前回は、従業員を雇用する際のポイントを改めて確認しました。今回は「解雇」についての理解を整理します。
経営者の方は「業務態度に問題がある」「いつまでも期待する能力が備わらない」などの理由で、従業員を解雇したいと思うことがしばしばあるかも知れません。しかし、このような解雇理由の場合、裁判に発展するケースがあり、その結果、解雇が認められなかったというケース現実的に多いようです。本稿では、実際に起きた裁判の事例を紹介します。
事例:酒好きの社員Aの勤務態度に問題があり、業務に支障をきたすため、会社がAを解雇したケース
①Aの勤務態度はどうだったのか?
従業員Aは、たびたび酒に酔った状態で出勤し、勤務中に居眠りをしていた。また、酔って、ろれつが回らない状態で取引先に連絡する。勤務時間後に他の従業員に長電話をする。体調不良などの理由で頻繁に休暇を取得するなど、会社の業務に支障をきたしていた。
②Aに対して社長が指導を行う
Aの勤務態度について、他の従業員からだけでなく、取引先からも会社に対して苦情が寄せられていたため、社長が①飲酒を控えること②午後9時以降に他の従業員へ電話をしないこと③勤務中に眠気を感じたら、別室で仮眠をとること、という内容の指導を行った。
③解雇から訴訟に発展
社長から指導があった後も、Aの態度は改まらなかった。そんな矢先に、取引先がAとの打ち合わせで来社した際、Aは無断欠勤した上に、会社から出勤を命じても応じず、打ち合わせが行われなかったという事象が発生した。この件で、取引先がAの解雇を要求し、会社もAに対して退職届の提出を求めたが、Aが拒否したため、就業規則に定める普通解雇事由(※)に該当するとしてAを解雇した。それに対し、Aが解雇は違法として、損害賠償を請求し、訴訟となった。
※普通解雇事由:傷病で業務に耐えられない場合や、欠勤・忠告などの雇用関係を継続しがたい、やむなき問題がある場合に行う解雇のこと
④解雇は違法
この事例はAの一連の勤務態度から「解雇に問題はなく、Aの損害賠償は認められない」という判決が出るものと会社側は判断していた。
しかし、判決は「Aの行動には問題があり、解雇理由にはなるが、本件の解雇は社会通念上、相当として是認できないため、違法である」として、Aの請求が一部認められた結果となった。会社側にはどのような問題があったのだろうか。
⑤問題となった会社の行動
判決ではAの飲酒を要因とした勤務態度により、職場環境などを乱したことは解雇の理由になるが「会社はA自身に問題点を自覚させて、勤務態度を改める機会を与えるべきであったにもかかわらず、それを怠った」ことを問題とした。
⑥会社が与えるべきだった改善の機会
判決に基づく会社がとるべきだった勤務態度を改める機会とは、下記の内容を繰り返し指導することが該当する。
・飲酒癖、深酒によって、勤務態度に問題があることを注意する。
・Aの行為が解雇理由になることをはっきりと警告する。
・懲戒処分や降格など、解雇以外の方法で勤務態度の改善が図られるかどうかを見極める。
これらの指導を実践したにも関わらず、改善が見られずに、やむなく解雇した場合にはその解雇が認められるケースが多い。
今回の事例でわかることは、どのような理由であっても、解雇に至るのは簡単ではないということでしょう。雇用側が解雇に踏み切るまでには、改善の機会を繰り返し与えることが必要とされます。マンパワーと時間、職場の雰囲気など、失われるもの、リスクとなるものが多く、結果的に業務に支障を及ぼします。それだけ、従業員を雇用するといことは、大きな責任を伴うということを年頭に置いて、採用活動を行いましょう。
出典:株式会社オーレンス総合経営「がんばれ!経営者」
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