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捨てる摘果を使った新たな可能性。加工専売品による利益の改善を。

捨てる摘果を使った新たな可能性。加工専売品による利益の改善を。

森山さんが考える、リンゴ農家の未来について、全3回でお送りします。第2回は、加工品の必要性を強く感じたエピソードや、実際に作っている商品についてお届けします。

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日本のリンゴ生産方法発祥の地で知られる青森県弘前市。その地で先祖代々続くリンゴ農園を経営する森山聡彦(もりやまとしひこ)さん。リンゴの生産プロセスを可視化するためのツール「ADAM(アダム)」の開発や、加工専売品の生産に取り組んでいます。森山さんが考える、リンゴ農家の未来について、全3回でお送りします。第2回は、加工品の必要性を強く感じたエピソードや、実際に作っている商品についてお届けします。

加工品の可能性

リンゴ農家の経営を改善するために、加工専用品を作ることが重要だと考えています。ほとんどの農家は、基本的に生で販売するためにリンゴを作り、見た目が悪かったり傷がついて農協に出せないものだけを加工用に回します。私たちもリンゴジュースを作っていました。しかし、加工用は買取価格は低く、生で販売するためにかけた生産コストに見合いません。「ゼロよりはましだから販売する」といった雰囲気さえあります。

そう聞くと、加工品では儲からないように聞こえますが、はじめから加工用に作れば生産コストを下げられます。リンゴの場合、味だけではなく見た目を良くするために行う作業がいくつかあります。例えば、リンゴをまんべんなく赤くするために余計な葉を取る作業がありますが、加工用であれば必要ありません。この作業をなくすと約3割のコストをカットでき、加工用に販売しても若干の黒字が見込めます。

丹精込めて作ったリンゴが全く売れない

加工専用品を作らなければと本気で感じたのは、雹害(ひょうがい)でリンゴが全部やられてしまった年のことです。6月の雹害により、ほとんどの実に傷がついてしまいました。大きな傷があるリンゴは農協に出荷できません。それでも、業界主導で「諦めないで頑張ろう」という趣旨のキャンペーンが行われ、例年と同じように丹精込めて作りました。

その結果、傷がついているとはいえ、味はほとんど変わらないリンゴができました。しかし、規格外ということで、農協には買ってもらえませんでした。結果、ほとんどを加工用に回すことになり、20キロ入りのリンゴ箱が1箱50円にしかなりませんでした。しかも、同じ境遇のリンゴ農家が多すぎて、加工会社も仕入れを制限し、大量の余ったリンゴが周囲に捨てられるような状況でした。

本当は、雹害によって実に傷がついた時に、無駄なコストをかけないために生産をやめればよかったのです。

この一件で、それまでと同じやり方をしていたら、リスクが大き過ぎて、法人として継続させるのは難しいと痛感しました。雹害や台風などの自然災害からは逃れられません。しかし、もりやま園のように人手を借りなければならない規模の法人では、従業員の給料が支払えなくなってしまえば潰れてしまいます。法人としてやる以上は、何かしらリスクを回避する工夫が必要だと感じました。

捨てられる「摘果」を使った取り組み

加工専売品を作ろうと考え始めた矢先、知人から「無農薬の摘果したリンゴで未熟果ジュースを作りたい」という話をもらいました。摘果とは、リンゴの実が小さい時期に、大きくなりそうな実に栄養を集中させるため、他の実をもぐ作業です。大きくて形がいいりんごを残すため、なんと樹上の約9割の実が捨てられます。

加工専用品というだけでなく、無駄になっているもので価値を生みだせるのが非常に魅力的でした。早速、1.5ヘクタールほど無農薬で育ててみることにしました。

しかし、この取り組みはうまく行かず、最初の年で終わりにしました。確かに未熟果ジュース用の摘果リンゴは収穫できても、無農薬では病害虫の被害が抑えられず、成熟果の商品価値はなくなってしまいました。周りの農家にも病害虫が蔓延し、迷惑がかかるので、続けるのは断念しました。

もともと、有機肥料を使っていましたし、有機JAS認定レベルの生産方法にすることはできましたが、当時のビジネスパートナーは完全無農薬にこだわっていて、お別れすることになりました。

 

その後も残った加工専売品のアイデア

一方で、「摘果を使って加工品を作る」という発想をもとに、摘果でシードル(リンゴ酒)を作る研究を始めました。以前は、摘果作業をする前に農薬散布を行っており、摘果作業をする段階では農薬が残っていて使用できなかったのですが、農薬以外での防虫対策も組み合わせることで、摘果作業の段階で農薬基準を満たした実が取れるようになりました。

摘果を使ったシードルの研究は進み、醸造所の建設も始まりました。2017年後半に「テキカカシードル」と名付けて販売開始予定です。

シードルの他に、自社の加工場で干しリンゴも作っています。リンゴをカットして干すだけのシンプルなものですが、なるべく生のリンゴの味が残るようにこだわっています。一般的には、作業効率を優先し、変色を防ぐために、乾燥前に一度に大量にカットしたリンゴを塩水にさらします。しかし、水にさらすとリンゴの旨味が抜けてしまいます。もりやま園の干しリンゴは、切る前に洗浄し、切ってすぐに乾燥させます。そうすることで、生のリンゴに近い濃厚な味の干しリンゴができます。

生でもしっかりと利益の出る品種は生食用として、その他は加工専売品として、生産方法を分けることにしました。そうやって作業時間の内、何を省いて何に集中させるべきか見えるようにし、経営改善のPDCAを回すことが、持続可能なリンゴ農業につながると考えています。

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