愛くるしい姿でちょこちょこいたずら 特定外来生物のタイワンリス
神奈川県の鎌倉や江ノ島をはじめ、日本各地の観光名所で多く見られ、可愛らしい風貌から観光客からかわいがられているタイワンリス。在来種であるニホンリスとは異なり、観光用として飼育していた個体が放たれたり、逃げ出したりして野生化した結果、全国各地で繁殖し続けている特定外来生物です。ニホンリスよりも一回り大きく、足や耳が短く、褐色のおなかが特徴です。
台湾固有の亜種といわれるタイワンリスは昼行性で、山林や造営林、市街地の緑地や公園に生息し、樹上での動きはちょこちょこと俊敏で、跳躍力が優れています。樹木の種子や果実、花、葉、芽、樹皮などを食べるほか、昆虫やカタツムリ、その他小動物、鳥の卵などを捕食します。
タイワンリスにとって日本は温暖な気候で、えさが豊富、天敵である猛禽類やヘビ類が少ない住みやすい場所です。そのため個体数が増え、生態系に影響を及ぼす危険や農作物への被害が拡大し、2005年に環境省の特定外来生物に指定されました。
タイワンリスの見分け方は?
タイワンリスはアジア全域に生息するクリハラリスの台湾固有亜種で、本州や九州の11都道府県に生息しています。日本に生息するタイワンリスは本来はペットとして流通していた個体が野生化したものだとされていて、1935年頃に日本に定着したといわれています。
タイワンリスは2005年に「特定外来生物」に指定されました。「特定外来生物」は海外が起源の外来種のなかで、特に日本固有の生態系や国民の生命、農作物への深刻な被害を及ぼすもの、被害を及ぼす危険性の高い種の中から指定されています。
現在、日本には計6種類のリスが生息していて、このうち3種類が固有種、3種類が在来種となっています。タイワンリス、ニホンリス、シマリスの3種類はそれぞれ腹部の毛並みなどに違いがあり見分けることが可能だとされています。日本リスの腹部が白色であることが多いのに対して、台湾リスの腹部は赤褐色や灰褐色である場合が多いです。
体の大きさや耳の特徴でも見分けることが可能です。二ホンリスと比べてタイワンリスの体は明らかに大きく、体長は約40センチにも及びます。また、日本リスは冬毛になると耳の先端にも毛が生えて全体的に尖っているような形になるのに対して、タイワンリスの耳は通年短くて丸いです。
タイワンリスの尻尾は他のリスに比べて大きいです。シマリスは身体に特徴的な縞模様があり、ニホンリスやタイワンリスと容易に見分けることが可能です
生態系、農作物など 小さなタイワンリスの被害は大きい
国内でタイワンリスが増えると、在来種であるニホンリスの生態系が脅かされる恐れがあります。また、メジロやコゲラ、シジュウカラなどの卵を食べるため、野鳥の個体数が減ったり、木の樹皮を食べて立ち枯れが起きたりと、山林の生態系が変化するおそれがあります。
農作物への被害も深刻で、ミカンやブドウなどの果実の食害や樹皮剥ぎによる立ち枯れ、ダイコンやトマトといった野菜の食害、スギやヒノキなどの苗木の食害が多発しています。それだけではなく、個体数の多い伊豆大島では、特産のツバキ油の原料となるツバキの実が食べられたという報告もあります。
この他、電線や電話線をかじられてライフラインに被害が及ぶケースも出ています。
タイワンリスの撃退方法は?
タイワンリスは小さく動きが素早いので、捕獲や駆除が難しいとされていますが、それでも各地では様々な工夫をして撃退に成功しています。例えば鎌倉市では市民に捕獲許可を出し、ねずみ捕り器などを貸し出して積極的に捕獲を推進、年間500匹以上を捕獲しているそうです。ただし、鎌倉市には10倍にあたる5,000匹が生息しているという予測もあります。
熊本県の宇土半島では、タイワンリスの捕獲推進月間を定めて、市民や農家に情報提供をしながら集中的に捕獲活動を行っています。個体数が多いとされる伊豆大島では、箱わなによる捕獲や猟友会による駆除を行い、年間1万匹近いタイワンリスを撃退しています。箱わなは、各自治体での捕獲作戦に必ず使われるほど効果的な手段です。
ほかにも、タイワンリスの嫌がる木酢液などを田畑のまわりに散布する、あるいは防護ネットを使用することが有効です。また、移動経路となる樹木の剪定や下草刈りなどを行って、タイワンリスを寄せ付けないようにする環境整備も求められます。
タイワンリスは生後約1年で繁殖を開始。通常は年に1回、秋ごろに1~2頭を生みますが、えさなどの条件が良ければ年3回の繁殖で4頭ほどを生むこともあります。
驚異の繁殖力で増え続けるタイワンリスの撃退には、地域で協力しあい、対策を取っていく必要があります。農家への多大な被害と奮闘ぶりを知ったら、愛くるしい姿でも見方が変わってくることでしょう。間違ってもえさは与えないようにご注意ください。
タイワンリスの見つけ方は?
リス科で特定外来哺乳類のタイワンリスは基本的に昼行性ですが、昼夜問わず動き回ることがあるようです。本来は山地の広葉樹林に生息する動物ですが、市街地や郊外の森など日常生活の場の近くにも生息しており、比較的発見することが容易な動物だといえます。普段は主に樹上で活動していますが、地上で活動することもあります。
タイワンリスは樹木の窪みや人家などに巣をつくることがあります。また、単独で行動することが多いですが、幼い個体は小さな群れをつくっていることもあります。冬でも冬眠することはなく、エサの少ない時期には樹液を食べることがあります。
動きは非常にすばしっこいのが特徴です。このような特徴から、タイワンリスは比較的日常生活や農作業の場で見かけることが多い動物といえるでしょう。
家屋の柱や電線などをかじったりすることもあるため、人間に危害をくわえる可能性の高い害獣といえます。
特定の動物を見つける際には指標としてその動物が残した「フィールドサイン」の有無を調べることが重要になってきます。タイワンリスの場合はまず鳴き声が聞こえないか耳を澄ましてみましょう。
二ホンリスなどと違い鳴き声が高いのが特徴です。また、樹木をかじった痕がある、樹皮が剝がされているなどといったことも重要な「フィールドサイン」となります。
タイワンリスは特定の樹木に集中することがあり、ボロボロの状態になっている樹木を発見した場合、タイワンリスがいる可能性が考えられます。このような「フィールドサイン」をもとに探していくと、日常生活や農作業の場で見つけることも比較的容易な動物といえるでしょう。
タイワンリスに遭遇したらどうする?
下手に手を出さない方が良い
タイワンリスに遭遇しても下手に手を出さない方が良いでしょう。
タイワンリスは「鳥獣保護管理法」の保護下にあります。「鳥獣保護管理法」の保護下の動物の殺処分は本来は禁じられていますが、タイワンリスは「狩猟鳥獣」に指定されていて法律上は自ら駆除することが可能な動物。
「鳥獣保護管理法」の保護下におかれている動物でも、「狩猟鳥獣」に指定されている動物は自治体の許可なく駆除できる場合があるのです。
しかし、個人で駆除する場合は様々なリスクがあるため、素手で触ることは禁物だとされています。
病気のリスクもある
野生のリスは「ペスト」「野兎病」「レプトスピラ症」などの恐ろしい病原菌を持っている場合があります。個人で駆除する場合には市販されているネズミ捕獲用の「箱わな」などを使用する方法があります。
このようにタイワンリスの捕獲は、素手で触ることを避けつつ、慎重に行わなければなりません。また、あらかじめ樹木や下草を管理したり、防護ネットや柵や戸袋の隙間を解消したりすることにより、侵入を防ぐことができます。
タイワンリスは行政の許可なく駆除することが可能ですが、いくつか守らなくてはいけないルールがあります。これらのルールは各自治体により設定されているので、タイワンリスをみかけた場合はまず行政に相談してみてください。
タイワンリスの対応は業者にお願いするのがおすすめ!
タイワンリスの駆除は個人でも可能ですが、すばしっこくて捕獲することは簡単ではありません。
また、自治体により指定された駆除方法も狩猟期間の制限もあり駆除する前に自治体に相談しなければなりません。個人で駆除するのは簡単ではありません。
そこで、タイワンリスの対応は野生動物の駆除業者にお願いするのがおすすめです。業者を選ぶうえでは「狩猟免状を保有している」「業者の評判を確認する」「スタッフの対応がいい」「アフターサービスが充実している」などの特徴をもつ業者を選ぶと良いでしょう。
駆除業者のなかにはタイワンリスの駆除を専門とする業者もあるので、このような業者を選ぶこともできます。
専門業者は独自のノウハウをもっているので、短期間で効率よく駆除することが可能です。タイワンリスは人間や農作物に危害を加える可能性が高い害獣です。
家屋や農地の近くなどで、タイワンリスが生息している痕跡を見つけたら被害が出る前に早めに業者に相談してみることをおすすめします。
次回も深刻な被害をもたらす、農家にとっての意外な害獣をご紹介します。