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株式会社山共

森林のレンタルサービス「forenta」の始まりのストーリー。「共有」が生み出すまったく新しい林業の現在地とは

公開日:2023年07月20日

株式会社山共(本社:岐阜県東白川村、代表取締役:田口房国)は、キャンパー向け森林レンタルサービス「forenta」を展開しています。forentaは、森林空間を1年間お貸しするサービスです。年間契約であれば予約は不要で、天気や仕事の予定に合わせていつでも好きなときにご利用いただけます。また、1区画を自分専用の場所として借りることができるため、昨今のキャンプブームの中でも周囲の喧騒を気にせずに静かな空間で過ごすことができます。

誰もやろうとしなかった「森林をレンタルする」というサービス。林業や森林経営を取り巻く状況が厳しくなる中、今までの常識を覆し、考案からローンチまでを驚きの速さで成し遂げ、現在急成長しつつある「forenta」の始まりのエピソードをお伝えします。

林業と製材業を営む家の長男として、林業の課題に挑みたかった

2023年6月24日、岐阜県東白川エリアで森林レンタルサービス「forenta」の新しい区画の募集が始まった。全国に展開している11のフランチャイズエリアの区画と合わせると300区画を超えることになる。プロデューサーの田口房国(以下、房国)でさえ、forentaをローンチした2年半前にはここまで大きなムーブメントになるとは想像もしていなかった。

房国は1977年、岐阜県東白川村で林業と製材業を営む家の長男として生まれた。房国の祖父は戦後に故郷に帰ってきて「山共」を立ち上げ、戦後の好景気の中で社業を伸ばしていき、400haの社有林を所有するに至った。しかしその後木材業界は斜陽産業となり、バブル崩壊後から続いた不景気で昔からの取引先は倒産や廃業をし始め、一時期の隆盛を失っていった。房国が大学を卒業して木材業界に入ったのはそんな頃である。先代のやり方にとらわれず今の時代に合ったやり方があるんじゃないのか?そう考えていた房国は30歳で社長になると、生産の改善や営業手法を刷新し、新しい商材と顧客を開拓し、減収減益となっていた製材部門を立て直すことに成功した。

しかし房国が本当にどうにかしたかったのは林業部門だった。物心着く前から祖父に連れられて行っていた森林には人一倍愛着があった。しかし現在の林業界は原木価格を交渉する力はなく、ただその時の相場で原木が売られていく。安すぎる原木の売価に対して超過する経費は国や自治体の補助金で埋められていく。設備投資で最新の林業機械を入れても目に見える収益の改善はなかなかできないし、全職業の中で最も危険な仕事とされる職場にはなかなか若者は入ってこない悪循環にある。

また、林業経営に関して本来なら一番の主役であるはずの森林所有者は高齢化や世代替わりをして関心を失いつつある。そんなに森林に関心がないのであれば開き直って他の用途を探ればいいようなものだが、田舎の悪い体質なのか、外部からの人の流入を異常なほど嫌う。房国はそんな閉鎖的でただ補助金で生き延びているだけのような林業をどうにかしたかった。

「林業従事者は自分たちの仕事に誇りを持っているし、先祖から受け継いだ森林を大事にしたい気持ちも分かるけど、要はプレーヤーが全然足りていないんだ」

ソロキャンプブームの到来。しかし「これ以上山林や田舎を弄んでほしくない」という想いも

そんな思いを抱えていた2020年6月。コロナで暇を持て余していた房国の目に、たまたまお笑い芸人ヒロシのキャンプ動画が留まった。誰にも気を遣うことなく気ままに過ごすソロキャンプ、自然そのものを楽しむワイルドキャンプ。キャンプ場で家族や友達とするキャンプする従来のイメージとは全く違うものだ。調べてみるとそんなキャンプに共感した多くの人が、自分だけのキャンプ地として使うために各地の山林を買っているという。それを知った房国には不安がよぎった。

「だってキャンプ用に山林を買うって、飽きたらまた売るってことでしょ。でも山林は簡単に売れないし、売れないとしたら放置されてしまう。これを機会に山林を売りたい人は沢山いるんだろうけど、森林を持っているということにもっと誇りを持ってほしかったんだ」

シュヴァルツヴァルトの森の中で余暇を楽しむドイツ人の姿を見て、「やってみよう」と思った

一方で森林に多くの一般市民が来たがっている事を房国は歓迎していた。2015年にドイツのシュヴァルツヴァルトを視察した時に、週末になると森の中で友達や家族と自由に余暇を楽しむドイツ人の姿を見て、こんな光景は日本では見たことがないな、と羨ましく思った。日本にはそんな文化も習慣も仕組みもない。しかしコロナ禍でアウトドアがブームになりつつある今ならそれが可能かもしれない。山林は売ってほしくない、でも人は来てほしい。その二つの思いを解決するには「山林をレンタルすればいいじゃん」房国は単純にそう思った。思えばこれほど単純なことはない。当然すでに誰かがやっているだろうとネットで検索するもそんなサービスは一つも見つからなかった。

「じゃあ自分でやってみようと思ったんだ。コロナで暇だったしね。でも、ちょっとした小遣い稼ぎ程度にしか考えていなかったよ」と房国は笑う。

このサービスを「森林レンタルサービスforenta」と名付け、弟と相談して会社の所有林の中から交通量の少ない県道沿いの比較的平坦な場所を見つけると、そこを300坪ずつに区切って年間6万円で貸すことにした。「300坪っていう面積も6万円っていう料金もほとんど思いつき。300坪は山林用語でいう1反歩でキリがいいし、料金も月5000円くらいがお手頃かなって思っただけなんだ」と房国は振り返る。さっそく杭を打って区画を作っていき、11区画を用意した。

サービスや会社をどう認知してもらうか。プレスリリースと、Youtubeの活用を始めた

forentaのロゴマークも自作した。あとはどう宣伝するかだ。この今までにないサービスをいかに世の中に認知してもらうかが最初の課題だった。まず房国はこのサービスをプレスリリースしようと思った。それには以前友人から聞いていた「PR TIMES」というリリースサイトを使ってみたいと思っていた。

房国にはもう一つ作戦があった。ユーチューバーに協力してもらう、というものだ。「そもそもソロキャンプやワイルドキャンプについて知ったのがYoutubeだったからね。そういう人たちにピンポイントにアピールするためにはユーチューバーに協力してもらった方がいいと考えたんだ」。しかしユーチューバーに知り合いがいるわけではない。何人かの人が勧めてくれた「さばいどる かほなん」に連絡することにした。房国はスペシャルアドバイザーとしてforentaに協力してほしいと事務所に打診し、かほなんは快く引き受けてくれた。

サービスのスキームを考え、現地を準備し、書類関係を作成し、ウェブサイトを作って、PR方法も考えた。ここまで約3ヶ月。傍目にも異例のスピードだったろう。しかしこの時点でも房国はこれがビジネスになるとは思っていなかったし、ビジネスにするつもりもなかった。彼には自分の会社の仕事もあるし、組合や団体の経営もある。趣味も多彩だからあまり家にいることもない。あくまでforentaは暇つぶしであり、小遣い稼ぎであり、遊びの延長に過ぎなかった。だからサービスの内容も利用者の自主管理、自己責任を基本としていた。

そこにあるのはありのままの森林だけ。用意した11区画を埋めてくれる11人の物好きな人がこの東海地方にいてくれればいい、房国にはそれくらいの気持ちしかなかったのだ。

ウェブサイト公開と、プレスリリースの配信。すぐに取材がひっきりなしに入り、最初の顧客を獲得した

2020年11月1日。ついにforentaのウェブサイトがアップされ、同時にPR TIMESを通じてテレビ、新聞、ラジオ、雑誌、ネットニュース、ネット記事にサービス開始をプレスリリースした。『日本初キャンパー向け森林レンタルサービスforentaスタート!』。アウトドアが大ブームとなって以降、ネットにはアウトドアに関するトピックを扱うウェブサイトがどんどん増えていた。そのようなサイトにとって各地のファミリーキャンプ場が混み合う中、自分専用のキャンプ場所を確保できるという朗報を報じないわけにはいかない。ネット上でこの話題はすぐに広まり、追加取材がひっきりなしに入るようになった。そして、それに連動するように利用希望の申し込みが入り始めた。

今でもforentaでは新しい区画が出来ると、利用者を募集するエントリー期間を設けて、そこにエントリーした人を対象に合同内覧会を実施し利用者を決定している。先着順だと何かと不公平だし、混乱を招くかもしれないからだ。このやり方は第1回目の募集の時から変わっておらず、この時の募集期間は11月1日から12月15日までの1ヶ月半だった。しかし、いきなり大きな誤算に直面してしまうことになる。11月1日にforentaを発表して、わずか1週間でエントリーが100組を超えてしまったのだ。

これだけでもすでに想定外な上、この1週間後には「さばいどる かほなん」の動画がアップされる予定になっていた。「これはとんでもないことになるかもしれない」エントリーをしてくれた人、一人一人に内覧会の案内を書いた返信メールを送りながら房国は焦り始めていた。まずは急いで山に行き、可能な限り区画を増やそうとしたが、それでも6区画を増やすのが精一杯だった。さらに募集期間を短縮し11月末までの1ヶ月とした。あと出来ることといったら…「もうこれ以上エントリーがありませんように」とひたすら祈るのみだった。

440組のエントリー、倍率25倍。どうやって案内するかを考えた

11月30日にやっとエントリーを締め切ることができた。最終的なエントリー数は440組。17区画の募集に対して実に25倍もの倍率になってしまった。エントリーが増えすぎて困るのは合同内覧会を予定していたからだ。エントリーした人に実際に現地に足を運んでもらい、自分の目でちゃんと現地を確認してもらうことで契約後のクレームを避けたかった。

しかし、この人数をどうやって駐車場もろくにない山に来てもらい、案内するのか。

とりあえず村の管理する公園の駐車場を貸りるように話をつけ、そこに内覧者の車を置き、地元の旅館から借りてきたマイクロバスで山の中にピストン輸送することにした。現地では15人〜20人単位で班分けし、それぞれの班に山共のスタッフが一人ずつ付いて観光地を巡るバスガイドのように歩きながら区画を1箇所ずつ説明していった。ただ歩くだけでも1時間、しかもアップダウンのある山道。これを山共スタッフは二日間にわたって何度も何度も繰り返した。

受付スタッフも大変だった。コロナ禍であるため、一人一人検温や健康状態のチェックをしなければいけない。時間までに集合場所に来ない人には一人一人連絡し参加の有無を確認した。バスは参加者を下ろすたびに車内を消毒した。

怒涛のような2日間をスタッフ全員でなんとか無事に終え、オフィスに戻った後、内覧会に来てくれた人を対象に抽選を行い、晴れて17人の利用者が決定した。そしてその月末には17人が支払った100万円以上のお金が通帳に振り込まれたのである。

想定外のことが数々あったが、倍率25倍ものエントリーがあったことは紛れもない事実だ。この分野には潜在的な顧客がまだまだたくさんいる。房国はその大きな可能性を目の当たりにしてこれをしっかりとしたビジネスにしようと決心した。と同時に、これは今まで苦しみ続けてきた林業界に一つの希望の光をもたらすことになるかもしれないと思った。今まで大事に育ててきた木を維持し、普段の仕事をしながら新たに収入を得る方法。これからより必要とされていく自然や高まる環境意識。自分の持っているものを他人と共有することで見えてきた新しい林業や田舎のあり方…。「同じように森林経営で悩んでいる森林所有者や林業関係者に、ぜひノウハウを伝えたい」フランチャイズによるforentaの全国展開を房国は思い描き始めていた。

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