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田んぼの中でお米を混ぜちゃう“ブレンド米”

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

田んぼの中でお米を混ぜちゃう“ブレンド米”

一般的にブレンド米は、収穫してから2品種以上のお米を混ぜたもの。用途に合わせて調整したり、新しい味わいを生み出したりと、ブレンドの技術はお米屋さんの腕の見せどころです。ところが、東京・吉祥寺の「金井米穀店」では、ユニークなブレンド米を販売しています。なんと、田んぼの中で“ブレンド”してしまうというのです。いったいどんなお米なのでしょうか?

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“田んぼがブレンダー”のブレンドライス

古民家風なたたずまいの「金井米穀店」。軒先の白のれんが目を引く

東京・吉祥寺の「金井米穀店」で販売しているユニークな“ブレンド米”、その名も「杉三反(すぎさんたん)」。考案したのは、店主の金井一浩(かない・かずひろ)さんです。

店主の金井一浩さん

「実家の米屋を継いだ当初はお米の知識があったわけではなく、違う品種のお米は交配してしまうと思っていました。でも、お米は自家受粉(花粉が同じ個体のめしべについて受粉すること)だから交配しないと知って。ならば混植することで新しいお米が作れるかなあと思ったのです」

「杉三反」の田植え(写真提供:金井米穀店)

「杉三反」とは、なんと一枚の田んぼで「コシヒカリ」「なすひかり」「夢ごこち」の3種類を1列ずつ順に並べて栽培したお米。10年ほど前から栃木県・塩谷町の「杉山ファーム」に栽培を依頼。全量買い取りで、今は金井米穀店と、東京・砧の「小島米店」の2店舗で販売しています。

品種同士を競い合わせることで倒伏に強い茎に育つそうで、「台風で他の田んぼの稲は倒れていても、杉三反だけは倒れなかったり、隣の田んぼのコシヒカリよりも杉三反のほうが茎がちょっと太くなったりと、発見があります」と金井さんは言います。

しかし、刈り取り時期のズレはないのでしょうか?

金井さんによると、「出穂はなすひかりが早く、夢ごこちが遅く、コシヒカリは中間くらいだけど、意外に刈り取りは同じくらいになって大丈夫」なのだそうです。

「杉三反」の稲刈り(写真提供:金井米穀店)

 
クラフトビールのようなイメージで

驚いたことに、この3品種を店でブレンドするよりも、田んぼで“ブレンド”したほうが「1つの品種を食べている感覚になる」(金井さん)のだとか。つまり、3品種がうまい具合になじむそうで、得意先の飲食店からも「田んぼで混ぜたものでないとだめ」と言われるそうです。

精米した「杉三反」(写真提供:金井米穀店)

一般的なブレンド米は、その年のお米の味や質などによって配合を調整します。一方で、この「杉三反」は、配合せずとも、まるで1つの品種のよう。「半分は興味本位でしたが、どこにも売っていないお米を作りたいと思って提案しました。ビールに例えると、大手メーカーのビールではなく、クラフトビールみたいなイメージです」と金井さん。お米農家が自身で新品種を育種するのはハードルが高いものの、こうした混植ならばオリジナル米を開発しやすいというわけです。今年度産の杉三反は、「夢ごこち」の代わりに「ミルキークイーン」を作付け。新しい味わいが生まれそうです。

林さんが作る「ハヤシライス」も

ちなみに、金井米穀店が扱っているお米のラインアップの中に「ハヤシライス」というお米を見つけました。どんなお米なのでしょう? 尋ねると、「林さんが作ったお米だから」と金井さん。さらに「ハヤシライスにも合いますよ」と笑います。でも、本当にハヤシライスに合うワケがちゃんとあるのだそう。「産地は長野県駒ヶ根市のコシヒカリなのですが、田んぼが砂壌土。そのため、水や肥料がどんどんはけてしまって、硬質で粘りがないお米に育つのです」。林さんの名前に掛けているだけではなかったのですね。

店頭で販売している分づき米のおむすび(写真提供:金井米穀店)

金井米穀店では、約20軒の農家の計約30種のお米を販売しています。さらに、扱っているお米で作ったおむすびも販売していますが、「僕はお米を売っているという感覚はないんです」と金井さんは言います。いったいどういうことなのでしょうか?

お米屋なのに「お米を売っている感覚ではない」

金井さんは、証券会社勤務から実家のお米屋を継ぎました。お米農家の田んぼを見せてもらったり、日本文化に詳しいジャーナリストに話を聞いたりしているうちに、お米と健康の関係、お米と日本文化の関係について考えるようになったと言います。

そこで、まずはお米について知ろうと、「お米アドバイザー」の資格を取得。お米の生産から食卓までを学んでいるうちに、「お米って環境にすごく影響しているんだ」と気づき、今度は「eco検定(環境社会検定試験)」を受けて合格。すると、「環境と食生活はすごく密接しているんだ」と気づき、医学や文化学や民俗学や生物学など幅広い視点で食を考える「小児食生活アドバイザー」を取得……と突き詰めていきました。

届けたいのは “お米回り”

そして今、金井さんが考える理想の食事は、「お米を中心とした、洗い物が簡単な、季節を感じられる、和食」。つまり、ごはんが主食の和食。そして、旬の食材を使って油をあまり使わずに調理するということです。

金井米穀店の店内。食や健康についてお客から質問されたら答えるスタンス。お客のライフスタイルに合わせて、現実的な食生活を提案する

しかし、お米屋であるがゆえ、「お米を中心とした伝統食が健康的」とお米の良さや、炭水化物を食べないいわゆる“糖質制限食”の危険性などを伝えても、「お米を売りたいだけ」と捉えられてしまいがち。客観的情報として受け取ってもらうことは難しいと言います。「だからこそ、どんな食生活が良いということはお客様から聞かれなければ言わないようにしています」と金井さん。「多面的に見て、日本人にはどんな食生活が必要なのか。それは体質にもよりますし、それぞれが選べばいい。押し付けがましくならず、この店に来たら情報をもらえるという立ち位置になりたいと思っています」

お米と健康、お米と環境、お米と食文化など、“お米回り”を見ている金井米穀店。金井さんがお客に届けたいのは、お米そのものよりも、日本の米食文化やお米を中心とした食生活なのです。

金井米穀店

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