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出過ぎる杭は打たれない?!中森農産のつま先立ちの大規模経営の全容を明らかにする【岩佐と紐解く戦略農業#19】

岩佐大輝

ライター:

連載企画:岩佐と紐解く戦略農業

私、株式会社GRAの岩佐大輝(いわさ・ひろき)とマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が、いま注目している農業経営者を突撃し、戦略を紐解いていく連載企画。今回訪問したのは、日本を代表する大規模農家、中森農産株式会社の中森剛志(なかもり・つよし)さん。農家として「令和の米騒動」をどう見ているのか、農地ゼロからどのように規模を拡大したのか、その戦略を聞いた。

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【プロフィール】
■中森剛志さん

中森農産株式会社 代表取締役
東京農業大学農学部卒業。農業研修を経て、2017年に「食料安全保障の確立」を企業理念として中森農産(株)を設立し、コメ、ムギ、ダイズ、ソバを生産。埼玉県・栃木県・島根県・山口県にて生産を行い、作付面積は合計330ヘクタールにのぼる。

■岩佐大輝さん

株式会社GRA代表取締役CEO
1977年、宮城県山元町生まれ。大学在学中に起業し、日本及び海外で複数の法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後に、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。著書は『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)ほか。

■横山拓哉

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

令和の米騒動について

岩佐:まずは「令和の米騒動」について、中森さんはどう見ていますか。

中森:まさにコメの値段が上がってしまった、というのが僕の感想です。供給能力が足りないと、価格は上がります。これまで需要が下がり続けたことから、供給量を落とすために、生産調整や価格政策が行われてきました。2030年頃を境に、消費よりも生産の縮小の方が大きくなると予測されていましたが、5年前倒しになっています。

岩佐:この状況をどう変えていくべきか、中森さんのアイデアを教えてください。

中森:これまでは生産調整と価格政策で米価を維持し、生産者の所得を間接的に補填(ほてん)する政策を行ってきました。しかし、消費量より生産量が落ちていくフェーズに入ったので、増産にかじを切らなければなりません。ただ、必要十分な量の増産ができるのかという問題があると思います。そのため生産調整ではなく、増産し過ぎたときの所得補償に切り替えないと、この国の食料安全保障としてリスクでしかないと思います。

岩佐:小泉進次郎農水相が、かなりの量の備蓄米の放出しました。それについてはどうですか。

中森:私は問題ないと思います。やらないと、一般関税枠での輸入米がとめどなく入ってきてしまいます。よく流通業者が在庫を抱えてもうけているといわれますが、彼らのビジネスにおいては、売り先に対して約束した量を出せないのが一番の懸念ですよね。高い・安い以前に、モノがあるか・無いかが重要。今すでに棚が心もとなくなっているということは、モノが無い状態です。なので正直、備蓄米の値段はいくらでもいい。とにかく今はモノを供給してあげることが重要ですから、賢明な判断だと思います。

集約を切り捨て、集積に特化した中森農産のビジネス

岩佐:創業から10年もたっていないのに、約330ヘクタールの農業経営者となった中森さん。どうやって成長してきたのでしょう。

中森:水田農業の最大のボトルネックは、農地の集積と集約です。これを徹底的にやることを念頭に置いていたので、まずはとにかく農地を集めました。特に僕の場合は、農地ゼロからのスタートでしたから、良い条件の農地を、高い集約度で集めることは不可能です。そこで最初の5年は集約を切り捨てて、集積に特化して集めてきました。

岩佐:1年目でどれぐらい集まりましたか。

中森:10ヘクタールです。研修中に地域を回って集めました。いつも「落ち着け」って言われていました(笑)。

岩佐:とにかくさっさとやるということですね。

中森:農地が無いと水田農業は成り立ちません。だからとにかく集めたいという、純粋な心でやっていました。でもそれができたのは、大規模で生産性の高い水田農業を日本に作らないと、本当に皆さんの食が失われかねないという問題意識があったから。さまざまな農家が居ると思いますが、大規模農家がある一定の規模に達すると、割に合わなくなってくることが多いんですよ。

岩佐:そうですよね。

中森:不確実性とかマネジメントコストが、規模の経済で飲み込めなくなる。つまり、規模の経済が働かなくなります。そこで、規模を縮小して最適化を始めるんです。それは良いことですが、それだと私の目標を達成できません。まずは農地を増やすことに取り組みました。とはいえ限界があるので、半径10キロ以内で集めました。その後、埼玉の圃場(ほじょう)を大きく2つに分けて、今は半径5キロ以内に集約しています。

現場サイドでの経営の工夫

岩佐:一方で、足元の経営も成り立させないといけません。現場サイドではどういった工夫をしていますか。

中森:拠点ごとに農地を最低限確保すれば、規模の経済がある程度働きます。そこに対して適切な設備投資をしています。ただ、事業を引き継ぐだけでなく、収益構造を再構築していかなければなりません。そこで今はオーガニックに取り組んでいます。うちは農地面積330ヘクタールのうち、70ヘクタールは有機的管理をしています。米価が高騰する中、オーガニックは倍の値段がつきます。その代わり、収量は少ないです。

岩佐:販売はどのように行っていますか。

中森:基本的にはBtoBです。いわゆる6次化もすごく価値があることだと思いますが、私たちが設定している課題は、生産分野の課題を解決すること。そのために、人もお金も投資しているので、販売は基本的にBtoBです。

岩佐:自分たちがやることを明確に決めているんですね。

中森:ただ、オーガニックをやっていることもあって、ノベルティ需要という形でBtoBtoCも始まっています。BtoBのコストで作って、BtoCの単価で売れるようにすれば、販売管理費が増大しません。オペレーションも簡易で済み、かつ収益性も上がります。これはぜひやろうということで進めています。

岩佐:オペレーションは他社に任せるということですか。

中森:基本的には、投資や設備の部分は全部任せています。

今後のビジョン

岩佐:今後のビジョンを教えてください。

中森:10万ヘクタールまで拡大しようと考えています。農業界の問題は、リーディングカンパニーがいないことだと思うんですよね。業界のイノベーションを起こしていくようなプレイヤーが必要です。まずはそこまでの事業規模にならないと、この国の食料安全保障を確立するのは難しいと思っています。

横山:なるほど。

中森:これから日本の水田はどんどん減っていきますから、そのうちの10%のシェアを持っていれば、事業規模でいうと最低1000億円規模の企業になることができます。そうなってこそ、本当の意味で水田農業改革ができる企業、未来を継承できる企業になれます。

岩佐:生産サイドでそこまでの規模の企業はないですからね。でも、中森さんだったらできそうなオーラがあります。

中森:私は本当にやらなきゃいけないと思っています。私ができるかどうかは分かりませんが、それをやらないと次の世代に顔向けできません。

まとめ

岩佐:中森農産のポイントをいくつかまとめてみたいと思います。

中森農産の農業戦略のポイント
スピード感を持って事業を拡大する 経営において重要なのは、勢いをどうつくるか。スピード感があれば、人もモノもお金もついてくる。
戦略的に農地面積を拡大する 集約ではなく集積に特化するなど、やらないことを決め、やることには徹底して取り組む。それによって自社のポジションが築かれる。
志とビジョンを持つ 志やビジョンがビジネスの基礎をつくり、周囲との信頼関係を築く。

岩佐:地域への思いと、ビジョンを描き続ける経営者の姿を見せていただきました。ありがとうございました。

 

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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