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五島列島・新上五島町 「ムギ部」の挑戦

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島の小麦で島特産の五島うどんを
五島列島・新上五島町 「ムギ部」の挑戦

島の小麦で島特産の五島うどんを<br/>五島列島・新上五島町 「ムギ部」の挑戦

2017年08月01日

「島で育てた小麦で、島特産の五島うどんを作りたい」との夢から「ムギ部」立ち上げた新上五島町の竹内紗苗(たけうちさなえ)さんに話をうかがいました。

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こがね色に染まった段々畑

長崎県・五島列島の北部にある新上五島町(しんかみごとうちょう)。東シナ海を望む段々畑の一角が20175月、まぶしいくらい見事なこがね色に染まりました。豊かに実をつけた小麦の穂が潮風になびき、サラサラと乾いた音が響きます。

その光景を感慨深く見つめていた女性には、ある夢がありました。

「島で育てた小麦で、島特産の五島うどんを作りたい」

「ムギ部」発足

20169月。インターネット上に、あるブログが公開されました。

タイトルは「ムギ部」。立ち上げたのは、新上五島町の竹内紗苗(たけうちさなえ)さん(32)です。

紗苗さんは2年前、自分にとって縁もない上五島に、夫の章(あきら)さん(42)と一緒に移住しました。夫婦はもともと新聞記者。結婚後、仕事に追われるなか自分らしい生き方を話し合った結果、一緒に新聞社を辞め五島列島へ移り住みました。二人とも町の非常勤嘱託職員「地域おこし協力隊」として、情報発信や観光などのまちおこし活動を手掛けています。

五島うどんに魅せられて

新上五島を代表する特産品に「五島うどん」があります。日本三大うどんのひとつに数えられることもある逸品。離島という特殊な環境でつくられ、昔は島外にはあまり流通しなかったことから「まぼろしのうどん」とも呼ばれていました。

九州西端に位置する五島列島は、遣唐使の寄港地だったことでも知られています。遣唐使は大陸からさまざまな文化を日本に持ち込みましたが、その中に現在のうどんの原型となる手延べ麺も含まれ、それが寄港先の五島にも伝わったとされます。

人口約2万人の新上五島には現在、30ヶ所ほどのうどんの製麺所があります。ですが、ほとんどが家内工業的な規模で、高齢化や担い手不足が深刻。歴史ある手延べ五島うどんの技術伝承も先行きが見通せません。

そんな現状を背景に、紗苗さんは何らかの形で手延べうどんの技術を伝える一助となれないか、と島の職人からうどん作りを学び始めました。元来、器用ではない紗苗さん。シンプルなようでとても奥が深く繊細なうどん作りに悪戦苦闘します。朝寝坊して作業に遅れたり、失敗して怒られたり、時にはなかなかの出来栄えに自信を深めたり。泣き笑いの日々を送るうち、ある思いが芽生えました。

それが、島で育てた小麦で五島うどんを作りたい、という夢です。

島のお年寄りに聞くと、昔は島のあちこちで小麦が育てられていたそうです。ですが、いまは生産者もほとんどおらず、島産の小麦が流通することはありません。島の特産品であるうどんだからこそ、島で採れた原料で作りたい。できれば荒れ果てた段々畑の再生にも貢献したい。そんな願いを胸に、紗苗さんは走り出しました。

ムギ部始動 そしてついに小麦を収穫

小麦を育てる場所として選んだのは、五島うどん発祥の地と伝えられる船崎地区。雑草が伸び放題だった耕作放棄地の段々畑約100平方メートルを、紗苗さんの思いに賛同した地元の方が無償提供しました。

ですが、紗苗さんに農業経験はありません。「素人なのに、何ができるの」「小麦粉なんて買った方が安い」「上五島産の小麦で五島うどんって、できるものならみんなやってるよ」などと、冗談交じりとはいえ、いろいろな声があったのも事実です。「確かにその通りなんですが、どうしてもやりたかったんです」と紗苗さんは当時を振り返ります。

20169月、まずは荒れ果てた段々畑の草刈りと畑づくりに着手。希望に満ちた第一歩でしたが、太い根が地中深くに伸びていたり、雑草除けの金網や土を覆うためのビニールが土中に埋まっていたりして、作業は難航します。思いが先走り畑は借りたものの、道具も人手も足りず作業は思うように進みません。

困った紗苗さんは、思いきってブログ「ムギ部」を立ち上げ、ソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)を活用し、作業を手伝ってくれる「部員」を募集。SNSで本当に人が集まってくれるのか不安でしたが、次の草刈りには呼びかけに応じた7人もの部員が駆けつけてくれました。

7人は大活躍。女性陣はテキパキと草を刈り、男性陣は大きな根を次々と掘り起こします。地中に埋まっていた「難敵」の金網を、みんなで力を合わせ引きはがしたときは歓声が沸き起こりました。荒れ果てていた耕作放棄地が、見違えるような「畑」に生まれ変わります。

その後、12月には無事に種をまき、12月は芽を足で踏むことで根の張りをよくする「麦踏み」を行いました。春には膨らみ始めた実を野鳥から守る対策を施し、5月末にはついにこがね色に実った小麦を収穫することができました。

はじめて収穫できた小麦粉はわずか約10キロですが、作業を手伝ってくれた人々の思いが込もっていて、ずっしりとした重みがあります。製粉も無事に済み、いずれ五島うどんになる小麦粉ができあがりました。

広がりをみせた人の輪

ムギ部の活動には、子どもから大人まで、そして地元の人からIターン者まで、さまざまな島民がいろいろな形で参加しました。

「畑仕事はできないけれど」とクワだけ持ってきた女性。飲み物を大量に差し入れてくれた役場の職員。ふらりと畑に現れ、黙々と作業を手伝い、いつの間にか帰っていった地元のおじさん。全力で取り組む紗苗さんの姿は共感を呼びました。

小麦が育って活動成果が目に見えてくると、地域の関心も次第に高まってきました。「畑が余っているから小麦作っていいよ」「一日ぐらいなら開墾を手伝ってもいい」「私があと10歳若かったら、あなたと一緒にいろいろなことができたのに」「ここで作った小麦粉で、うどんを作りたいとずっと思っていた」――。いろいろな言葉をかけられるようにもなりました。メディアも注目し、ムギ部が新聞やラジオに取り上げられたこともありました。

「ワクワクするような場所を提供したい」

離島は、何と言っても漁業が基幹産業です。農業への意識は相対的に低くなりがちで、新上五島も例外ではありません。Iターン者が離島で麦作り。容易な取り組みではありませんが、紗苗さんが一人で始めた活動は、少しずつ人の輪を広げました。口だけでなく、実際に汗を流し行動する熱意が、人を動かしました。

ムギ部に何度も参加した地元の大崎五月(おおさきさつき)さん(40)は言います。「紗苗さんのエネルギーがすごく、応援したくなりました。紗苗さんを見ていて、私も何かに挑戦したい、と触発された人も多いのではないでしょうか」

来年は、栽培面積をもう少し増やしたいと意気込む紗苗さんが、ムギ部の活動を振り返りました。

「この活動が、地元の人や町に、いったいどれだけの価値があるのか、はっきり言って分かりません。ただのにぎやかしでしかないのかもしれない。けれど、すぐ結果は出なくても、この活動には見えない価値があると信じたいです。なんだかワクワクするような場所を提供し続けたいと思います」

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