医療・福祉のスペシャリストが模索する「農」の可能性
熊本市中心部から南へ車を走らせること約15分。緑豊かな田園風景の中に「みゆきの里」はあります。
ここは、病院をはじめ特別養護老人ホームやケアハウスなどを同一敷地内に有する総合施設です。スタッフは約650名、患者や入居者などを合わせると利用者数は約550名。1982年の創業当時から「健康長寿のまちづくり」を提唱し、保健・医療・福祉の有機的な連携に取り組んでいます。
長年にわたり、食の取り組みにも力を注いでいる同施設。料理長や栄養管理科の科長らが日本で著名な料理家・辰巳芳子(たつみよしこ)さんの鎌倉のアトリエに通い、辰巳さんが提唱する「命のスープ」を給食に導入しています。また、一般の人も自由に利用できる自然食レストランの運営も行っています。
「2012年にみゆきの里が30周年を迎えるにあたり、次の10ヶ年構想を考えるレインボープロジェクトが始動しました。各施設から選出された30名ほどのプロジェクトメンバーで、サービス付高齢者住宅の建設やロゴマークの刷新などを議論しました。そのなかで、『うちは医福食の取り組みは行っているけれど農に関してはまだ手つかずだね』という話が出たのです」と、株式会社みゆきの里健康ファーム取締役の稲田美治(いなだよしはる)さんは語ります。
その頃、みゆきの里の認知症対策室では、熊本県の補助事業として農作業を通じて認知機能の向上を図る「ファームリハビリテーション」を行っていました。みゆきの里の富島三貴(とみしまみき)会長も、安心安全な農業に興味を寄せていました。そういった複数の要因が重なって、2015年「農業生産法人 株式会社みゆきの里健康ファーム」という新規事業が動き出しました。