驚異の身体能力で、泳ぎ上手 農家の天敵イノシシの生態
十二支の「亥(い)」として、また「猪突猛進」の語源として、日本人になじみの深いイノシシですが、その生態を把握している人は少ないでしょう。イノシシは、家畜用に改良されたブタの原種で、国内にはニホンイノシシとリュウキュウイノシシが生息します。
子どもの頃は「ウリボウ」と呼ばれるかわいい容姿ですが、成獣になると全身茶色あるいは黒色の硬い体毛におおわれ、体長は100cm~170cm、体重は80kg~180kgほどの大きさになります。神経質な動物で、見慣れないものを見かけると避ける習性がありますが、不用意に近づいたりするとこちらへ向かってきます。
特筆すべきは、その身体能力の高さで、普段はゆっくり歩いていますが、いざ敵と向き合うと、時速40キロの速さで走り、1メートル以上にも及ぶジャンプ力を見せます。また、硬い鼻先が強靭(じん)な武器となり、猛烈な加速をつけて突進してくるのでかなり危険。実際に人が被害に遭った例も数多くあります。低山帯から平地の森林や雑木林で暮らしていますが、意外にも泳ぎが得意で、河川が近い湿地帯を好みます。
雑食ゆえに田畑を荒らす 多種多様なイノシシの被害
イノシシは雑食のため、さまざまなものを食べます。イモ類、タケノコ、稲、カボチャ、豆類、トウモロコシなどを好み、田畑に入って食い荒らします。ミミズや昆虫などの動物性のものも食べるため、葉物野菜の畑を掘り起こされるケースもあります。近年は人が出した生ゴミや畑の野菜クズを狙って人里に現れることも増えており、接触事故に発展してしまう危険もあります。
また、体についた寄生虫を落とすために頻繁に泥浴びをする習性があり、水田の中に入ることもあります。泥浴びをしたあとは体を木にこすりつけて泥を落とすので、近隣の樹木にまで被害がおよび、田んぼのあぜを崩されることもあるようです。(※2)農家にとってはまさに天敵。被害が拡大しないうちに撃退しなければなりません。
※1 鳥獣被害の状況:農林水産省
※2 特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン(イノシシ編):環境省
侵入を防いで、捕獲、駆除 警戒心の強いイノシシの撃退法
イノシシの被害をなくすためには、まず田畑や集落を柵で囲い侵入を防がねばなりません。費用が安く、設置が簡単な電気柵は効果的ですが、電線が鼻先に触れるように高さを2段、3段に分けて張るなどの工夫が必要です。目隠し効果のあるトタン板や頑丈に固定したワイヤーメッシュ柵、金属柵などの防御柵もあります。
イノシシは警戒心が強く、音や匂いにも敏感ですですから、防御柵と併用してイノシシの嫌がる音や匂い、視覚効果を使って近づきにくくしましょう。放置された果実や野菜クズなど、イノシシの餌になりそうなものを適切に処理して、環境を整備することも大事です。
それでもイノシシが出没する場合は、いよいよ最終手段として捕獲を行います。具体的には、地面に置いて生け捕りにする「箱わな」や、踏み込んだ足を捕える「足くくりわな」がありますが、ポイントとなるのは餌と設置場所。いかにイノシシの警戒心を解くかが捕獲のカギとなります。足跡などのフィールドサインを見つけ、狙いを定めた場所に設置しましょう。秋から冬の時期であれば、行政主導の猟銃によるイノシシ駆除も行われています。
イノシシによる農作物の被害がいちばん多い秋の収穫期を終え、冬季の狩猟シーズンに突入しました。ジビエ料理やぼたん鍋でイノシシ肉を食べる際に、農家の方々の苦労と努力を思い出してください。
次回も農家にとっての憎らしい天敵、アブなすぎる害獣をご紹介します。
※1 鳥獣被害の状況:農林水産省
※2 特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン(イノシシ編):環境省
上記の情報は2017年11月1日現在のものです。