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【大豆の出芽不良・減収を防ぐ】梅雨の晴れ間を逃さない「一発畝立播種」の実力とは?

kawashima_reijiro

ライター:

【大豆の出芽不良・減収を防ぐ】梅雨の晴れ間を逃さない「一発畝立播種」の実力とは?

水田転換畑での大豆生産は全国的に行われているが、播種後の降雨による「湿害」が大きな課題となっている。一方、愛知県で稲・麦・大豆の輪作を行う農家にとって、小麦収穫直後の梅雨の合間が大豆の播種時期にあたる。適期に播きたいのだが、播いた直後に雨が降ると出芽不良を招く。この課題を解決するため、愛知県農業総合試験場と県内岡崎市の鋤柄農機株式会社(以下、鋤柄農機)が開発したのが「一発播きが可能な大豆高速畝立播種機」だ。農家の実証で見えてきた、その実力に迫る。

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愛知県大豆生産の課題。「適期播種」と「湿害回避」

愛知県農業総合試験場 森崎主任研究員

本題に入る前に、愛知県における大豆生産について教えてくれたのは、愛知県農業総合試験場作物研究部作物研究室の森崎耕平(もりさき・こうへい)さんだ。

愛知県の大豆生産は、大半が水田での栽培。稲麦大豆の2年3作ブロックローテーションが行われており、小麦を収穫した後に大豆を播種するという。

愛知県の大豆の主な産地。黄色が洪積地域で、水色は沖積地域。水色は主に木曽川、矢作川、豊川沿いに分布している

「大豆を多く生産している地域は、大きく洪積地域と沖積地域に分けられます。洪積地域は粘土質の台地で、乾くと土がとても硬くなります。生育が遅く、生育量を確保するために、播種を早くする地域(6月中旬~7月上旬)であり、条間70~80㎝、中耕培土ありの栽培が多いです。沖積地域は主に河川沿いの平野部で、砂質土壌で地下水位が高く、洪積地域と比較すると生育が早く、倒伏を避けるために遅く播種する地域(7月中旬~下旬)です。条間60 ㎝程度、中耕培土なしの栽培が多いです」

愛知県の稲麦大豆の栽培時期。特に、小麦収穫後と大豆播種の時期が近接していることに注目

このように愛知県内でも、土壌の性質に地域差があり、それに応じて播種適期や条間、中耕培土の有無は異なる。それでも共通するのが「適期に播種すること」の難しさだ。特に洪積地域では、6月上中旬まで小麦の収穫が続く。

「6月上中旬の小麦の収穫から大豆の播種までの期間が特に短く、梅雨の合間を狙って播種作業を進める必要があります。愛知県は大規模な経営体が多く、大豆だけで100haを超える経営体もあるため、播けるときに播くことが重要になります」

ところが、ここでもう一つの問題が出てくると、森崎さんは言葉を続ける。それが、播種後の降雨による湿害だ。播種直後に連続した雨や大雨が降ると、圃場が過湿、あるいは湛水状態になり、出芽不良が起こりやすくなるという。

「出芽数が不足すれば収量低下につながり、著しい出芽不良の場合は収穫皆無となってしまいます。麦の収穫直後に播かなければならない一方で、大豆播種後の雨による湿害も避けなければならないのです」(森崎さん)

この2つの課題を同時に解決することが、「一発播きが可能な大豆高速畝立播種機」開発の出発点となった。

「湿害回避」と「高速作業による適期播種」を両立した開発機

愛知県の大豆生産が抱える「適期播種」の実現と「湿害回避」という2つの課題を解決するため、愛知県農業総合試験場と鋤柄農機が開発したのが「一発播きが可能な大豆高速畝立播種機」だ。当初は県が試作していたが、2023年より「あいち農業イノベーションプロジェクト(2023~2025年)」を活用して共同開発し、現在は受注生産が始まっている。

その機能は、機械の名称が見事に表している。「高速」作業により、「一発」で「畝立て」と「播種」ができるというもの。畝立てにより湿害を回避することは必須だが、それだけでは課題を解決するには足りない。小麦収穫後に、一発で(前耕起を省略して)そのまま高速で播種できることが求められた。従来機は時速約2.5kmに留まるが、目標とした播種速度は時速4kmである。

そのために採用したのが、アップカットロータリーである。トラクターの進行に逆らう方向に回転するため、土を盛る性能には優れる一方で、作業負荷が大きく、高速作業には不利になる。そこで、必要な爪以外を取り除いて負荷を軽減した。

最初は両端の爪を残した1畝2条タイプを試作。しかし、愛知県の洪積地域特有の粘土質土壌では土の飛びが悪く、特に湿っている場合には畝立てがうまくできなかったという。そこで農業機械のノウハウを持つ鋤柄農機と『あいち農業イノベーションプロジェクト』でマッチングし、2023年から共同で開発を進めることになった。

試作当初の1畝2条タイプ(左)と改良した1畝1条タイプ(右)

「鋤柄農機さんのアイデアで、土が飛びやすい爪を使用し、1畝1条となるよう爪を増設。さらに爪の配置を試行錯誤することで、ある程度湿った粘土質土壌でも畝立播種が可能になりました」(森崎さん)

さらに、小麦収穫後に残る長い藁や土がロータリーに詰まる問題にも対応。ロータリー軸に対策部品を取り付け、詰まりにくくする改良を行った。こうして2.4m幅のアップカットロータリーを改造した3条タイプと4条タイプの商品化に至った。3条タイプは条間75cmで、主に洪積地域向け。4条タイプは条間57cmで、主に沖積地域向けとなる。

3条タイプ播種機 1

4条タイプ播種機 1

左が洪積地域用(3条)、右が沖積地域用(4条)

「2023~2024年度に行った生産現場および愛知県農業総合試験場内での実証試験の結果、播種後に降雨が多い条件では、従来機に比べて約30~90%という大幅な増収が確認できました。また、小麦収穫後の不耕起状態でも時速4kmで播種でき、やや土壌水分が高い圃場条件でも時速3~3.5kmで安定して作業できました。一発播きだけではなく、前耕起ありの作業体系でも播種でき、時速4kmでも安定した作業が確認されています」(森崎さん)

既存の播種機よりも速い!農家が実感した愛知県の高速大豆畝立播種の実力とは

2023現地試験_畝立播種試験圃場

2023現地試験_慣行圃場(湿害発生圃場)

上は2023年に実施した現地試験。下が畝立播種区で右が慣行播種区。生育の差は歴然だ

では、実際にこの機械を使った農家は、どのような効果を感じているのか。豊田市で1995年から営農している岡田吉司(おかだ・よしじ)さんが教えてくれた。岡田さんは、稲・麦・大豆・飼料用トウモロコシを栽培している。洪積地域で大豆を6月中下旬に播種しており、今年が畝立播種機を使った実証の初年度だ。岡田さんの評価を聞いてみよう。

「この大豆高速畝立播種機の播種速度は、既存製品よりも速いと実感しました。また、例年は出芽不良となる圃場でも、今年大豆高速畝立播種機を使用したところ、苗立ちは良好でした。播種2週間後頃の大雨で畝間に1週間ぐらい水が溜まった圃場もあり、やや生育が抑制されましたが、その後回復して問題ありませんでした。既存の播種機では生育に影響が残るため、畝立播種の効果を実感しています」

プレゼンテーション1

岡田さんの畝立播種試験圃場の1つ。例年は湿害による出芽不良や生育不良が発生する。左のように畝立播種後に水が1週間程度溜まったが、その後、生育不良となることなく、右のように生育は回復した

さらに、この機械の特徴である「前耕起を省略できること」も岡田さんにとって大きな意味を持つようだ。

「小麦収穫後、前耕起あり、なし、どちらでも使えました。播種を急ぐ必要がある場合は前耕起なしで早く播き、余裕がある場合は耕起ありで播くという使い分けも良いのではないかと思います」

天候に恵まれ、作業時間に余裕があるなら前耕起を行う。雨が迫っているなど播種を急がなければならない場合は、前耕起を省略してそのまま播種する。この大豆高速畝立播種機であれば、圃場条件や天候に応じて作業方法を選ぶことができる。これが「適期に播く」という課題への、現場から見た一つの答えだ。

興味深いのは、岡田さんが行った大豆以外の作物での試行だ。

「飼料用トウモロコシでも本播種機を数ha試してみましたが、苗立ちが良く、トウモロコシでも利用できそうな感触を得ています」

大豆用に開発された本機だが、畝立てによる排水性の向上と高速播種、前耕起を省略できる作業体系は、他の作物にも応用できる可能性があるようだ。

愛知発の技術は、全国の大豆産地に普及する可能性を秘めている

播種のようすR6刈谷

2024年播種の様子

岡田さんの実証で見えてきたのは、この機械が愛知県特有の課題だけに対応するものではない、一つの可能性だ。愛知県の大豆生産が抱えていた「湿害」と「播種適期」は、決して愛知県だけの問題ではない。今回の大豆高速畝立播種機が実現した「適期播種」と「湿害回避」の両立は、多くの大豆生産者に共通するニーズだ。

事実、愛知県内では地域をまたいで効果が確認されている。沖積地域の豊川市の生産者では、2025年に畝立播種を試験した結果、播種後に大雨が降って圃場がしばらく湛水状態となったにもかかわらず、苗立ち数を確保できた。畝立播種でなければ全滅していたという。また、普段使っている播種機では播種できないような湿った圃場でも播種でき、十分な出芽数も確保した。

洪積地域の刈谷市の生産者は、開発開始当初から試験に協力している。播種後に降雨が多かった2023年、2026年には、慣行播種で湿害による出芽不良が発生した一方、畝立播種では出芽数を確保できたという。この生産者からは、コンバイン収穫がしやすいように畝を高くしすぎないこと、藁や土の詰まりを抑えることなど、開発開始当初の試験機の改良に向けた貴重な意見を得た。

こうした現場での実証を重ねながら、多くの生産者から出た意見を次の改良につなげている。2026年からは、中明渠の施工を省略できる可能性についても実証が進められている。実用化すれば、播種作業だけでなく、その後の排水対策まで含めて作業工程を減らせる可能性がある。

「一方で、課題も残っています。特に雨が少ない年には従来機との違いが出にくいため、どのような降雨条件、作期、圃場条件で効果が大きくなるのかを整理し、生産者に提示していく必要があります。また、アップカットロータリーなどの資材価格が上昇しており、機械価格の上昇も普及に向けた課題となります」と、森崎さんは語った。

愛知県はかつて「水稲不耕起V溝直播栽培」技術を開発し、それは全国の水田へと普及していった。そのV溝直播の播種機を共同開発したのは、今回の大豆高速畝立播種機を共同開発した鋤柄農機だった。

V溝直播の播種機がそうであるように、この大豆高速畝立播種機も、土壌や作型が異なる地域でそのまま適用できるとは限らない。だが、「播けるときに播きたい」、「播いた後の雨で出芽不良を起こしたくない=湿害を回避したい」という農家の悩みは、地域が変わっても共通する。

愛知県で生まれた「大豆高速畝立播種機」は、早くも愛知県の大豆生産を支え始めている。それは全国の水田転換畑が抱える「適期播種」と「湿害」という課題に、一つの解決策を示している。ご興味を持たれた方は是非、鋤柄農機にコンタクトして欲しい。

取材協力・画像提供:愛知県農業総合試験場
参考:鋤柄農機

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