第二回
■参加メンバー
「組み合わせを変えると、提案できることがある」(柴海)

柴海さんの柴海農園がセレクトして宅配するサラダセット
柴海:私は生産と販売のバランスをうまく取ることに注力したり、現状の売り上げや利益率を上げ、かつ、お客様に、うちの野菜をかけがえのない野菜と思って、喜んでもらうことを考えてきましたね。
そこで、単に「少量多品種の野菜セット」だったものを、組み合わせを変えて販売するようにしました。一般のお客様には定番と旬の野菜、飲食店様には料理のイメージや最終的な形を共有して、私が畑で考えて組み合わせ、スーパー向けにはサラダセット。単品の注文は一切受けていません。組み合わせを変えれば、提案できることが違ってくると思います。今は、あるものを最大限活かした売り方を模索してきていますね。
「こういう野菜が作れたら絶対売れるのに」という悔しい思いを抱きながら作ってきたので、あまり自分から営業をしたくない。自分から行って、うまくいったことがないです。
長谷川:うまくいかなかったところって、「いいや」って思いません?
柴海:そうですね。営業下手なのか分からないですけどね。営業はしたくないですが、自分が何者かは発信した方がいいと思うんです。なので、情報発信はしています。
「ブランドがあると、うらやましいくらい高い」(長谷川)
渡邉:1対1の営業は、僕も基本的にはしません。来てくれた方が、やりやすいですし。対多数の営業なら、わりとしますね。宮崎県は農協が強いので、他の農家はそれもない。宮崎には、尾崎牛というブランド牛がありますが、牛農家も発信していないですね。
長谷川:高く売れるからですね。ブランド自体がしっかりしている。宮崎和牛と言えば、味が保証されているイメージがついていますし、飲食店や問屋さんが高く買うんですよ。うらやましいくらい高く買われていますよ。
佐川:産地ブランドがあれば、個でブランディングしなくても条件の良い取引ができるということですね。
柴海:よく思うんです。それだけでも満足なら良いんだと思うんです。結局、個でブランディングしていく自分たちはワガママだと思うんです。
一同:(笑)。
佐川:本当にそのとおりだと思う!
柴海:「こうしたい!」という思いがあるから、こうやってるだけですよね。良いか悪いかは、農家によって違うとは思います。
佐川:直売だけが正義じゃないし、それだけで食糧供給が安定的に回るかっていうとそうじゃない。
長谷川:ワガママって、すごいしっくりきました。
柴海:自己表現の場であるのかなと。
佐川:僕の妻は、東大卒の外資系メーカーに勤めていた奴と結婚したと思っていたはず。ワガママじゃなかったら、僕は農業界にいないですよ。ここまで振り回されるとは想定していなかったと思う(笑)。他には、阿部梨園が3年くらい蓄積したブランディングやチーム作りなどの改善ノウハウをオープン化して、他の生産者にも使ってもらえるようにオンライン知恵袋にするというプロジェクトを準備しています。農業界のために、と言っていますけれど、自分が楽しいからやっている側面もあります。どちらもワガママ起点です。
柴海:やりたいからですよね。
佐川:でも、「やりたい」というモチベーションだけがあるスタートと、辿り着きたいゴールとの間では、不確実でモヤモヤするステージが続きます。中途半端に足を止めちゃうと旨味が出ないステージがある。
「おいしい物を作って、売れ残ったら意味がない」(佐川)
長谷川:途中のモヤモヤする地点にあるのは、ブランディングや売り方の悩みだと思うんです。私はそれをどうすればいいのかぶち当たっているところで。最初にブランド化して大事だなと思ったのが味だったんですね。味に絶対の自信を持つような生産にしてからと思っていました。
柴海:もちろん一つの要素ですよね。けれど、それを売りにするかどうかは、自分は別物かなと思います。最終的にお客様が喜んでまた買いたいと思ってもらうことが正義かなと思う。その要素は味なのか、シチュエーションか、サービスか、地域性か、思いか。これは農業者によって違うと思います。自分なりのスタイルをどう突き詰めるのかが面白いところ。
佐川:付加価値も含めたすべて。うちは長谷川さんと一緒で、味ありきでスタートしています。味じゃない部分で買ってもらっても嬉しくないと言うくらい、生産にかけている代表がいます。現場はおいしいものを作ってくれています。それで売れ残ったら意味がない。
僕自身は生産ができないので販売に力を入れています。会社で言えば、生産と営業という別な事業部同士で、綱を引き合っている状態。
僕の露出が増えるようになって「知名度だけが先行するのはよくない」と、現場の皆は緊張感をもっています。次は、味で試されるという危機感で、梨を作っています。今までは「梨をおいしく作れていれば、他は二の次」だったのが、「畑を見られる機会が増える」と、畑を綺麗にしたりして。
長谷川:現場って、人の目がなければ汚くてもO.K.になってしまうじゃないですか。うちも6次産業化や足利マール牛を作るなどのブランド化には、農場を綺麗にすることから始めました。ツアーを組んで人の目が入るようになるので。すると生産のレベルが上がったんです。人の目が入ると、おいしくなる気がしますね。
まとめ)自己表現からのブランディング
ワガママなだけでは、商品が売れていくわけでもありません。柴海さんは、多品目の野菜から組み合わせを増やし、お客様に喜ばれるように工夫しました。長谷川さんはブランド化を進め、6次産業化も行いました。思いを抱けばいつでもそこがスタート地点ですが、思い描くゴールまでの道のりは見えません。ブランディングは、道を進むための追い風の一つ。次回も若手農家が考えた、ブランディング、営業手法の実践例が飛び出します。
(第三回に続く)
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