投与によって改善されますが、もうひとつの大事な要素に、土壌pHの調整があります。
雨の多い日本では土壌が酸性に傾きがちなので、アルカリ性の石灰資材を散布しますが、ホームセンターや園芸店にいくと、いくつかの種類に分かれて並んでいます。
主に消石灰、苦土石灰、有機石灰の3分類であることが多いのですが、樹木に対しては、苦土石灰か有機石灰のどちらかを使用してください。
特に多くの家庭果樹は苦土欠乏症状を発生しているものが多いようです。pH調整と同時に苦土などのミネラル分を補給できるものを選択しましょう。
木の外周をパラパラとまきながら一周すれば大丈夫です。堆肥と一緒にすき込んでしまってもよいでしょう。

接ぎ木

タコツボ方式の例

土づくりは1年目で劇的に変化するということがあまりないので、おろそかになりがちですが、3年、4年と経つと、目に見えて改善の効果が表れてきます。
そうなってくると愛着もひとしお。ちょっとした手入れで木は元気になっていきますよ。

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