自然いっぱいの環境で店を開きたい
滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山のふもとの甲津原は、織田信長が薬草園を開設したことでも知られる薬草の聖地です。特に、良質なヨモギが採れることで有名です。
2015年からこの地に移住し、山のごはん「よもぎ」を開いたのが、上野さんです。それまで9年間、隣の岐阜県不破郡垂井町(ふわぐんたるいちょう)で古民家カフェを営んでいました。 「学校から帰った子どもに『おかえり』と言ってあげられるように」と始めた店は、天然素材を使った体にやさしい手作り料理を提供しており、評判だったそうです。
経営は順調でしたが、子どもの自立を機に心機一転、甲津原への移住を決意しました。「自然の恵みをいただいて生活し、暮らしの延長に食がある、そんな店がやりたい」という長年の夢を実現させました。
自治体を通じて古民家に移住
「古民家が大好きだったので、イメージに合う物件を探して、いろいろな場所を見に行きました。甲津原に決めたのは、春には山菜、夏には木々の緑、秋には紅葉、冬には雪景色と、季節ごとに表情を見せてくれる自然の素晴らしさに魅せられたから。たくさん採れる山菜や薬草がより食を豊かにしてくれると思ったことも理由です」。
古民家を探すにあたって利用したのは、自治体が運営する「空き家バンク」でした。甲津原がある米原市は「空き家対策」が整っており、古民家探しから斡旋まで、スムーズに行えたそうです。
季節ごとにあわせた「薬膳ごはん」を提供
山のごはん「よもぎ」で出しているのは、季節ごとに内容を変えた「薬膳ごはん」です。薬膳とは、中国の伝統医学理論に基づいて、体質や症状、体調、季節の変化に合わせて作る料理です。
食材にはすべて効能があり、それを生かして食材を組み合わせることで体のバランスを整え、病気になりにくい体を作ります。国際薬膳調理師の資格を持つ上野さんは、その知識を生かして、身近で採れる山菜や薬草のほか、以前からおつきあいのある農家等から取り寄せた有機野菜を使って、調理をしています。
「本来なら一人一人の体調に合わせてメニューを考えて調理をするのがいちばんよいのですが、お店の場合、なかなかそうもいきません。そこで毎月その時々の気候に合わせて、どんな食材で補えばいいのかということを考えた上でメニューを決めています」。
8月から9月なら、体の熱をとる働きのあるトマトやナスを使ったり、9月から10月には肺の機能を高め、潤いを与えてくれる長イモや豚肉、白キクラゲを使ったり、といった具合です。
野草や山菜をあらゆる調理法で活かす

2016年葉月のメニュー。摘みたての野草の天ぷらは定番です
薬膳ごはんに用いる季節の野草や山菜は、自宅の周辺や近隣の山に入ったり、沢沿いで採取しています。
「家の敷地内や近所の空き地、裏の山などにヨモギやドクダミ、ゲンノショウコなどの野菜が自生しているんです。毎日それを摘みにいき、その日のメニューに活かしています」。
9月から10月なら、この地域の名産でもあるミョウガが旬だそうです。オニグルミやヤマグリなどの木の実も採れます。採取した野草や山菜、木の実は、天ぷらのほか、おひたしや炒めもの、煮ものにしたり、カレーやハンバーグなどに混ぜて使ったりします。
「これらの野草や山菜をたっぷり取り入れた薬膳ランチは、1日15食限定。前菜におばんざい盛、メインディッシュ、ごはん、汁物、デザート、ドリンクがついて2,300円です。これに自家製の薬草茶もお出ししています」。
薬草茶は、ヨモギを使ったヨモギ茶のほか、ドクダミやゲンノショウコ、カキドオシ、ユキノシタ、レッドクローバーなどの葉を干してブレンドしたもので、「飲むと体がスッとする」「気持ちが落ち着く」と好評です。
「体がむくみやすい梅雨の時期なら、利尿作用があるドクダミを加えたり、秋から冬にかけて空気が乾燥している時期なら、のどの調子を整えるビワの葉を加えたりと、季節に合わせてお茶の調合を工夫しています。
お店でお出しするだけでなく、私自身も水筒に入れて持ち歩き、毎日飲むようにしています。おかげさまで体の調子がいいです」。
40代から50代の女性に人気
訪れるお客様の年齢は、30代から70代と幅広いものの、中心層は40代、50代の女性だそうです。「上野さんの薬膳ごはんが食べたい」と何度も訪れる固定ファンも多いといいます。
「大自然のエネルギーと食から非日常を感じ、ゆっくりと寛いでほしいと思っています。ここで過ごしていただくことで、みなさんの心と体がゆるりと穏やかになっていただけたらうれしいです」。
里山暮らしのなかで、「毎日やることがたくさん」という上野さん。山のごはん「よもぎ」では、一食一食をおろそかにしない丁寧な暮らしに向き合うことができそうです。
奥伊吹 山のごはん よもぎ
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