「耕畜連携」の仕組みとは?
「耕畜連携」とは、米や野菜などを栽培する「耕種農家」と、牛や鶏などを飼育して牛乳や食肉を生産する「畜産農家」が協力し、地域内で資源を循環させる仕組みです。
東広島市豊栄町の牧場「トムミルクファーム」と農事組合法人「シバザクラの里 乃美(のみ)」では、耕種農家側が牛のエサとなるWCS用イネを栽培して畜産農家に提供、畜産農家側は牛糞を堆肥にして耕種農家に提供という体系を構築しています。トムミルクファームの働きかけで2010年から本格始動したこの取り組みは、中山間地域の営農モデルとして高く評価され、2024年度「全国自給飼料生産コンクール」で農林水産大臣賞を受賞しています。
【畜産農家の声】地域内の自給飼料で牧場を経営したい

田園風景が一面に広がる豊栄町で、トムミルクファームは1950年に創業。同牧場の代表取締役・沖正文さんのお父様が子牛1頭の飼育を始めたことが原点です。当初は米作りや野菜栽培も並行していたそうですが、1980年に沖正文さんが就農して以降、徐々に酪農への一本化を進めてきました。

「耕畜連携で生産されたイネWCSは安価で、品質も輸入飼料と遜色ないと思います」と沖さん
「この町は祖父の故郷なんですが、終戦後、家族で移り住んだ当時は地元の農家とそこまで親密ではなかったと思います。もともと他所から移ってきてこの辺りでは珍しい畜産をやっていたので快く思われていなかったでしょう」と沖さんは当時を振り返ります。
それでも「ここを拠点に酪農を続けたい」「地域に必要とされる酪農をやりたい」という熱意から、牛糞を堆肥にして農家に届ける取り組みをスタート。これが地域との交流材料になり、多い時には約350戸に堆肥を販売していたと振り返ります。
その後、家族経営から雇用型酪農に転換を図り、飼育頭数の増加に合わせてフリーバーン牛舎を導入。「規模拡大する場合、多くの家畜糞尿の処理をどうするかが課題です。この地域で規模拡大への挑戦を決断できたのは、米や野菜の農家とのつながりができて、まだまだ堆肥の需要が見込めたからなんです。」
同牧場では現在、乳牛240頭(成牛170頭・育成牛70頭)を飼育し、年間1600~1800トンの生乳を生産しています。

牛乳やジェラートなどの販売、レストランを展開するだけでなく、動物とのふれあいやバター作りなどの牧場体験も可能
■WCS用イネ栽培を地域の農家に依頼
堆肥を作り農家に提供するという「循環型農業」の原型を築いていた同牧場では、2004年ごろから広島県で実験的に始まったWCS用イネの栽培に着手します。「当時は規模拡大で牧場内の牧草生産が追い付かず、労力の限界もあって輸入飼料を使っていたんです。でも、理想としていたのは自給飼料による地域密着の牧場経営です。地元の米農家が飼料栽培を担ってくれたら助かるなと思っていました」と沖さん。
そこで、発足したばかりの農事組合法人「シバザクラの里 乃美」に栽培を依頼したと言います。これを皮きりに、町内の他の法人や個人農家もWCS用イネ栽培に手を挙げるように。現在では7法人、16戸がWCS用イネの栽培契約を結び、「耕畜連携」による収穫面積は48haに及びます。
トムミルクファームでは当初、子実多収型WCS用イネの「クサノホシ」を使用していました。ただ、同品種は不消化モミが多いために食滞を起こしやすく、配合肥料を増やすなどの対策が必要でコストが悪かったと振り返ります。その後、県の畜産技術センターの研究を通じて見出されたモミが少なく、茎葉に糖分を多く蓄える極短穂茎葉型品種「たちすずか」が登場すると、日々の給与で消化性の良さを実感。いまでは「たちすずか」を中心に利用しています。

堆肥の存在が同地の耕畜連携を支えている
■収穫は牧場側が担当
同牧場の「耕畜連携」の特徴は、自社内にコントラクター(農作業受託組織)部門を置き、耕種農家に出向いてWCS用イネを収穫することです。牧場側が目で見て収穫するので、その場で生育が悪いイネを省いたり、育成牛用に分けたりという細かな分別が可能。収穫を確実にしてもらえることから耕種農家からも信頼され、翌年の契約に結びついたと言います。また、水が涸れやすく水稲栽培に向かない圃場は、畑地化して牧草を育てることを提案。牧草を好むシカの食害が悩みのタネだそうですが、農村の景色を守ることにつながるため、地元住民の方はとても喜んでいます。
また、「牛の価値・魅力を消費者に伝えたい」という考えから、牧場内にジェラートショップやカフェ、農泊施設などを開設。見学や各種体験ができる牧場として広く開放しています。「畜産農家があることで、その地域には選択肢が増えるんです。中山間地域で酪農が果たす役割はまだまだあると思っています。」
【耕種農家の声】環境に優しい農業のために牧場と連携を

トムミルクファームから車で数分の場所に拠点を置くのが、地域の圃場整備に合わせて2009年に設立された農事組合法人「シバザクラの里 乃美」です。現在の構成員は58戸で、管理する約33haの農地で食用米や野菜などを栽培。このうち約3haで、トムミルクファームに供給するWCS用イネ「たちすずか」や「つきすずか」を栽培しています。
■牧場の堆肥を有機肥料として活用
「法人が設立当時から大事にしてきたのが、経営理念にもある“環境に優しい農業と暮らし”です」。そう話すのは、総務部長の城籔(じょうやぶ)逸夫さん。同法人は法人設立にあたって「地域農業の活性化」「環境に優しい農業と暮らし」を模索し、安全で安心して食べられる農産物の生産を目指していました。その一環としてトムミルクファームの堆肥を利用し、「エコファーマー認証の取得」や「化学合成肥料・農薬の使用5割減」などいち早く環境保全型農業に取り組んできました。

「化学肥料50%減で食用米を栽培すると、どうしても肥料不足で収量が少なくなります。そこで、トムミルクファームの堆肥を有機肥料として使い始めたんです」と城籔さん。堆肥を作るためには、牛のエサになるWCS用イネが必要。法人設立時、農地整備されたばかりで地力が未知数だった圃場で、牧場側から提案された極短穂茎葉型WCS用イネを栽培してみよう。このような経緯から「耕畜連携」がスタートしました。
WCS用イネ栽培そのものについて、城籔さんは「牛には消化が悪い穂の部分が不要なので、WCS用イネは食用米を栽培する時に重要な中干しの工程がありません。手間がかなり省けます」と話します。
また、「法人ができた頃から、トムミルクファームや県の畜産技術センター、農業技術センターとタッグを組んで、WCS用イネの採種技術の研究・開発を続けてきました。採種は栽培手順や肥料の加減などが飼料用途のそれと全く異なるので、両立していくのは大変。採種に関してはずっと試行錯誤しながらやっています」と城籔さん。WCS用イネ栽培と採種、また、カボチャ、枝豆栽培など多品目生産を組合せて、労働分散やリスク軽減を行っているからこそ経営上の収支バランスも保たれていると感じるそうです。2025年には農林水産省「みどりの食料システム法」に基づく「みどり認定」も取得しています。

「シバザクラの里 乃美」が管理する農地。極短穂茎葉型WCS用イネ「たちすずか」を栽培中
中山間地域で「耕畜連携」を成功させるカギとは?

WCS用イネを通じた情報交換により、共通意識を持つことを大切にしています(左:城籔さん、右:沖さん)
ここまで見てきたように、中山間地域の解決策として注目されている「耕畜連携」ですが、畜産農家側の沖さんも耕種農家側の城籔さんも同様に、「Win‐Winの良い関係を維持していかなければ続かない」と話します。どちらかが黒字になる、赤字になるという偏りが生じないことや、栽培技術の向上を目指した協議を継続することも成功の秘訣だそう。もちろんそれ以前に、「地域の中でつながりを深めて、協力し合っていこう」という共通意識も大事。同じ意思があってこそ、地域内でうまく資源(生産物、お金等)が回り始め、農地保全やコミュニティの活性化という結果を呼び込むのでしょう。
また、沖さんのように畜産を通して地域を活性化させるといったような展望を持ったリーダーの存在も中山間地域には求められています。
取材協力
有限会社 トムミルクファーム
〒739-2311 広島県東広島市豊栄町乃美1083-5
農事組合法人 シバザクラの里 乃美
〒739-2311 広島県東広島市豊栄町乃美155
飼料用イネに関してのお問合せ
一般社団法人日本草地畜産種子協会
東京都千代田区神田紺屋町8 NCO神田紺屋町ビル4F
TEL:03-3251-6501
FAX:03-3251-6507

この記事は地方競馬全国協会畜産振興事業の助成を受けて掲載しています。


















