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【農家直伝】イチゴより甘ぁ~い高糖度ホウレンソウの育て方

鶴田 祐一郎

ライター:

連載企画:農家が教える栽培方法

【農家直伝】イチゴより甘ぁ~い高糖度ホウレンソウの育て方

あなたはイチゴよりも糖度が高い“驚異のホウレンソウ”を食べたことがありますか?
そんなものが存在するのか!と驚く人もいるでしょう。しかし、少なくない人は、こう言うかもしれません──「そうそう、昔のホウレンソウは甘かったんだよ」と。
「あの根っこの真っ赤なヤツさ、甘くて濃厚でおいしいんだよ! 最近のホウレンソウって根が赤くないよね」。大丈夫です。そのホウレンソウ、あなたでも育てることができますよ!

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「昔ながらの、あの根っこが真っ赤な甘ぁ~いホウレンソウが食べたいなぁ」
こんなことを言う人に会ったことがありますか? 決しておじさんの思い出が美化されているのではありません。
根の赤さと、ホウレンソウの甘さがセットで思い出になっているので、根が赤い=甘いホウレンソウと捉える人も多いのですが、厳密に言うと必ずしも根の赤さと糖度は比例しません。根の赤さに関しては、品種特性の影響が大きいのです。現在よく市場に出回っている品種は、昔のものと比べて根が赤くなりにくいのです。

一般的なホウレンソウの栽培方法

まずは、一般的なホウレンソウ栽培について見ていきましょう。
皆さんがスーパーなどで手にする普通のホウレンソウの栽培です。

ホウレンソウ

ホウレンソウの栽培カレンダー(栽培暦)です。
丸い印が播種(はしゅ)時期。四角い部分が収穫時期です。真夏以外は基本的に年中流通しています。都市近郊で真夏にホウレンソウを安定的に生産できれば、大金持ち間違いなしです。ぜひチャレンジしてみましょう。
そして、成功したらこっそりやり方を教えてください。

ホウレンソウに限らず、コマツナ、ミズナ、シュンギクなどの小型の葉物野菜を総じて“軟弱野菜”と、農業関係者、流通業者はそう呼びます。業界用語ですね。バカにしたような呼び方に聞こえるかもしれませんが、皆さん誇りを持って「軟弱農家」を名乗ります。
播種から収穫までが早く栽培は容易ですが、暑さに弱く、鮮度がすぐ落ちるため、年中供給するために比較的都市近郊のビニールハウスで、高速で回転させています。
今日耕して種をまいたら、明日は隣のハウスを耕して、明後日のために更に隣のハウスの収穫を終わらせる、といったスピード感で生産されます。

本当は寒さに強いホウレンソウ。そんなに焦らずに冬の間じっくり寒さにあてて育てると、とても甘く栄養価も高いホウレンソウになります。
皆さんが家庭菜園で栽培するときは、栽培カレンダーの“露地”と書いてある作型の範囲で楽しむことができます。他の“トンネル”や“雨よけ”といったビニール被覆を必要とする作型は設備が必要になります。

春まきはトウ立ち(植物が花を咲かせる段階に入ること。葉が固くなって、途端に食べられなくなります)の懸念が大きいので、家庭菜園にはオススメできません。
最も一般的な作型は、9月に播種して年末頃収穫する、というものです。他の冬野菜とまとめて作業しようとすると自ずとこの作型になってしまいますし、園芸雑誌などでは、9月播種を勧めることが多いのではないかと思います。
15センチ間隔でスジまきして、水をかけておけば、2カ月後に収穫です。15センチ空けておけば、間引き等も必要ありません。

ホウレンソウ

ひとつだけ気を付けておきたいことは、土壌pHです。ホウレンソウは特に酸性土壌を嫌います。ホウレンソウがうまく育たずに困っている人は、積極的に石灰投与をして土壌改良に努めてください。
また、小さな体の割に、長大な直根を持ちます。耕土が浅い場合、なかなかホウレンソウが肥大しないことがありますので注意してください。

どうすれば甘くなる?

さて本題の、イチゴより甘いホウレンソウですが、皆さんは普段食べている植物の糖度がどのくらいかご存知ですか?
おいしいとされる高品質なもので測っても、トマトで6度、リンゴで15度くらい。葉物野菜であるホウレンソウの平均はおおよそ3度くらいのものです。
しかし、本気を出したホウレンソウは、本当は凄いんです。なんと、ブドウに匹敵する17~20度という甘さまで糖度を上昇させることができるのです。

ホウレンソウ

Brixとは糖の含有量を測るために、糖度として用いられる物理量

そりゃあ甘いはずです。一度でもこのホウレンソウを味わったことのある人なら、確かに現在出回っているホウレンソウでは納得しないのかもしれません。
栄養価もその分跳ね上がります。それなのに、ホウレンソウ独特のえぐみ成分であるシュウ酸に関しては、変化しないどころか微減するという報告もあります。
栄養満点でおいしいのならぜひ食べてみたい! 出回っていないなら育てちゃいましょう!

やり方によっては20度以上、筆者が知る限りでは23度まで上げることも可能だということです。

ホウレンソウの糖度が上がるメカニズムは非常に単純です。
ホウレンソウに限らず、多くの野菜において、甘さの要素である糖分は光合成によって生まれます。太陽光を浴びれば浴びるだけ、水と二酸化炭素さえあれば、葉緑素は糖を生成します。
しかし、フルーツ級の甘さに仕上げるには、それだけでは足りません。少し強引にホウレンソウにストレスをかけて糖度を上昇させます。

ホウレンソウには、おおよそ8℃以下の低温に長時間あてられる(さらされる)と、自身の体内にある水分が凍って枯死することを防ぐために、糖分濃度を上げる働きがあります。

ホウレンソウ

外気温が3~4℃のときに地温は8℃以下に下がっている

その際に留意しておかなければならないのは、主に根が温度を感知しているということです。
外気温が8℃でも、地温は10℃以上であることが多いです。
地温8℃以下の低温で1週間ほど経過すると、徐々に糖度が上昇してきます。数日ではほとんど変化はありません。
また、この低温時期までに、ホウレンソウ自体がある程度大きくなっていないと、この糖度上昇は起こりません。
そのため、栽培カレンダーで黄色く表示されている作型、10月中旬~11月上旬の間に播種し、12月下旬~1月頃の低温期に入るまでにある程度の大きさを確保しておく必要があるのです。これより早いと、あまりにも大きくなりすぎてしまいますし、遅いと間に合いません。
8℃以下の低温であっても、ホウレンソウは体内の糖分濃度を上げることで、枯死しないどころか、じっくりとですが成長を続けます。生産農家で高糖度ホウレンソウを栽培している場合、出荷規格より大きくなってしまわないように糖度8度以上になったら“高糖度ホウレンソウ”として出荷してしまいますが、自分で作る場合は更に甘くなるまで待ってみましょう。
50センチを超える大きさになってしまいますが、気温さえ低ければ糖度10度超え、つまりイチゴより甘いホウレンソウづくりは難しいことではありません。

高糖度ホウレンソウ栽培の実際

実際にフルーツ級の糖度を誇るホウレンソウを栽培している人の工夫を見てみましょう。
基本的に、高糖度ホウレンソウ栽培に取り組んでいる人が口を揃えて言うことは「品種は糖度にあまり関係ない」ということです。
甘いホウレンソウとは一体どんな品種だろう、と思う人も多いようですが、どんな品種でも同じように甘くすることができます。
食味が良いとされる、昔ながらの東洋系品種(※)を選択するのも良いですが、もっと作りやすく改良された栽培しやすい品種で構いません。
筆者がよく使うひいきの品種は、クローネ法蓮草(中原採種場)です。見栄えが良く、荷姿が美しい品種です。

※ ホウレンソウには、日本に古くからあり食味は良いが育てにくい「東洋種」(種にトゲがあり、葉に切れ込みがある)と、育てやすい「西洋種」(種は丸く、葉に切れ込みがない)がある。現在使われる品種はこれらを掛け合わせたものが多い。

土作りは標準的なホウレンソウ栽培に準じておこないます。
堆肥と石灰を畑にすき込んでおき、土壌pHを7.0前後まで調整しましょう。11月1日頃を目安に播種できるように準備をします。
先述した通り、できるだけ根を冷やすことで糖度は上昇しますので、できる限り高畝にすることをおすすめします。
また、普通のホウレンソウ栽培では15センチ間隔での播種を推奨していましたが、長期間の生育で、どうしても一株が大きく株張りのよい草勢に仕上がりますので、比較的広く、20センチ以上の株間を確保してください。

ホウレンソウ

途中までは普通のホウレンソウ栽培と変わらない立ち姿に見えるのですが、低温に触れるうちに、普通のホウレンソウとは違った地表にはうような立ち姿になります。
これは、外気より温かい地表に近付こうとするホウレンソウの習性だと言われています。また、普段見るスッと直立したホウレンソウとは違い、雪に覆われても茎が折れにくくなります。

ホウレンソウ

あとは収穫を待つのみですが、必ず3月までに収穫を終わらせるようにしましょう。

高糖度ホウレンソウ栽培は、研究が進んではおらず、技術も確立されたものではありません。
栽培者によって、さまざまな工夫が見られます。高畝にしたり、斜面で栽培したり。そのどれもが、根をできる限り低温にあてようという目的で試行錯誤されています。
少し変わった取り組みとしては、「黒マルチ栽培」。
黒マルチとは、黒いビニールで畝全体を包み込み、地温を上昇させる効果がある資材です。
地温を下げようと躍起になっている高糖度ホウレンソウ業界(そんな業界はありません)において、なんという不届き者じゃ!と、実際に取り組んでいる人に直接話を聞いたところ、黒マルチが地温を上げるのは日中の陽が照っている時だけ。夜の地温は変わらないということでした。
つまり、日中は黒マルチによって特に温かくなった地表面付近に根が集中して張り巡らされることとなり、より夜間の寒気の影響を強く受けるようになるそうなのです。

ホウレンソウ

なるほど、これは道理です。
同様に寒気の影響を受けやすい地表面により多くの根を配置するために、育苗したホウレンソウを定植する、という方法を用いている人もいます。
皆さんあの手この手で甘ぁ~いホウレンソウ栽培を研究しているんですね!

実はこの技術には、「寒締め」と呼ばれる名前がついています。ホウレンソウ以外にも、キャベツやニンジン、大根など、あらゆる冬野菜で応用が利きます(シュンギクなどの霜にあたると枯れる植物では難しいです)。
ぜひあなたも甘く、栄養満点の冬野菜栽培を試してみてください!

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