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自然栽培で就農して17年 娘に約束「大学に行く蓄えはある。私大でもOK」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

自然栽培で就農して17年 娘に約束「大学に行く蓄えはある。私大でもOK」

「農業はもうからない」と多くの生産者が話すように、農業で利益を出すのは簡単ではない。自然栽培ならなおさらだろう。それでも暮らしを成り立たせている人はいる。東京都瑞穂町で無農薬・無肥料で野菜を育てる井垣貴洋(いがき・たかひろ)さんと美穂(みほ)さん夫婦にインタビューした。

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大学が多いから都内で就農

営農には直接関係のない話題だが、大切なことなので最初に触れておきたい。2人には4月に中学生になる息子と、高校2年生になる娘がいる。

遠からず、娘の大学進学が家族にとって大きなテーマになる。2人は娘にこう話しているという。「4年制の大学に行ける蓄えはちゃんとある。私大でも大丈夫」。学費のことは心配しなくていいと娘を安心させた。

2人は非農家の出身。もともと福祉関係の仕事をしていたが、30歳を前に転職を考えたとき、真っ先に浮かんだのが農業だった。就農したのは2009年。その場所として、瑞穂町を選んだことには大きな意味がある。

就農を目指す人の多くがイメージするのは、田畑が広くて効率を高めやすい地方だろう。だが2人はあえて東京に絞って就農場所を探した。

井垣さん一家(2015年撮影)

都内なら大学がたくさんあるというのがその理由。地方で就農するのと違い、自宅から大学に通うことが可能。子どもが別の地域に1人で住むのと違い、アパート代など経済的な負担がかさむのを心配しなくてすむ。

もちろん将来を見据え、2人がこつこつお金をためてきたことが「私大でも大丈夫」という言葉の背景にあるのは言うまでもない。その努力の積み重ねを、持続可能な営農を実現したいという思いが支えてきた。

農薬も肥料も使わず栽培

営農の話に移ろう。栽培面積は0.7ヘクタール。普通なら兼業をイメージしそうな規模かもしれないが、2人は他の収入に頼らない専業農家だ。

以前は何かの理由で「無理かも」と焦ることがあった。だが「この5年ほどの間はもう難しいと考えることがなくなった」という。栽培と販売の両面で手応えを得たことで、営農の継続への自信を深めることができた。

栽培は農薬だけでなく、肥料も使わない自然農法。「できるだけ自然な形でやりたい」という就農時の思いを一貫して追求してきた。種苗会社が開発したF1品種ではなく、昔ながらの在来種を育て、自家採種している。

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10種類ほどの野菜を入れる個人向けのセットが販売のメイン。町内なら自ら配達し、それ以外の地域は宅配便で届けている。自宅の玄関には直売コーナーを設けてある。隣接する羽村市のスーパーにも出荷している。

野菜セットの売り先は70世帯ほどで推移している。子どもが独立し、世帯人数が減ったことなどを理由に注文が来なくなることもある。だが固定客による口コミで新たな注文が入り、売り先の数を維持できている。

毎月の販売数は110セット。これを120に増やすことを目指している。自然農法なので、単収を飛躍的に増やすのは難しい。「月10セットの販売増」という目標は、2人が無理することなく伸ばせる量を示している。

井垣夫妻が育てたさまざまな野菜

自家採種でおいしさを向上

慣行農家からすれば、農薬だけでなく肥料すら使わずになぜ野菜が育つのかと疑問に思うだろう。その点に関し、2人は「普通の農家から見たら、『できていないもの』を売っていると思うかもしれない」と話す。

できたかどうかの尺度が収量なら、他の農家ほど多くはない。形は不ぞろいで、小ぶりなものも少なくない。それでも顧客からは「おいしい」「続けてほしい」という声が届く。これが2人が大切にしている価値だ。

顧客の多くは2人が実践している自然農法の内容を理解し、共感しているという面はある。だがそれだけで購入が長続きするわけではない。

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