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世界が熱望する和牛 「尾崎牛」飼育の秘密【ファームジャーニー:宮崎市】

連載企画:ファームジャーニー

世界が熱望する和牛 「尾崎牛」飼育の秘密【ファームジャーニー:宮崎市】

幻の和牛と呼ばれ、数々の一流店が注目しているのが、尾崎牛です。生産地名ではなく、作り手である尾崎宗春さんの名前がついた噂のブランド牛の飼育法とは、一体どのようなものなのでしょうか。毎日食べてもしつこくなく、次の日もまた食べたくなるような尾崎牛の秘密に迫ります。

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世界が熱望する和牛「尾崎牛」飼育の秘密【ファームジャーニー:宮崎市】

最高の和牛と評される「尾崎牛」。日本の一流店では、その他有名ブランド牛を上回るほどの人気を誇るとか。ジューシーなうまみのあるやわらかい赤身が特長で、国内のみならず噂を聞きつけたパリの三ツ星レストランなど、世界からの注文も絶えません。

そんな尾崎牛には、生産地名ではなくウシを育てた「尾崎宗春(おざきむねはる)」さんの個人名が付けられています。「ワインだって作り手の名前が記されています。生産地名がブランド名になるのは、作り手として無責任です」と語る尾崎さんに、尾崎牛が国内外のトップシェフたちに愛される理由をお聞きました。

水源豊かな宮崎の地と最高のエサで育てられる尾崎牛

水源豊かな宮崎の地と最高のエサで育てられる尾崎牛

尾崎さんの牧場は、かねてより肉用牛の子牛の生産が盛んな宮崎市にあります。現在は、5ヘクタールの敷地で和牛肥育牛1,400頭を飼育中です。

「宮崎は一年中温暖で雨が多く、ちょっと目を離すと牧場に草が生い茂ります。敏感なウシたちはカルキ臭を嫌って水道水を飲まないため、牧場の水は自然のわき水を汲んでいます。宮崎の雨は日向灘の上にできる雲からの恵みの雨で、汚染物質が少ないのです。豊富な天然水は牧草にも牛にも最適。宮崎の中で3回の移転を経て、現在の最高の牧場を見つけました」

尾崎牛とその他の肉用牛で最も違うところは、オリジナルのエサにある、と尾崎さんは言います。

尾崎牛とその他の肉用牛で最も違うところは、オリジナルのエサにある

「エサ作りは20年かけて研究しました。ビールのしぼり粕を中心に、トウモロコシ、きなこ、海草粉末など12種類の飼料をブレンドしています。ビールのしぼり粕に入っているホップや、海藻粉末のアルギニン酸。これらがウシの血管を丈夫にするので、体の末端までビタミンやミネラルが行き届くようになります」

エサは毎日ブレンドし、毎日同じ時間に新鮮な状態でウシに与えます。理由は、飼料に防腐剤や抗生物質を使わないため。そして、肉の味を一定にするためです。

「尾崎牛は、うまみを出すためにウシを長く育てます。ウシの加齢を、老化ではなく完熟へと導くためには、ウシが健康であることが大切です。また、肉のうまみは脂のうまみで決まります。脂の量を一定にしておかないと、味を比較できません。ウシの健康も肉のおいしさも、エサの内容で決まります」

尾崎さん同様、自家配合のエサでウシを飼育する方も多いそうですが、尾崎牛にかなう肉は現れないと言います。

365日、毎日尾崎牛を食べて、味を確認

365日、毎日尾崎牛を食べて、味を確認

「自分が食べて感動しない肉で、他人を満足させることなんてできないでしょう」

尾崎さんは、エサの研究以前に、自分が育てたウシの肉を食べて味を確かめることの大切さを指摘します。宮崎市内には、尾崎牛を食べることができるレストランが8軒あり、1軒ずつ順番にお店をまわって毎日食べています。

「尾崎牛の味を確認しつつ、贔屓にしてくれる店主へ謝意を伝えるためです。そしてこれが重要なのですが、尾崎牛をどんな方がどのように食べているのかを知るためです。どんな肉がどんな方に好まれるかいつも観察しているので、赤身肉のブームが来ることも、いち早く予測していました。ですから、霜降り肉を早々にフランスに持って行ったんです。ヨーロッパの人は脂が大好きですから」

こうして研究を重ねている尾崎さんの夕食が終わるのは毎晩24時。24時半には牧場に戻り、牛舎を一回りして25時半に就寝する毎日を送っています。翌朝は4時半に起床、5時から18時まで仕事をしているそう。だからこそ、毎日食べる尾崎牛がパワーの源であることは間違いないようです。

“生きながら熟成させる”飼育法

尾崎牛が目指すのは、「毎日食べてもしつこくなく、次の日もまた食べたくなるような牛肉」。そのための飼育法にも、独自の手法がとられていました。

「通常のウシは、27カ月間育てて、700キロになってから出荷するのが普通です。しかし尾崎牛は、それよりも5か月間ほど長く育てています。尾崎牛は毎日10キロのエサを食べますが、長く育てていくと、エサの量が9キロ、8キロと減っていきます。5キロまで減ったら出荷のタイミングです。5キロのエサは700キロの体を維持するのに必要なカロリー。それ以上量が減ると、脂肪がエネルギー源となって代謝されるようになります。私はそれを『ウシが下がっていく』と表現しますが、そうすると脂肪分が少なくなり肉の味が落ちていくのです。だから、長く育てたウシがすべておいしいとは限りません」

飼育期間ではなく、ベストな体重と脂肪量を見極めることが最も重要なのです。

「最近は熟成肉が人気ですが、尾崎牛は生きながらにして熟成していると言えます。通常よりも長く育て、食べるエサの量が減って行き、『もうこれ以上食べられません、ごちそうさま』とウシが言ったそのときこそ、ウシ自体が完熟を迎えたサインなのです」

尾崎さん曰く、「屠畜した後の肉をわざわざ熟成させるのはナンセンス」なのだそうです。

ウシの能力を見極め、最大限発揮させるのが仕事

“生きながら熟成させる”飼育法

熟成肉のようなうまみを持つ尾崎牛を育てるためには、子牛の段階での目利きも重要だとか。

「毎月40頭の子牛を買いますが、40頭が持つ能力はそれぞれ違います。子牛の段階でそのウシが大きくなったとき、どのくらいの点数をとれるようになるか最高点を見極めます。満点を取るウシに育つ子牛もいれば、どんなに頑張っても低い点の子牛もいる。その子牛の持つ能力を見極め、最大限引き出すこと。そのための独自のエサや飼育法であり、それを完璧に行うのが私の仕事です」

尾崎牛がブランドたる理由は、オリジナリティと品質

尾崎さんが育て上げた尾崎牛が、世界に認められるブランド牛にまで上り詰めた理由。それは、尾崎牛に惚れ込んだサポーターのおかげでもあります。

「尾崎牛の宣伝は一切していません。尾崎牛を食べておいしいと思った方が広めてくれたのです。仲間たちが世界各国で営業窓口をしてくれています。東京、ヨーロッパ、ドバイ、フィリピンなど各地に担当がおり、自らサポーターを名乗り出てくれました。また、2017年の末から南米のアルゼンチン、チリ、ブラジルを周り、翌年はアフリカへ進出する予定です。私は今57歳ですから、還暦まであと3年間。それまでに世界200カ国の方に尾崎牛を食べてもらう計画を立てています」

尾崎牛のサポーターの存在や世界中からの評価も、すべては「尾崎牛が唯一無二のブランドだから」だと尾崎さんは言います。

「ブランドという言葉は、ウシを区別するために尻に焼きごてで印をつけることが語源とされています。ブランドとは、ウシ一頭一頭に焼印をするように、個人名につくべきものです。世界中のどこにもないオリジナルを作ることができれば、ブランドになります」

ブランドを名乗ることは、商品の品質を保証することでもあります。尾崎牛のおいしさと安全、一定のクオリティ。尾崎さんはブランドを守るために、今日も牛舎と世界を飛び回っています。

尾崎牛
※写真提供:尾崎宗春さん

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