17都府県で耕作者未定の農地が5割超
食料の生産能力は生産者と生産技術、農地の3つで構成される。このうち農地は最も大切な要素。田畑の荒廃は、この国の食料生産を根底から脅かす。そのリスクが高まっていることが、「地域計画」で明らかになった。
地域計画は、2023年改正の農業経営基盤強化促進法を受けて、全国の市町村が農協や農業委員会などと話し合ってまとめた将来ビジョンだ。10年後に農地を誰が耕作するのかをはっきりさせることがその柱となる。
農水省によると、10年後の耕作者が決まっていない農地面積は2025年4月末時点で全体の32%。これが耕作放棄の予備軍になる。
とくに深刻なのが、耕作者を確保できていない農地の割合が5割を超す自治体だ。その数は群馬、埼玉、東京、静岡、大阪、和歌山、岡山、鳥取、徳島など17の都府県に上った。関東と中国、四国地方で際立つ。
農地の荒廃を防ぐにはどうしたらいいのだろうか。

生産力維持には農地の保全が不可欠
現場を混乱させた「5年水張り問題」
耕作放棄を防ぐために必要なのは、既存の農家が営農を続け、規模を拡大しやすい環境を整えることだ。新規参入を促す仕組みも重要になる。それが不十分だから、将来の耕作者の確保が難しくなっている。
政策の支援が何もなくても、担い手が増えるのならことは簡単。だが自由な競争に任せているだけでは、一部の農家は事業を大きくできても、全体を底上げするのは困難だ。だから農業政策が必要になる。
具体的な施策はいろいろ考えられるだろうが、ここではあえて一点を強調しておきたい。政策を頻繁に変えるのをやめることだ。
近年で混乱が大きかった例を1つ挙げておこう。「5年水張り問題」だ。

耕作放棄地の例。雑草はまだ刈っていた
農水省は2021年、翌年から5年の間に一度も水を張らなかった水田を転作助成の対象から外すことを決めた。水を張ることができないならもはや転作とはいえず、助成の対象にすべきではないとの判断だった。
現場では当然、困惑が広がった。一定の補助金は農家の収入に組み込まれており、その消滅は経営の悪化につながりかねないからだ。無理に水を入れれば、湿害で畑作物の生育に支障が生じる懸念もあった。
反発の強まりを受け、農水省は5年に一度の水張りを求めないことを2025年2月に決めた。助成の停止を2年後に控えての方針撤回だった。
担い手の確保を難しくする政策のブレ
農業生産が気候変動に脅かされている。ただでさえ栽培が不安定になっているのに、経営の土台となる制度が頻繁に変わったのでは、営農の意欲をそぎかねない。そのマイナスの影響はあまりにも大きい。
筆者が農業取材を始めるずっと前から、「猫の目農政」という言葉があった。政策がころころ変わることの例えだ。残念ながら、農政の悪弊が改まったとは言いがたい。むしろ農政の柱そのものが揺れているようにも見える。
地域計画は、10年先の農業の展望を明確にすることが目的だ。政策支援はその根幹にある。いまの農政の方針が10年続くかどうかわからないのに、10年先の地域の農業の姿をはっきりと描くことができるだろうか。

農水省の責務は大きい
だから助成金に頼らない経営に価値がある、という考え方もあるだろう。それができればもちろんハッピーだ。だが主要国で農業への支援がゼロの国は皆無に等しい。国の存続に関わるからだ。穀物はとくにそうだ。
2027年度には水田政策の抜本的な見直しが予定されている。それをいかに強固なものにできるかが、今後の農地政策を大きく左右する。耕作者を確保し、地域計画を実のあるものにするうえでも重大な節目になる。



















