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子どもの好き嫌いは「偏食」ではない【前編】

柏木 智帆

ライター:

連載企画:お米ライターが行く!

子どもの好き嫌いは「偏食」ではない【前編】

「子どもが偏食で野菜を食べない」。そんな悩みを抱える親たちは、子どものためにどんな食事を作れば良いのかと頭を抱え、大きな負担になっている人もいるようです。しかし、「粗食のチカラ」(青春出版社)の著者で栄養士の幕内秀夫(まくうち・ひでお)さんは、「子どもの好き嫌いは偏食ではない」「昔は“子どものための食事”など作っていなかった」と言います。家族の食事をどのように作ればいいのか、幕内さんに聞きました。

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親子を苦しめる「6つの基礎食品」

幕内さんが幼稚園や保育所の講演会に行くと、「子どもが野菜の好き嫌いが多くて困っています」「ピーマンを食べてくれないので、どうやって食べさせればいいでしょうか」など、野菜、特にピーマンに関する質問が多く、真面目な親はそのことで悩んでいることが少なくないと言います。

そもそも、親たちの食事作りの苦労はいつから始まったのでしょうか。幕内さんによると、その発端は、主に昭和30年代(1950年代半ば)から始まった「栄養改善普及運動」でした。これが、食事作りに親が追いつめられたり、偏食をなくそうと子どもに強要したりする一因となった「親子イジメ」(幕内さん)の始まりだったと言います。

「“古き食生活から近代化された食生活へ”と、欧米崇拝主義と栄養素主義の2つが科学的な響きを持ち、伝統食の否定が始まりました。栄養改善普及運動には『粉食奨励運動』などさまざまな活動がありましたが、その中で最も影響が大きかったのは、昭和33(1958)年に普及が始まった『6つの基礎食品(※)』です」

「子どもは何を食べればいいか知っている」と話す幕内秀夫さん

6つの基礎食品とは、栄養成分が似ている食品を6つに分類して、「バランスのとれた栄養」を摂取しようというもの。厚生労働省は、「毎日の食事に必ず6つを組み合わせましょう」と呼びかけています。6つの基礎食品の円状の図は、小学校や中学校の家庭科の教科書で「見たことがある」という方もいるのでは。

この6つの基礎食品がきっかけで「子どもは『偏食』の烙印(らくいん)を押されるようになった」と幕内さんは言います。

一体どういうことなのでしょうか?

※ 栄養教育としての「6つの基礎食品」の普及について(PDF):厚生労働省資料

子どもは本能で食事をする

「水を飲めない子どもはいないし、麦茶を飲めない子はめったにいません。そして、コーヒーを飲める子はめったにいないし、ビールを飲める子どもはいません。子どもは分かっているのです。子どもは大人と違って生きるための本能で食事をします。子どもは目と鼻と口で確認しながら食べているのです」と幕内さん。目と鼻と口で何を確認しているのか、聞いてみました。

ビールを飲める子どもは、まずいない
 

子どもが目で感じるもの

「子どもは色を見ています。緑色は嫌い。赤色や黄色を好みます。たとえば、収穫時期の稲は緑色ではなく黄色です。ギンナンも緑色のうちは拾いに行きませんよね。ミカンも緑色のうちは食べません。緑色は未成熟の信号なのです。だからこそ、子どもは緑の野菜をあまり食べません」(幕内さん)

赤色は「成熟の信号」と幕内さん
 

子どもが鼻で感じるもの

「子どもに食わず嫌いが多いのは、食べる前に食べもののにおいをかいでいるからです。ネギなどにおいが強い薬味は嫌います。子どもはコーヒーのにおいをかいだら飲むのをやめます。においが強い食べものの中には、体に悪いものもあり、その中でも腐敗したものは特ににおいを強く感じます。大人も含めて腐敗したものを食べずに済んでいるのは、鼻が教えてくれるからです。緑色のものでも、きゅうりやキャベツなどならば食べるという子どもが多いのはにおいが少ないからです」(幕内さん)

子どもが口で感じるもの

「子どもは甘いものとうまいものが好きです。例えば、母乳、芋類、かぼちゃ、トウモロコシなど。甘いものは炭水化物を多く含む食べものです。酸味は腐敗と未成熟の味、苦みは“毒”の味と受け取ります。ビール、カフェイン、タバコは、みんな“毒”の味に感じられます。子どもの味覚はたいしたものだと思います。子どもは生きるために食べていますが、大人は食に快楽を求めているので、ビールやコーヒーが好きな人が多いのです」(幕内さん)

つまり、「緑色」「においが強い」「苦い」とトリプルパンチな野菜であるピーマンやニガウリを子どもが食べないのは、当たり前だと幕内さんは言います。

「ニガウリを育てていても虫や鳥は食べにきません。ところが、成熟したニガウリは皮が黄色くなり、中のタネは真っ赤になります。そのタネは非常に甘い。やがて、皮が破れて赤いタネが地面に落ちると、アリなどの虫がたくさん集まってきます。虫や鳥などの動物が、緑色のうちは苦み、“毒”だと分かっているように、子どもも分かっているのです」(幕内さん)

「緑色」「においが強い」「苦い」とトリプルパンチのニガウリ
 

子どもは偏食ではない

「6つの基礎食品を作ろうとすれば、食べさせようと思えば、子どもの顔を見て、子どものための食事を作らなければならなくなります。つまり、無理やりピーマンやニガウリを食べさせようとしたら油で炒めたり、ドレッシングやマヨネーズを多用したりするなど、食卓は“油攻め”になってしまいます。油を使うと、苦み、つまり“毒”を流出させることができるからです。子どもの生活習慣病が指摘される時代、油脂類を大量に使ってまで野菜を食べさせることはすすめられません。一方で、芋やカボチャ、豆類は好んで食べます。目鼻口で確認した上で、親が何を作ろうが、白いごはんばかり食べている。子どもが好きなのは甘くて、においが少ないもの。だから、ごはん(お米)を好み、母乳を好む。子どもは生きていくために何が必要か分かっているのです。子どもがピーマンを食べられなくても親が自分を責める必要はありませんし、子どもは偏食ではありません」(幕内さん)

甘くて、香りがきつくない。子どもは白いごはんが大好き

たしかに、自分を顧みても、子どものころはピーマンが嫌いでした。ピーマン嫌いで「偏食」の烙印を押されてしまうのだとしたら、世の中の子どもの多くが偏食ということになってしまいそうです。今ではピーマンを平気で食べていますし、むしろ、夏になるとあの苦みが恋しくなります。幕内さんは「大人になったら食べられるようになるのだから、子どものうちから慌てることはありません」と言います。

幕内さんは「近年の食育に関する活動には栄養改善普及運動に続く第二の危険性を感じる」と指摘します。「食について勉強をしていない人が食育を語るようになった。食生活の問題は、薬と違って、間違ってもすぐに死ぬことはないからです。今は“第二次親子イジメ”が行われていると思っています」

では、子どもの食事をどのように考えればいいのでしょうか?
「子どもの好き嫌いは『偏食』ではない【後編】」では、幕内さんにその「6カ条」を聞きます。

「粗食のチカラ」(青春出版社)

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子どもの好き嫌いは「偏食」ではない【後編】

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