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「どの米が一番おいしい?」が愚問なワケ【後編】

「どの米が一番おいしい?」が愚問なワケ【後編】

最終更新日:2018年08月02日

仕事は稲作、趣味は稲作、特技は稲作。静岡県藤枝市の “稲オタク”、もとい米農家・松下明弘(まつした・あきひろ)さん(写真左)は、巨大胚芽米「カミアカリ」の生みの親。個人農家の品種登録は全国でもめずらしい事例です。巨大胚芽であるがゆえ、玄米で食べることを宿命づけられたカミアカリは、「おいしい米とは何か?」という問いを私たちに投げかけます。

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カミアカリの“純潔”を守る

巨大胚芽米「カミアカリ」は2008年のデビューから約10年経ちましたが、カミアカリの生産者は全国で5カ所だけ。カミアカリの生みの親である米農家・松下明弘さんと、カミアカリの名付け親でもある「安東米店」店主・長坂潔曉(ながさか・きよあき)さんは、「カミアカリを普及拡大しない」というスタンスでやってきました。

「新品種なんだからどんどん情報を出して知ってもらう……というステレオタイプにはいささかげんなりしていたので、カミアカリはその逆を行こうと思いました。おかげで“純潔”が守られていますね」と長坂さん。「生産者、販売者、生活者、すべての分野の人に価値観を共有していかないと、品種の価値が劣化してしまう。そうやってさまざまな品種が消えていきました」。それが、あえて広めなかった理由なのだと言います。

安東米店で販売されている松下さんのカミアカリ

お米は、生産においても管理においても非常にセンシティブ。たとえば、刈り遅れてしまったり、1粒でも他品種が混ざってしまったり、玄米を低温管理せずに劣化してしまったりすると、せっかくの品種の価値が台無し。ある1人の生産者が作ったお米で品種のイメージが作られてしまい、ある1人のお米屋が管理したお米で品種のイメージが作られてしまう。購入後に適切な管理をせずに自身でお米を劣化させてしまったことに気づかない生活者が品種のイメージを作ってしまう。

そうならないためには、作り手(生産者)、売り手(流通・販売者)、食べ手(消費者)、それぞれがカミアカリの価値を共有してバトンをつなげていくネットワークが大切なのだと長坂さんは言います。そのネットワーク作りとして生まれたのが「カミアカリドリーム」です。

パン職人を招いたお米の勉強会?

カミアカリという「新しい穀物」(長坂さん)の可能性を生み出し、品種としての価値を紡ぎながら、「100年続く」品種を目指す。松下さんと長坂さんはそうした趣旨で2007年から「カミアカリドリーム」と銘打った勉強会を始めました。一般的に勉強会は同業者で構成されがちですが、カミアカリドリームには、作り手、売り手、食べ手が一堂に会します。講座やツーリズムなどを通して、カミアカリを「植物」「食物」「文化」というそれぞれの切り口から見つめることで、作り手、売り手、食べ手が、「作ること」「売ること」「食べること」を考えるきっかけになる。そして、その意識や価値を将来につないでいくための活動なのです。

カミアカリの食べ比べ(写真提供:安東米店)

たとえば、さまざまな生産者のカミアカリを食べ比べて、コーヒーやワインのテイスティングのプロのナビゲートのもと、味わいを言語化するワークショップを開きました。
そこで参加者から出たのは、「チョコレートの香り」「バターの香り」「水草の香り」「たくあんの香り」「だらっとした香ばしさ」「たんすの香り」「きのこの味」「ピーナッツの味」「少しスパイシーな味」「シャクシャク食感」「種のような硬さ」など、およそお米を食べたとは思えないような感想の数々。
他にも、バゲット(フランスパンの一種)を初めて日本に紹介した「DONQ(ドンク)」の元パン職人(当時の技術部長)を講師に招くなど、一見「本当にお米の勉強会?」と聞きたくなるような内容です。

一つ一つの勉強会は、参加者の感性をよりはっきりと意識するきっかけになっていたり、「モノ作りとは何か?」「思い込みとは何か?」というお米やパンにとどまらない本質を考えるヒントを得たりと、どれもエキサイティングで刺激的。「僕たちは、カミアカリで“遊んで”くれる人を求めています。カミアカリをおもしろがってくれる人たちが共感者となって、そのコミュニティから徐々に広がっていけば、カミアカリはスピリットが変わることなく健全な状態を守れるのではないかと思うんです」と長坂さん。参加者たちが考え、体感して、交流して、共感することで、カミアカリは単なる商品ではなくなり、どう扱うか、どう食べるかというふうにカミアカリと真剣に向き合うようになっていくのです。

まれに見る猛暑に見舞われた2010年は、松下さんが「今年の米はまずいですよ」と言ってもお客は買ってくれました。そして、「松下さんの言う通りまずかったです」と言って、またお米を買い続けてくれたと言います。作り手と食べ手の利害関係を超えた「共感」を象徴したエピソードです。

稲刈りする松下さん。穂の枯れ具合をよく見て、ベストの刈り時を考える(写真提供:安東米店)
 

相対評価ではなく絶対評価で

カミアカリドリームの勉強会で各生産者のカミアカリを食べ比べた参加者からは、「生産地、生産者によってこれだけ違いがあるとは驚いた」という声が出ました。「カミアカリはコシヒカリの突然変異なので日本列島ほぼどこでも作ることができます。その地域ごと、生産者ごとに、まったく違うカミアカリが表現できるはず。他の米と比べる相対評価ではなく、それぞれの米の特性を尊重する絶対評価的な価値観でお米を作っていけたら、それはとても美しいことじゃないかなあ」と長坂さんは言います。

松下さんの「カミアカリ」田んぼ

「玄米は本来複雑な風味と味があるもの。その土地、自然だけではなく、栽培者の意思なども含まれているので、ごまかしがきかない」と松下さん。2013年に「ロジカルな田んぼ」(日経プレミアシリーズ)という著書を出版しましたが、その後も一瞬も立ち止まることはありません。「料理人が『こだわりのスープ』とか言ったりしますが、当たり前の仕事をしているのに何が『こだわり』なのか。『こだわっています』と言うのは、『私はここで立ち止まっています』と言っているのと同じ。おれは『こだわりの米作り』なんてしていない」と言います。

前編で長坂さんが言っていたように、「どの画家が一番絵がうまいか?」が愚問であるのと同様に「どのお米が一番おいしいか?」も愚問。稲作とは、お米という真っ白なキャンバスにどんな絵を表現するか、お米という鏡に作り手がどう映し出されるかといった農家の“制作活動”でもあるのです。

 
カミアカリドリーム

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