子どもの顔を見て食事を作らない
「子どもは、たとえ知識がなくても、本能で必要な食材を選び取っています」と幕内さん。
ということは、むしろ子どもの顔を見て食事を作れば問題ないのでは?
ところが、そうはいかないのが現代の食事情。「現代でも嫌いなものについては子どもの感覚はあてになりますが、好きなものはあてにならなくなっています」と幕内さんは言います。「昔は食の快楽があるのは大人だけでした。ところが、砂糖や異性化糖(デンプンを原料に作られた液状糖)、精製された脂質といった子どもでも快楽を感じられるものが大量に入り込んできて事情は一変しました」
1975年、家庭用冷蔵庫の普及がほぼ100%に達したと言われています。幕内さんの子ども時代は清涼飲料水を飲む機会は地域のお祭り程度で、家庭に常備する人はいなかったそうです。「清涼飲料水を常温で飲む人はあまりいませんよね。あくどくて、べたべたして……。でも、家庭でいつでも冷やすことができるようになりました。さらに、自動販売機がどこにでも設置されるようになりました。そうした子ども時代を過ごしてきた世代が子どもを育てるようになったのが現代です」

いつでもどこでも清涼飲料水が飲めるようになった
一方で、食事そのものも、ラーメン、パン、菓子パン、シリアル、カップ麺、パスタ、ピザなど、主食でさえも砂糖や異性化糖、油を含んでいるものが増えてきました。こうした高脂肪、高精製糖の食事が肥満や糖代謝異常などの小児生活習慣病を増やしていると言います。そんな状況の中、子どもの顔を見て食事を作った分かりやすい例が「お子様ランチ」。オムライス、唐揚げ、ハンバーグ、ソーセージ、ポテトフライ。調味料はマヨネーズ、ケチャップ、ソース。飲み物は清涼飲料水、オレンジジュース、乳酸飲料……。子どもは甘いものとうまいものが好きであると思えば、当然の結果です。

子どもの顔を見て食事を作るとお子様ランチになる
子どもの食は「遊ばせること」が大事
幕内さんは「食事の条件はそれぞれ、理想の食事もそれぞれ。共働きだろうが、経済的に余裕がなかろうが、子どもの食事は見直せます」と断言します。
そこで、子どもの食事作りにおいて大切な6カ条を幕内さんに聞きました。
しっかり外遊びをさせる(重要度★★★★★★★★★★)
「空腹は最大のごちそうです。しっかりと遊んだ子どもは『胃袋』で食べるのであっさりとした食事でも満足します。遊ばないと『目』で食べるようになり、手の込んだ料理でないと満足しなくなってしまいます。つまり、遊ばせることで砂糖や油脂類の誘惑に勝つことができます。大人に置き換えると、たとえば山を登って山頂で食べるおむすびはおいしいですが、お花見ではおむすびよりもビールとつまみになりがち。体の疲れが健全な食事を教えてくれて、脳の疲れはタバコやコーヒーやチョコレートなど快楽を与えてくれる嗜好品を教えてくれるということです」

しっかり遊べばおむすびで満足
子どものための食事は作らない(重要度★★★★★★★★★)
「なぜ子どもの食事に苦労するのか。“子どもの食事”を作るからです。昔はわざわざ子どものための食事なんて作りませんでした。大人の食事で食べられない料理もあるかもしれませんが、それはたいがい子どもが食べる必要のない料理です。ごはんでお腹いっぱいにしてあげれば十分です。子どもの顔を見て食事を作ると、砂糖と油脂類だらけの『お子様ランチ』に近づくだけです。私が子どものころは食卓に食べたいものがなければ、ふりかけや味噌汁でごはんを食べていました」
飲み物は、水、麦茶、ほうじ茶(重要度★★★★★★★★)
「成長期の子どもは代謝が激しいため、水分欲求が大きいもの。飲み物の選択肢はとても重要です。飲み物は水分を補給するものであって、カロリーをとるものではありません。飲み物でカロリーをとってしまうと、きちんと食事をしなくなってしまいます。ちまたには清涼飲料水があふれていますが、水、麦茶、ほうじ茶を選びましょう」

飲み物はカロリーではなく水分を取るもの
朝ごはんをしっかり食べさせる(重要度★★★★★★★)
「朝はパン食の家庭が多くなっています。朝はごはんと味噌汁をしっかりと食べさせるようにしましょう。忙しい場合は、朝からごはんを炊く必要はありません。夜に多めにごはんを炊いてジャーに入れておけばいいし、味噌汁を温め直せばいい。副食は、海苔や納豆やふりかけなどの常備食。共働きの家庭でもできるでしょう」
子どものおやつは食事(重要度★★★★★★)
「子どものおやつは成長のために必要な食事です。おむすびなど簡単な食事で十分。うどん、さつまいも、とうもろこしなど、穀類、いも類を中心にしましょう。砂糖の入ったお菓子や油脂類の多いお菓子は特別なときだけにしましょう」

サツマイモやトウモロコシなど、子どもは甘いものが好き
カタカナ主食は日曜日(重要度★★★★★)
「子どもは大丈夫でも、親までパスタやパンやラーメンなどの“カタカナ主食”ゼロというのはなかなか難しいもの。日曜日のお楽しみで、平日はごはんを主食にしましょう」
伝統食を現代に翻訳して提案する
6つの提案は、実にシンプル。「現代は“情報過食症時代”。玄米とか無農薬無添加の食品といったことも大切ですが、その前に誰でもやれることがある。手の届く提案が必要です。子どもの食事作りは情報が難しくしているだけなのです」(幕内さん)
幕内さんは言わば、その時代の現状に合わせた“伝統食の翻訳家”。「昔の食事に戻ろうなんて非現実的。砂糖、異性化糖、脂質が大量に存在する今の時代に、どう食事を提案するかが大事」と言います。
一方で、「そのうち、『せめて朝食は菓子パンではなく食パンを食べさせましょう』と言う時代が来てもおかしくありません」とも指摘します。次世代に食文化と健康を継承していくためには、私たちが一回一回の食卓で何をどう食べるかが大切。幕内さんは、栄養素だけを見て非現実的な提案をする「栄養“素”士」ではなく、食生活全体を見た上で現状に即した提案をする「栄養士」なのです。
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