前回に引き続き、労務管理について取り上げます。今回は、現在の法令上整備が必要な項目、また業界の今後の流れのなかで、考慮しなければならない項目について解説します。労働条件を整え、書類を整備すること、それによる雇用主側のメリットも見逃せません。
雇用契約書はなぜ必要か
労働基準法は、労働契約の締結に際し、使用者は労働者へ重要な労働条件を書面で明示しなければならないと定めています。実務的には労働条件を明示した雇用契約書を取り交わすことがそれに当たります。
―雇用の際に書面で明示しなくてはならない事項―
①労働契約の期間(期間の定めがない場合は「期間の定めなし」とする)
②就業場所、従事する業務
③始業・終業の時刻、休日、休暇、交代制における就業時転換
④賃金に関する事項(決定、計算、支払い方法、締め切り、支払い時期、昇給)
⑤退職(解雇事由を含む)
関連法:改正パートタイム労働法(2015年4月施行)
改正前のパートタイム労働法は、短時間労働者を雇用する際に、上記①から⑤に加えて「昇給の有無」、「賞与の有無」の三つを明示することが義務付けられていましたが、改正によって「雇用するパートタイム労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」と定められました。今後、パートタイム労働者の雇用管理の改善を図っていくことも必要になると思われます。
関連話題:助成金の申請でも契約書類が必要
働き方の多様化、求人数の低下が社会問題となる昨今、農業会議所や厚生労働省から雇用に関する助成金・奨励金が数多く紹介されています。「正社員として新規採用したい」「正社員にする前に試用してみたい」など、様々な要望に沿うものが用意されています。しかし、これらの制度を使うには、労務管理に関して会社側に求められる条件もあり、法令で定める書類を普段から準備することが必要となります。
例1)『農の雇用事業』(新規就業者に対する研修費用、労働保険量について助成)
必要書類は「雇用契約書」「就業規則などがある。
例2)『トライアル雇用奨励金』(就職が困難な人を試行的に雇用した際に助成)
必要書類は「賃金台帳」「出勤簿」などがある。
年次有給休暇の考え方
労働基準法のなかでも、労働時間、休憩、時間外・休日労働(割増賃金)の規定については、農業・畜産業は適用が除外されていますが、年次有給休暇の規定は適用されています。労働基準法で定められた年次有給休暇は、従業員が6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上の日数を勤務すると取得できることとなっています。
※2012年からの改正により、時間単位での取得が可能となりました。
これは子どもの通院など、スポット的な休暇の需要に対応したもので、経営者としては管理が煩雑となりますが、上手に活用する方法を検討したいところです。
割増賃金は必要か
現在の法律では、時間外労働や休日労働に対し、割増賃金の支給は強制されていませんが、農業の6次産業化推進により、他の産業並みの賃金体系が導入されてゆくのが業界の常識となる可能性はあります。
また、外国人技能実習生制度においても、他産業並みの労働環境を確保するため、基本的には労働関係法令に準拠することとなっています。外国人の雇用が拡大する中で、農業においても、近い将来、割増賃金の概念が当然という時代がやってくるでしょう。
大規模農場も、もともとは家族経営からスタートしています。家族労働者のみの場合や、家事使用人については、労働基準法は適用されないため、経¥経営の規模が大きくなり、外部の人を雇用することになっても、つい今までの流れで、労務管理に意識が向かない経営者もいます。
今後、経営者は労務管理の意識をより強く持つことが必要です。また、いつでも「労使は対等な立場である」ことを忘れてはなりません。
出典:株式会社オーレンス総合経営「がんばれ!経営者」
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