来たる平成30年、国が定めていた米の生産目標数量配分が撤廃されます。それに伴い、生産目標数量を達成した農家に配布される「米の直接支払交付金」も廃止となります。これが、米の平成30年問題、といわれ話題になっています。また、農家の高齢化やTPPなど、課題が山積みの米業界。これからの時代を迎えるにあたって、米農家はどうしていくべきなのでしょうか。
「米農家が個として頑張るのではなく、地域全体として力を入れることが必要」と語る西島さんに、その理由をうかがいました。
温暖化による天候不順でマニュアル化が困難に。だからこそ地域で協力体制を
「ここ10年は、毎年が異常気象といってもおかしくない状況が続いているため、米栽培のマニュアルが通用しないんです。だからこそ、知恵や経験則を持ち寄って、地域みんなで協力していかなければ成り立ちません」(西島さん)。
台風や集中豪雨など自然災害のリスクも看過できません。2017年夏、九州北部の集中豪雨でも多くの米農家さんが打撃を受けました。
基本的に米作は一期作のため、壊滅的な被害を受けたら収入が得られないばかりか、投資がすべて無駄になってしまい、個人農家の場合は死活問題になってしまうこともあるそうです。
「災害で水田が使い物にならなくなることさえあります。最近は、銀行などから融資を受けて立て直そうとしても、農家さんが高齢で借りられず、そのまま廃業してしまうという話も聞きます」
そのためグループを作ったり、農協に加入したり、地域で協力していける体制を作ることが大切だといいます。
水田継承者の減少は、若者が就農しやすい状況ともいえる
米農家のほとんどは70歳以上と、高齢化が著しく進んでいます。高齢になると耕運機など機械の運転も困難になり、田んぼの継承は喫緊の課題といえます。
しかし逆に考えると、「米農家に就農したいという若者にとっては絶好のチャンス」と西島さんはいいます。最近では、農作業をやってくれる人を探しているという米農家さんが増えていて、水利権(※)なども含め、すべて貸してくれるそうです。
※水利権:河川の流水を排他的に使用できる権利のこと。
「本気で米農家になりたい人は、まず就農したい地域の市役所や農協に相談するのがおすすめです。人材を募集している農家を教えてくれますから。まずは農家の弟子に入って、学びながらやっていくのがスムーズだと思います。
個人で米農家を始めようとするのは、あまりおすすめできません。農業の中でも米は特殊で、水利権などが関わるため、どうしても地域全体でやらなければならないのです」。
また、その土地の気候や風土に合った育て方というものがあり、異常気象でベテランの農家でも苦戦している中、新規就農者が独自に稲作を行うのはなかなか難しいと言います。
「昭和の終わり頃は、個人でやることに価値があったと思います。生産者が若くて勢いがあったから、いいものがたくさんできました。しかし、彼らがみんな歳を取って後継者もいなくなり、昔のやり方はもう通じません。
1日でも早く、一人でも多く技術者を育てなくてはならないと多くの米農家が追い込まれている状況なんです。だからこそ、問題意識の高い地域は、市役所も農協も新規就農希望者にとても親切です」。
若者の米離れ TPP問題などに直面した今、地域ブランド化で競争力を高める必要がある
外食産業では、安い外国産の米でもいいという流れになっているそうです。かつては、「日本の米じゃなきゃダメ」という人が多かったのですが、最近は海外経験がある人も増えており、外国産の米に抵抗がない人も多いといいます。「オーガニックだったら、外国産の方が良い」という人もいるくらいだそうです。
また、2015年の日本人一人あたりの米の消費量は、年間約55キロとなっています。これは、約120キロもあったピーク時(1962年)の半分以下の数値です(※)。米の消費量が減っているうえ、外国産の安価な米が選ばれている現状や、米の生産目標数量の配分が撤廃される「平成30年問題」、TPPによる関税の撤廃。これらの課題に早々に取り組まなければ、米の価値が急速に下がってしまう恐れがあります。では、日本の米の価値を上げるためにはどうすればいいのでしょうか。
「ブランドをつくるしかないと思います。最近では、5キロで2,000円もしない米がスーパーに並んでいます。しかし、地域で細々とやっていると、同じ5キロでも4,000から5,000円で売らないと採算がとれません。スーパーに並ぶお米に、値段で勝負するのは無謀です。そうなると、ブランド化して価値と品質、おいしさをきちんとPRして、高くても選ばれるお米にしなければなりません」
実際に、スズノブでは全国各地のブランド米を扱っていて、週末になると自分に合った米を探しに、遠方からも多くのお客さんが訪れるといいます。
「ブランド化というのは、“おいしいお米を作りました”というだけではなく、付加価値をつけていかなくてはなりません。最近では、硬め、柔らかめなど、品質や炊き上がりの特長がはっきりしたものが受け入れられる傾向にあります。私が作った“食味チャート”を見ていただいても、いろんな個性のお米があることがおわかりいただけると思います」と西島さん。
市役所や農協を巻き込んで、地域全体でブランド化を目指さなくては生き残っていけないといいます。品質を保つためには低温倉庫も必要ですし、流通体制も整えないといけません。個人で用意するのは大変ですし、たとえ用意できても小ロットだと保管や物流コストが高くなります。
それに、個人ではブランドを表に出すのはなかなか困難時代になりました。「コンテストで賞を取ったとしても、収穫量が限られた個人農家だと、話題になった頃には在庫がなくなり報われない、なんてこともあるんです」。
米農家が元気になると、地域経済が回り出す
西島さんが、地域でお米をブランド化するべきと声高に語るのは、米農家のためだけではありません。ブランド米が地域全体を活性化する起爆剤になるというのです。
「風土や歴史、文化が一体にならないと、地域ブランドは成立しません。特に、お米は地域密着の作物ですからね。その地域の水や食文化と、とても相性がいいんですよ。だからこそ米作りが活性化すると、地域の農作物や畜産物なども活性化され、地域の産業が回り出すんです」。
ブランド化して品質の基準を設ければ、基準に満たないものも出てきます。これらは、米粉や米麺、味噌などの加工に回せばよいといいます。こうして6次産業化して、地元で起業する人が増えて産業が興れば1年中仕事ができ、農業の閑散期でも収入が得られるようになるのです。
「地域が元気になれば若者も戻ってきて、さらに活性化するでしょう。インターネットが普及した今、重要なのは資金力ではなく発信力です。どんな山奥にいても話題になり得ますし、流通が動かせるんです。発信や新しいアイデアの発案は、若い人の方が得意ですよね。
お米をブランド化して、地域を活性化する。そして、若者を呼んで産業を興す。この一連の流れを、米農家と地域が連携して行っていくことが大切だと思います」と西島さんは語ってくれました。
米業界だけではなく、地域にも光が当たる米作りを目指して、時代に合った取り組みに転換する機運が高まっているようです。
株式会社スズノブ
住所:東京都目黒区中根2-1-15
電話:03-3717-5059
http://www.suzunobu.com
(※)平成27年度 食料自給率等について
http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/attach/pdf/160802-3.pdf
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