可愛いけれど要注意! 実は生態系にも影響を及ぼす危険動物
アライグマの存在をテレビアニメで知った人も多いのではないでしょうか。北米原産のアライグマは、その可愛らしさから一時盛んに輸入され、それらが野生化したものが今や全国に生息しています。同じ中型獣類のタヌキやハクビシンに似ていますが、目の周りの黒いマスク模様、長い尾っぽのしましま模様が特徴です。
名前の由来となった、水で手を洗うような仕草はとても可愛いものですが、ハクビシンらと比べて、実は気性が荒くて凶暴かつ攻撃的。泳ぎも木登りも得意なうえに、学習能力の高い動物です。日本にはアライグマの天敵がいないため全国で増え続け、在来種が食べられてしまうといった生態系への影響や、感染症の恐れ、さらに農作物への被害も拡大し、特定外来生物にも指定されています(※)。
10年で捕獲数10倍! 被害額はなんと年間3億円!
アライグマの繁殖は年1回で、産子数は1~6頭ですが、国内に天敵がいないことから右肩上がりで増え続けています。環境省の調査によると、全国の捕獲数は2004年度の約3千匹から14年度は約3万匹、10年間で10倍の数に膨れ上がっています。当然のごとく国内の生態系を脅かしており、甚大な農作物への被害が深刻です。
農林水産省の調査では、16年度の被害額は全国で約3億3千万円に達し、急増した10年度から5年以上にわたり3億円超えの大きな被害となっています。雑食のアライグマは、果実、野菜、穀物のほか、養殖魚など何でも食べ、長い指の爪を使って畑を荒らし、果樹の枝折れを起こし、牧草ロールやパックを破壊するなどの被害も出ています。
また、アライグマは人と動物に共通する感染症を媒介することで知られ、公衆衛生上の問題も指摘されています。
専用わなも登場! 増えまくるアライグマの撃退方法とは?
アライグマからの被害を防ぐため、まずは農地周辺の環境管理に注力したいところ。収穫しない果実や廃棄する農作物の放置をなくし、エサ場やねぐらを作らせないように心がけます。より確実に農地を守るためには、アライグマ向けの侵入防止柵を設置します。アライグマの侵入行動の優先順位、①隙間(から入る)、②破く、③登る、に着目し、隙間のない、破けないネットを農地周辺に張ってアライグマを登らせ、高く不安定な場所で感電させて侵入を防ぎます。
驚異的に増え続けているアライグマの捕獲のため、近年になって専用の捕獲わなも開発されています。一般的な捕獲わなの場合、タヌキやハクビシンが先にかかってしまうことが多く、アライグマの増殖につながっていたのです。農林水産省委託プロジェクト研究の下、埼玉県農業技術センターでは、前足を手のように使って狭いすき間の奥からエサを取るアライグマの特性に着目し、幼獣でも手の届く深さ約17cmにトリガーを設定した「筒式トリガー」を開発。これを用いた専用の捕獲わなを作りました。アライグマに特化した効果が期待できます。
中型獣類の中でも特に可愛らしいのに、実は最もやっかいな害獣・アライグマ。日本の農家からすると、残念ながらアニメのような友だち関係にはなれません。知られざる行動パターンや特性を知ることから開発されたピンポイントの撃退方法が、被害に遭っている農家にとって強い味方になるはずです。
参考:野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)(PDF)/農林水産省
上記の情報は2018年5月15日現在のものです。