堆肥の基本知識
堆肥とは、有機物を発酵・分解させたものです。農作物や植物を育てるのに必要な、窒素・リン酸・カリの三大要素や、そのほかの微量な要素が含まれています。
堆肥中の肥料成分は、時間が経過していく中で、ゆるやかに無機質の形に変わり植物に吸収されていきます。つい失念してしまうと以前に与えた堆肥の肥料成分が、土壌の中に残存している可能性があります。
毎年大量の堆肥を施し、そのうえ肥料まで施すと、土壌は窒素過多の状態になってしまいます。こうした肥料バランスの乱れた土壌で、農作物や植物を生育させると、リン酸やカリなどが不足することにより実つきや花つきが悪くなり、病害虫が発生しやすい土壌環境に陥ります。ここで慌てて、リン酸やカリを与えると、今度は窒素不十分で別の生育障害を引き起す悪循環を招きますので注意しましょう。
長期的に効果をもたらす堆肥
良性の微生物が繁殖し、野菜を健やかに生育する効果を持つとされる堆肥は、「忘れたころに効く」といわれています。
堆肥中の窒素分は1年目には全含有量の約60%、5年目になっても約15%程度と、長期的に残存するデータがあります。長い期間をかけて吸収され続けることが、忘れたころに効くといわれる理由となっています。
また、堆肥には、豚や肉牛の糞、乳牛の糞など原料は様々ですが、含まれる有効成分にはそれぞれ違いがあります。購入時にはしっかりと成分を確認した上で、不足しがちな部分は無機質肥料を併用して補う工夫をしましょう。
堆肥を使用する際の注意点
堆肥は使い過ぎない
堆肥を使用するときは、植えつけ前に作物の下に穴を掘り、堆肥を施しましょう。10平方メートルあたり、20キログラム程度が堆肥量の目安です。
トマトやナス、キュウリなどの場合は、間土(※1)を厚さ10センチ程度まで埋め戻し、根の部分が直接堆肥にふれて傷まないように植えつけてください。窒素肥料を施す場合は、堆肥中に含まれる窒素分を十分に考慮した上で、控えめに施していきましょう。
ニンジンやダイコンに代表される根菜類は、畝(※2)の脇のくぼみに堆肥を施すのが一番確実で安全な手法です。土中の水分を維持する働きも堆肥は持っているため、とりわけ果菜類では土中深くまで根を誘導し、株の寿命を伸ばしていけば、収穫量を増やす働きも期待ができます。
※1 間土(まづち) 苗、種イモ、根株などを植え溝に植えつけたり、畝(ベッド)に植えつけたり、伏せこんだりする時、根が直接肥料や熱源にふれないように緩衝役を果す土をあらかじめかぶせておくこと。
※2 畝(うね) 耕した土を10~20センチの高さに細長く盛り上げたもの。ここにタネをまいて、苗を植えつける。
未熟な堆肥は使わない
堆肥は発酵時、65℃前後まで発熱するため、害虫が好みそうな有害物質を追い払って、材料中に生き残っている病原菌を抑える効果があるとされています。市販されている堆肥は発酵済のため安心ですが、ご自宅などで堆肥を手作りされる方は、発酵の見極めに十分注意しましょう。
手作りの堆肥は安心して使用できるようになるまで、4〜9月の高温期で最低3ヶ月、可能であれば半年以上の期間が必要だとされています。また、材料によっては発酵までに時間がかかる場合もあるので、確認が必要です。目安としては悪臭が無く、茶色から黒色で、適度な湿り気を帯びているものであれば問題ありません。
有効的な苦土石灰と堆肥の併用
堆肥には、土壌のpHバランスを調整する力がありますが、農作物や植物の生育に欠かせない、カルシウムやマグネシウムを含む「苦土石灰(※3)」を堆肥と併用することをおすすめします。
一般的な畑では、pHの値を1上げるのに、1平方メートルあたり200~300グラムの苦土石灰が必要になります。作物を植えつける2週間ぐらい前を目処に、畑の全面に撒き十分に混ぜておく必要があります。苦土石灰の散布後、1週間~10日経過してから堆肥を施します。
また、堆肥と同時に施すと、堆肥中の窒素が石灰と反応してガスが発生し、農作物や植物に害を与えてしまいます。さらに使用する量が多過ぎると、土壌が荒れて表土が硬くなり、生育に大きな支障をきたします。根の部分に石灰類が直接ふれると、根が傷み病害虫に感染しやすくなることもあるため、気をつけましょう。
(※3)苦土石灰(くどせっかい)…「苦土」はマグネシウム、「石灰」はカルシウムのことを指す。苦土石灰とは、「ドロマイト」と呼ばれる岩石を、使いやすいように粉状や粒状にした肥料で、炭酸カルシウムと酸化マグネシウムが主な成分。
ご自宅の畑や花壇のpHは必ずチェックし、調整に必要な分だけ苦土石灰を使用することが、堆肥の有効的な活用法となります。「掘れば掘るだけ奥が深い」土壌づくりを覚えることで、また一つ自家栽培が楽しいものになるでしょう。
参考:『病害虫百科』(万来舎)
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