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【第3回】福島から見つめる日本の農業のあり方・がんばろう福島、農業者等の会代表齊藤登さんインタビュー

【第3回】福島から見つめる日本の農業のあり方・がんばろう福島、農業者等の会代表齊藤登さんインタビュー

福島県二本松市でキュウリや米を生産する齊藤登(さいとうのぼる)さん。自分の野菜を作って販売するだけでなく「NPO法人がんばろう福島、農業者等の会」にて福島県内の多数の農家を結んでいます。東日本大震災を経験し、福島県産の野菜や果物に逆風が吹く中で見えてきた、日本の農業のあるべき形とは。齊藤さんのストーリーを全3回でお送りします。

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福島県二本松市でキュウリや米を生産する齊藤登(さいとうのぼる)さん。自分の野菜を作って販売するだけでなく「NPO法人がんばろう福島、農業者等の会」にて福島県内の多数の農家を結んでいます。東日本大震災を経験し、福島県産の野菜や果物に逆風が吹く中で見えてきた、日本の農業のあるべき形とは。齊藤さんのストーリーを全3回でお送りします。

ー東日本大震災から6年。様々なことがあったかと思いますが、現在の状況を教えてください。

*インタビューは2017年7月

ネットショップは、一度売上が激減したあと持ち直して安定しています。現在は会員が5,000人ほどで、500人くらいの方は6年間継続して買ってくれています。ありがたいことです。仲間の農家の野菜もセットで販売しているので、みんなそれで収入を得ています。

自分の農園で米やキュウリ作りもしていますが、それ以上に仲間の野菜を販売しています。「がんばろう福島、農業者等の会」というNPO法人を作り、50の農家や加工会社と協力しながら、福島県産の食品を消費者に届けています。

農業者同士が協力して出荷する取り組みは、日本中にありますが、福島県という大きな枠組みで、地域を越えてやっているところは他ではあまり聞いたことがありません。まるで商社みたいです。

農家の人たちには、おいしくて安全なものをつくることに専念してもらい、私は都会の人ともっとたくさん繋がって、販売先を広げていけたらと考えています。仲間からの期待が大きいので、通販やマルシェでの販売以外にも、色々と試行錯誤しています。

ー具体的には、どのような取り組みをされているのでしょうか。

例えば、東京のある企業と提携して「ワンコイン販売」という取り組みを続けています。これは、企業に勤める人に毎月500円支払ってもらい、旬の野菜や果物をお届けする仕組みです。7月だと、モモを3つ程度送ったりしています。勤めている人にとっては、毎月新鮮なものをお得に食べられますし、給料から天引きする方法もあるので面倒がありません。私たちからすれば配送が一括で済みますし、毎月安定して販売先があるというのは、本当にありがたいことです。お互い負担なくできるのがポイントで、細く長くつながってくことが大切だと思います。

このような仕組みは、福島県だけでなく、日本の農業全体に必要だと感じます。農家の受け皿というか、お客様が農作物を買い、農家の収入に繋がる仕組みは不可欠です。いくら買ってほしいと思っても、お客様がどこで買えばいいのか分からなければ意味がありません。

消費者と繋がる仕組みについては、常に考え続けなければと思います。原発事故の影響で試行錯誤し、苦し紛れにできたシステムかもしれませんが、日本の農業全体に活かせるヒントがあるのではないかと、漠然と思っています。

農家だって人間です。農家はいい人で、どんな状態でも丹精込めて作物を作り続けるかと言ったら、そんなわけではありません。辛い時だってありますし、儲からなくても農業を続けたいと思うわけでもありません。しっかりと稼げる仕組みがなければ後継者がいないのも当たり前。農業はビジネスです。ビジネスであるからこそ、人と同じことだけをやっていたらだめです。社会動向や消費者の心理がどういう動きをするかを考えて行動する。読みが当たれば嬉しいですが、当たらないことも多いので、先を見据えて、常に先手を打っていく状況が変わっていく中で、うまくいく仕組みを見つけるのです。

ー新しいチャレンジをすることでしか道は拓かれないと。様々な活動をする中で、課題に感じていることはありますか。

課題は山積みです。原発事故から6年経ちましたが、山菜や天然のキノコ、タケノコは未だに放射能が基準値より多く検出されるので、出荷できません。肥料の入手も困難になりました。もともとは山の葉を有機肥料にしていたのですが、放射能汚染で手に入らなくなりました。牛糞の有機肥料も同様で、震災以降、牛飼いの数はかなり減少したので、仕入れづらくなりました。震災の影響は、生産プロセスのいたるところに影を落としています。

それ以上に、福島県の米は放射能汚染されているという印象がいまだに根強く残しており、全体で見れば苦しい状況が続いています。福島県では、年間30キロの米袋が1,100万袋ほど出荷されています。そのうち、基準値(100ベクレル/1キロ)を超えたものは一つもありません。さらに言えば、75ベクレル/1キロの超えたものもありません。つまり、理論値で言えば、完全に放射能汚染がないわけです。

それでも、都心で福島県産の米を見かける機会は、震災前と比べて明らかに少なくなっていると思います。小売店からすると、6年間仕入が途絶えた福島県産のお米をあえて仕入れる必要がないからです。結局、業務用として買い叩かれ、白米として消費者の元には届きません。実際、ある大手コンビニチェーンのおにぎりの米は、福島県産の米が利用されていますが、消費者の方にはあまり知られていません。

これこそ風評被害だと感じています。他にも、福島県産のキノコは全てダメだと思う方もいらっしゃいますが、ハウスで作られたものであれば問題ありませんし、出荷するものはきちんと検査をしています。

ー理論上は問題がなくとも、ブランドが毀損されてしまったということでしょうか。風評被害を乗り越えるためにできることは何があるのでしょうか。

消費者に真実を知っていただくために、私が東京に赴いて販売をするだけではなく、都会の人に福島県に来てもらうための取り組みにも注力しています。2017年は1,200人ほどの人がツアーに来てくれる予定です。二本松農園の「里山ガーデンファーム」に来ていただき、実際の放射線レベルや、どうして野菜から放射能が検出されないのか、体験しながら正しい知識を身につけていただきたいです。

一方で、土の放射能のレベルが2,000ベクレル/1キロ程度であるものの、高い数値であることは事実です。簡単に除去できるものではありません。作業中に粉塵を取り込む可能性がある農業従事者の内部被曝は問題です。納豆菌を活用して土壌の浄化を行う取り組みなどにチャレンジしていますが、今後引き続き取り組むべき課題だと認識しています。

ー消費者に「知ってもらうこと」が重要だと感じます。今後、日本の農業が持続していくために、消費者はどのような関わり方ができるのでしょうか。

一般の方は普段から農業について考えることはあまりないでしょうから、各々がライフスタイルを考えることから始まると思います。都会に住みながら土日だけは田舎に行って農業体験をしてみるとか、地方に移住してリモートで働くなど、自分なりに理想の生活を描く。その中で、食とどう関わりたいかが見えてきて、自ずと農業とも繋がると思います。

個人的には、食料不足のリスクを回避する意味でも、生産者と繋がることは大切だと思います。震災が起きた時、大手の流通は一気に止まり、首都圏では食べ物が手に入りづらくなったと思います。日本で暮らしている以上、大型地震は避けられません。また、突然外国から食べ物が輸入されなくなるリスクもあります。その時、自分はどうするのかを、考えてみてほしいのです。

農協や生協のように、大量に安定供給できるシステムはもちろん重要ですが、個人で繋がる「直接顔の見える関係」も重要になってきます。直接食べ物を送ってもらえたり、場合によっては疎開できたりするような関係性があることが、安心感に繋がるのではないでしょうか。

私がこれまで作り上げてきたのは、そういう人と人の循環の仕組みなのかもしれません。農業者同士の循環、地域の循環、福島県内の循環、福島県と首都圏の循環、日本全国との循環、外国との循環など、様々な大きさの循環をつくり有機的に繋いでいく。もしかしたら、これこそが農業を始めると決めた時に最初に目指した、新しい農業のカタチなのかもしれません。

大変なことはたくさんありますが、私は幸せです。仲間が、野菜や果物を二本松農園に持ってきてくれる。「二本松農園が買ってくれるから、諦めずに作ってるんだ」と言ってもらえる。こんな幸せなことはないですよ。これからも、福島県の農家仲間のため、日本の農業を持続可能にするため、新しい挑戦を続けていきます。

【第1回】福島から見つめる日本の農業のあり方・がんばろう福島、<br />農業者等の会代表齊藤登さんインタビュー

【第2回】福島から見つめる日本の農業のあり方・がんばろう福島、農業者等の会代表齊藤登さんインタビュー

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