かつては益鳥。その現在は……
街路樹や電線など身近な場所でよく見られるムクドリは、日本全国に生息しているスズメ目ムクドリ科の鳥で、日本では1年を通じて見られます。全長が平均24センチほどの黒褐色の体に、首から頭とおなか周りに白色が混じり、オレンジ色の足とくちばしが特徴です。
雑食性のムクドリは田んぼや畑に被害を与える害虫も食べていたので、昔は益鳥として知られていました。しかし、1960年代以降からナシなど果樹園の果実への食害が深刻化。群れでの行動によるフンや鳴き声の騒音被害も増え、現在では害鳥と位置づけられることが多くなっています。
被害は減少傾向。しかし、季節ものにはご用心!
農林水産省の調査によると、ムクドリによる被害は1996年以降から減少傾向にありますが、数十から数百羽以上の群れをなして農地に飛来し、果実などを食べるため、一度の被害はかなり大きくなります。被害時期は主に6~10月で、地域ごとの果実の収穫期が被害の時期と重なります。
6月頃は東北地方でサクランボへの被害が多く発生し、初夏から秋にかけてはナシ、モモ、ブドウ、柿などの果実が次々に収穫期を迎え、熟した果実が狙われます。面白いことに、ムクドリの好物の一つであるナシは、品種間でかなりの被害差があることがわかってきました。長十郎や二十世紀などの昔からある品種のナシは、ほとんど被害を受けないのに対して、近年の改良種である新水、幸水、豊水などのナシは被害を多く受けています。新しい品種は糖度が高く、果肉が柔らかいため、ムクドリに好まれていると推測できます。
また、フンの被害や「ジャージャー」「キュルキュル」という鳴き声による騒音も、数百羽以上の群れで行われたらたまったものではありません。
群れをなすムクドリ。その被害対策とは?
ムクドリへの威嚇には、爆音機や、鳥が恐怖を感じている時の鳴き声の音声(ディストレスコール)を用いた追い払い器、猛禽模型や目玉風船、防鳥テープなどの設置で初めのうちは効果を得られます。しかし、長期間の使用や集団での飛来に対する使用では「慣れ」が生じてしまうため、威嚇装置だけに頼ることはできません。
農地にネットを張ること、これが一番確実な方法です。果樹園などを完全に覆うのなら、長年継続して使用できる支柱や網張り棚を設置し、ムクドリより小さな生物(スズメやカメムシなど)の侵入防止、風害やひょう害防止などの多目的利用も考えて、9~10ミリ目のネットを張ることをおすすめします。
また、つくば市近郊のナシ園では、銃によるムクドリの駆除を夏季2回行い、その後は爆音機と側面を網で覆う防除策によって、ムクドリの被害はほとんどないと言います。このようにいくつかの方法を組み合わせることも有効と言えそうです。
時代と環境の変化に伴い、かつての益鳥が今では害鳥と呼ばれるのは、いささか寂しい感じもしますが、被害に遭っている農家にとっては同情の余地もありません。群れで農地を襲ってくるムクドリに対しては、複合的な対処法で応戦しましょう。
次回も農家にとっての憎らしい天敵、意外な害獣をご紹介します。
参考
鳥種別生態と防除の概要 ムクドリ(PDF):農研機構
野生鳥獣被害防止マニュアル 鳥類編(PDF):農林水産省 p.20「1章[5]ムクドリ」
上記の情報は2018年8月8日現在のものです。