オランダ農業にも課題が
一見、理想的に見えてしまうオランダ農業ですが、現実にはいくつかの課題を抱えています。一つは、作物価格の低下です。
オランダでは前編でお話ししたように収量性の高い生産が可能になり、効率よく大量の生産を行う事ができます。しかし、大量の作物ができると、日本と同じく豊作貧乏、つまり、価格の低迷が起こるのです。もちろん海外の販路もありますが、既に周辺地域でオランダ産のトマトが占める割合は大きく、また他EU国の生産量・生産性も向上しています。オランダのトマト卸価格(1キロあたり)は約0.7ユーロ(100円程度)、約200~300円である日本のトマト価格の約1/3です。生産性が高くとも、収益維持には各農業法人のさらなる創意工夫が必要になることが想像できます。
また、オランダでも人手不足の課題があります。現在でも圃場作業を行う人の多くがポーランド等からの東欧移民ですが、国内外でどんどんと賃金が上がっており、海外人材でも対応するのが難しい状況にあります。はたして、新たな課題にオランダ農業はどう立ち向かっていくのでしょうか。
生産地の移動も。進む大規模集約化
人手不足や価格低下に対応するため、さらなる経営体の統合や、規模拡大が行われています。施設園芸の法人数は、2000年には約3000社がありましたが、年々統合が行われ、2016年では約1300社しかありません。この後も法人数は少なくなっていく事が予想されています。経営者の数は減っている一方で、生産面積は減っていません。むしろ、2000年から増加しています。つまりは、より少数の会社がより大きな面積を管理する形、大規模化が進んでいる事がわかります(平均で1.2ヘクタールから3.7ヘクタールと増加しています)。
農業には土地が必要なので、この大規模化を実現するには、土地権利のスムーズな移行が必要になります。農地の移行は先祖の代からの愛着もあり、日本でもなかなか進まないものです。オランダではどうしているのでしょうか。
ある地域で農業をしていた生産者は、顧客の要望に合わせてより多くの量を生産するために、その地域で無理に拡大するのではなく、元々の土地と設備を別の人に完全に売って、全く別の地域のより大きな土地に移り住み、そこで最新鋭の設備をゼロから設置していました。このように土地を移動する事も少なくないそうですが、だからといって、オランダ人に土地への愛着がないかというと違うようです。現地の人にその事を聞くと、オランダ人にももちろん土地や地域への愛着はあるそうです。しかし、現実的な状況を踏まえて、土地のやり取りが必要になったときに、地域にいる親族や地域コミュニティの人たちと丁寧に「話し合う」事を通じて、困難な土地の移行を進めたそうです。日本でも、農地集約化が必要だという話がよく出ますが、話し合いによって土地をもらう側、渡す側の双方が納得する形でスムーズな土地の移行が行われるとうれしいですね。
農業完全自動化の未来
土地が集約され大規模化しても、現在の栽培方法ではまだ人手がかかり、多くの農家は労働力の確保に悩んでいます。そんな中、注目されてきているのが、AIを活用したロボット技術です。例えば、オランダの農業機材メーカーPrivaは“トマト葉かきロボット”を販売しています。発達したAI画像解析技術で切り取るべき葉を特定して、アームを伸ばし、自動で葉かきを進めていくものです。
オランダの別の農業システム会社は、20年後には現場で作業する生産者はいなくなるかもしれないと発言していました。農業生産者はオフィスで圃場データから経営計画を立てるだけで、実際の作業はロボットが行うようになるといった考えです。この企業はIT企業とともに、完全な無人栽培施設を試験的に運用しているようです。
このロボット技術の領域では、工業部門に強い日本企業が世界的に活躍することになるかもしれません。例えば、パナソニックがトマトの自動収穫機の開発を進めているなど、既にさまざまなリリースが出ています。
前編後編にわたって、農業先進国と呼ばれるオランダ農業の現状と、新たな挑戦を紹介してきました。現在、日本でも先進的な生産者では、オランダでの例を参考に経営・栽培体制の大幅な改革を進めるところが増え、さらに、他産業でも農業周辺領域向けの先端技術の研究が進み始めています。日本でもこれからの20年で大きく農業の姿が変わることは間違いありません。今なお挑戦を進めるオランダの事例が、農業を新しい産業として捉え直す貴重なヒントとなるかもしれません。
※ 情報は2018年7月時点のものです。
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