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プロハンターが教える、アライグマ対策。畑への侵入を防ぐポイントを詳しく解説

伊藤七

ライター:

連載企画:アブなすぎる害獣図鑑

プロハンターが教える、アライグマ対策。畑への侵入を防ぐポイントを詳しく解説

近年、イノシシ、シカ、サル、クマなどの野生動物が人里に出没し、人への危害や農作物への被害が目立っています。「アブなすぎる害獣図鑑」の今回は、愛嬌のあるルックスで田畑を荒らしまくるアライグマの生態と農作物への被害、その撃退方法について、猟師の遠藤さんに話をお聞きしました。

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■遠藤夏日さんプロフィール

2020年より有害鳥獣駆除に従事。イノシシを中心に年間約100頭の有害鳥獣を捕獲している。近年は、捕獲個体の肉・骨・皮の資源活用にも取り組み、命を無駄にしない持続可能な活動を目指している。

可愛いけれど要注意! 実は生態系にも影響を及ぼす危険動物

アライグマの存在をテレビアニメで知った人も多いのではないでしょうか。北米原産のアライグマは、その可愛らしさから一時盛んに輸入され、それらが野生化したものが今や全国に生息しています。同じ中型獣類のタヌキやハクビシンに似ていますが、目の周りの黒いマスク模様、長い尾っぽのしましま模様が特徴です。

名前の由来となった、水で手を洗うような仕草はとても可愛いものですが、ハクビシンらと比べて、実は気性が荒くて凶暴かつ攻撃的。泳ぎも木登りも得意なうえに、学習能力の高い動物です。日本にはアライグマの天敵がいないため全国で増え続け、在来種が食べられてしまうといった生態系への影響や、感染症の恐れ、さらに農作物への被害も拡大し、特定外来生物にも指定されています(※)。

※ 日本の外来種対策:環境省

10年で捕獲数10倍! 被害額はなんと年間3億円!

アライグマの繁殖は年1回で、産子数は1~6頭ですが、国内に天敵がいないことから右肩上がりで増え続けています。環境省の調査によると、全国の捕獲数は2004年度の約3千匹から14年度は約3万匹、10年間で10倍の数に膨れ上がっています。当然のごとく国内の生態系を脅かしており、甚大な農作物への被害が深刻です。

農林水産省の調査では、16年度の被害額は全国で約3億3千万円に達し、急増した10年度から5年以上にわたり3億円超えの大きな被害となっています。雑食のアライグマは、果実、野菜、穀物のほか、養殖魚など何でも食べ、長い指の爪を使って畑を荒らし、果樹の枝折れを起こし、牧草ロールやパックを破壊するなどの被害も出ています。

アライグマは手先が器用なので、スイカの中身を手でくりぬいて食べたり、とうもろこしの皮を剥いて食べたりと、野菜の食べ方も特徴的です。ただ単に畑を荒らすだけでなく、美味しい部分をしっかりと食べるのです。
また、動物の死肉も食べるため、動物の死体を放置するとアライグマを引き寄せることになります。
人と動物に共通する感染症を媒介することでも知られ、公衆衛生上の問題も指摘されています。

見つけたらそばにアライグマがいるかも?こんな形跡に要注意

畑や家の周辺にアライグマがいるかも?と思ったときには、以下の痕跡がないかを確認しましょう。

足跡
アライグマが畑の上を歩くと、五本指の跡がつくので分かりやすいです。


ハクビシンなどよりは比較的大きく、人間の親指くらいのサイズです。遠藤さんいわく「いろいろな場所でトイレをする印象」とのことで、屋根裏などに住みついている場合は、さまざまな場所でトイレをする可能性があります。ハクビシンなどは同じ場所でトイレをしやすいので、さまざまな場所でトイレをするのはアライグマの特徴と言えるでしょう。

侵入の仕方
アライグマは力が強くて手先が器用です。そのため、畑では網をひきちぎったり、塞いでいた資材を手でどけたりします。

そのほか、4~6月の春先に子供を産むので、家の周辺などで子供を産める場所を探します。「屋根裏からキュウキュウと鳴き声がするので鳥かと思ったら、アライグマだった」ということも。アライグマを捕獲するには屋根に穴を開けなければならない場合もあり、大掛かりな工事が必要なので、侵入されないような工夫が必要です。

専用わなも登場! 増えまくるアライグマの撃退方法とは?

アライグマからの被害を防ぐため、まずは農地周辺の環境管理に注力したいところ。収穫しない果実や廃棄する農作物の放置をなくし、エサ場やねぐらを作らせないように心がけます。

小動物は集落の中で身を隠すのが簡単なので、わたしたちの生活のすぐそばにいます。餌で誘因させないことが大切なので、たとえば犬や猫の餌、生ごみなどは外に放置しないようにしましょう。

外でペットを飼っている場合は、餌を屋外に置くことがあるかもしれません。しかし、犬や猫の餌は匂いも強く、アライグマを捕獲する際に活用されるほどアライグマをおびき寄せる力があります。屋外には放置しないように気を付けましょう。

より確実に農地を守るためには、アライグマ向けの侵入防止柵を設置します。
アライグマの侵入行動である下記を意識し、隙間のない、破けないネットを農地周辺に張ってアライグマを登らせ、高く不安定な場所で感電させて侵入を防ぎます。

①隙間(から入る)
②破く
③登る

アライグマの侵入を防ぐには、柵も重要ですが、目の細かい網が有効です。小動物は体が小さいため、柵の目をくぐりぬけることがあります。そのため、ナイロンなどの網を張り巡らせて侵入させないことが大事です。

驚異的に増え続けているアライグマの捕獲のため、近年になって専用の捕獲わなも開発されています。一般的な捕獲わなの場合、タヌキやハクビシンが先にかかってしまうことが多く、アライグマの増殖につながっていたのです。農林水産省委託プロジェクト研究の下、埼玉県農業技術センターでは、前足を手のように使って狭いすき間の奥からエサを取るアライグマの特性に着目し、幼獣でも手の届く深さ約17cmにトリガーを設定した「筒式トリガー」を開発。これを用いた専用の捕獲わなを作りました。アライグマに特化した効果が期待できます。

しかし、筒式トリガーも万能ではありません。設置するためには力が必要なので、コツをつかむまでは誤作動で自分の指を挟んでしまう可能性もあるなど、危険性もあります。

また、一般的な箱型のわなと違って猫が捕獲されないことが売りですが、猫が100%かからないとも言えません。
一般的な箱型のわなであれば、猫がひっかかっても、けがをさせずに返すことができます。一方で、筒式トリガーは猫がひっかかってしまうと、ほぼ100%腕にけがをさせることになります。万が一猫が引っかかってしまうと大変です。
筒式トリガーはアライグマを捕獲するには優れた道具ですが、デメリットも考慮したうえで使用を検討しましょう。

中型獣類の中でも特に可愛らしいのに、実は最もやっかいな害獣・アライグマ。日本の農家からすると、残念ながらアニメのような友だち関係にはなれません。知られざる行動パターンや特性を知ることから開発されたピンポイントの撃退方法が、被害に遭っている農家にとって強い味方になるはずです。

参考:野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)(PDF)/農林水産省

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