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青果物の「やさいバス」運行開始から10年 農家にリスク負わせず販路拡大

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

青果物の「やさいバス」運行開始から10年 農家にリスク負わせず販路拡大

青果物を地域内で流通させる「やさいバス」がサービスを開始してから10年目を迎えた。競争の激しい農産物流通の世界でどうやって特色を出し、集配事業を広げてきたのか。エムスクエア・ラボ(静岡県牧之原市)代表の加藤百合子(かとう・ゆりこ)さんにインタビューした。

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地元の農産物を届ける流通システム

やさいバスは2017年1月に静岡でサービスが始まった。青果物の新たな集配システムとしてエムスクエア・ラボが実証試験の形で開始し、同年3月に子会社の「やさいバス」を設立して事業を本格的にスタートさせた。

直売所や農家の敷地、卸会社の倉庫などをバス停に見立て、農家が決められた時間にそこに農産物を運ぶ。保冷車が集荷して別のバス停まで運び、飲食店などが注文しておいた品を取りに行く。これが基本的な仕組みだ。

加藤さんは食料問題と環境問題の解決を志して東大に進学し、農学部で農業ロボットについて研究。卒業後は産業用機械の開発などの仕事を経て、2009年に農業支援ベンチャーのエムスクエア・ラボを立ち上げた。

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やさいバスを加藤さんが始めた理由は2つある。1つは物流費の抑制。農家が店まで届けたり、シェフが農場まで取りに行ったりせず、中継地点を集配場所にすることで飲食店が負担する送料を普通より安く抑える。

もう1つは鮮度のいい状態で青果物を地元で流通させること。既存の大量物流だと大消費地の東京の市場にまとめて運び、地元で手に入れようとすると都内から運び直すことさえあった。そこで地域流通の仕組みを構築した。

やさいバスのマーク

スーパーを売り先に事業を拡大

サービスは徐々に他県にも広がったが、開始から4年目にある壁に直面した。新型コロナの流行だ。主な売り先だった飲食店が営業の縮小や閉店に追い込まれ、そのままの形で事業を大きくするのが難しくなった。

ところが加藤さんはこのときすでに事業の新たな拡大につながる手を打っていた。スーパーへの販売だ。中継ポイントで青果物を集荷するのはそれまでと同じ。それをスーパーに運ぶことで、販路を増やしていった。

新型コロナによる「巣ごもり消費」の拡大で家庭で調理する機会が増えたことが、スーパー向けの販売にとって追い風になった。その後売り先は全国各地に広がり、いまや静岡や茨城、千葉を中心に約120店になった。

なぜ取引先を増やすことができたのか。スーパーにとっては地場の農産物を鮮度のいい状態で仕入れることができるというメリットがある。だがそれだけなら、スーパーにたいていある地場野菜コーナーと差が出ない。

やさいバスが集荷した青果物(2020年撮影)

カギを握るのは売買の手法。量販店の産直コーナーなどでよくある委託方式は、売れ残ったときのリスクを農家が負う。これに対し、買い取り方式は農産物を仕入れた側が販売がうまくいかなかったときの損失をかぶる。

やさいバスは買い取り方式で仕入れ、同じ方式でスーパーに売る。形のうえではスーパーがやさいバスに注文する関係になっている。だが重要なのは、何を注文すべきかをやさいバスからスーパーに提案している点だ。

「どの農家が何を作っていて、どんな品質のものを出せるかを私たちの方が知っている。だからこちらから提案する」。加藤さんはそう話す。その結果、ロスになる確率が低くなる。リスクの抑制につながっているのだ。

加藤さんはスーパーを「委託ではなく、買い取り方式でやってほしい。そのために売れる商品を届けます」と説得しているという。これは生産者がいいものを作ることに専念できる環境を整える取り組みでもある。

人と人をつなげる流通

加藤さんの農業への思いにも触れておこう。「自分の作ったものがどこでどんな値段で食べられているのか知らない農家が多い。こんなに閉ざされた世界があるのか」。農家と接するようになったとき、そう驚いたという。

農産物の作り手と買い手の距離を縮めるやさいバスを始めたのは、事態を打開するには新しい流通の仕組みを作る必要があると考えたからだ。それはECではなく、「人と人をつなげる」ことを可能にする流通だった。

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