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稲で描いて地域を元気に! 「おだあし田んぼアート」

連載企画:お米ライターが行く!

稲で描いて地域を元気に! 「おだあし田んぼアート」

最終更新日:2018年10月15日

日本各地に「田んぼアート」が広がっています。田んぼアートとは、田んぼをキャンバスに見立てて色の違う稲を植えていき、上空から見ると稲が育つごとに絵や文字が浮かび上がってくる、人と稲が生み出す芸術作品。主に地域おこしのための観光コンテンツとして、アニメや映画、地域ゆかりの歴史上人物などをモチーフにした作品が多い中、神奈川県西部の小さな田んぼで行われている「おだあし田んぼアート」は、芸術性よりも地域住民に向けたメッセージを重視しています。

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新規就農者を田んぼアートで応援

丹沢山(たんざわさん)のふもとにある神奈川県・山北町の田んぼで今年の6月に「おだあし田んぼアート」の田植えイベントがありました。そこで植えられたのは、晩生(おくて:生育期間が長い品種)のうるち米「にこまる」と、黒色の穂が出る古代米の「緑米」。田植えから4カ月近く経った田んぼに少しずつ浮かび上がってきたのは、「女の子」と「牛」と「やまちらくのう」の文字。この田んぼアートは何を表しているのでしょうか?

田んぼに浮かび上がってきたのは……(写真提供:志村屋米穀店)

「今年の田んぼアートのテーマは『山地(やまち)酪農』です」と話すのは、神奈川県小田原市「志村屋米穀店」店主の志村成則(しむら・しげのり)さん。おだあし田んぼアートを行っている地元の「小田原足柄異業種交流勉強会(通称:おだあし)」のコアメンバーの1人で、この田んぼアートのリーダー的存在です。

「おだあし田んぼアート」のリーダー的存在、「志村屋米穀店」 の志村さん。手にしているのは、昨年の田んぼアートで収穫したお米

山地酪農とは、傾斜地のある山地で乳牛を放牧し、牛は草を食べ、牛の糞尿は草の栄養になるという循環の中で飼育する方法です。牛舎で穀物を与えられて飼育されている一般的な牛とは違い、放牧されることで牛のストレスが減少するほか、エサの購入費や糞尿処理費の抑制、重労働の軽減などの利点が注目されています。

今年の初夏から山北町の大野山(おおのやま)の県営牧場跡地で山地酪農を始めたばかりの若き酪農家・島崎薫(しまざき・かおる)さんの挑戦を地域全体で応援しようと、島崎さんと牛をモデルに東京都在住のデザイナーKAMAKIRIさんが下絵をデザインしました。

島崎さんの山地酪農を田んぼアートで応援(デザイン:KAMAKIRI)

田んぼからのメッセージ

みんなを笑顔に

おだあし田んぼアートは、2011年から始めた米作りプロジェクトを足がかりに、13年からスタート。
1年目は東日本大震災後、「みんなに笑顔を届けたい」(志村さん)という思いから、「ニコちゃんマーク」に挑戦。志村さんが借りた小田原市内の5アールほどの小さな田んぼに、大きな笑顔が出現しました。

ニコちゃんマーク(写真提供:志村屋米穀店)

あのにぎわいを再び

2年目の田んぼに出現したのは、「ブリ」。志村さんによると、かつての小田原漁港は、ブリの三大漁場の一つ。当時の自然の豊かさやにぎわいを地域に取り戻そうという思いを込めて田んぼにブリを描き、収穫したお米は「ブリ米」と命名。そのユニークな名称も話題を呼びました。

ブリ(写真提供:志村屋米穀店)

獣害を知って

3年目は、「猪鹿蝶(いのしかちょう)」。地域では鹿やイノシシなどの獣害が深刻となっていました。「あまりにも被害がひどいため、農家をやめてしまう人も出ていた。みなさん大変な思いをしていました」と志村さん。ところが、農家でない人たちは同じ地域に住んでいても、そうした状況を知らない人も多かったと言います。「まずはその土地に住んでいる人に知ってもらうこと。知ればおのずと自分とのつながりが見えてきて、“自分ごと”になってくると思うのです」(志村さん)
イノシシと鹿ならば、花札にちなんでチョウも入れてしまおうという流れで、深刻なテーマを感じさせない、かわいらしい絵柄が完成しました。

「猪鹿蝶」(写真提供:志村屋米穀店)

私たちの水源地

4年目は、小田原市の田んぼから、同じ神奈川県西地域内にある山北町の田んぼに移動。同じく5アールほどの小さな田んぼを選びました。山北町には、神奈川県民の暮らしを支える水源があることから、志村さんは「OUR WATER SOURCE(私たちの水源地)」と、初めて絵ではなく文字を田んぼに描くことにしました。

この文字には「水源環境を知ってもらい、水と森の関係に関心を持つ人が増えてくれたらうれしい」という志村さんの思いが込められています。
「森の保水機能によって雨はミネラルを蓄えながらじわじわと川に流れ、その水を田んぼにも引き込みます。良い水を作るためには森を守ることが大事です」と志村さん。さらに、森から流れてきた水は、地域の生活用水や工業用水になり、ミネラル豊富な水は海を豊かにすると言います。「OUR WATER」はうまく出ませんでしたが、「SOURCE」だけは思いの強さを表すかのようにくっきりと浮かび上がりました。

「OUR WATER SOURCE」の「SOURCE」(写真提供:志村屋米穀店)

町おこしを後押し

5年目は、「D52形蒸気機関車(通称:デゴニ)」。かつて地域を走っていた機関車で、現在は山北町の山北駅前の公園に飾られています。
デゴニの前身「D51(デゴイチ)」をモチーフに群馬県・川場村で田んぼアートを作っていたメンバーがおだあし田んぼアートへ視察に来た縁で、デゴニの田んぼアートが実現しました。前年までの下絵は志村さんがフリーハンドでデザインしていましたが、この年は、おだあしメンバーの友人の測量士がデゴイチをアレンジ。初めて精密な下絵となりました。この年の田んぼアートは、デゴニで町おこしをしようとしている山北町を後押ししようという思いを込めました。

「D52(デゴニ)」(写真提供:志村屋米穀店)

収穫したお米は志村屋米穀店で販売。緑米などが混ざっているため、そのまま炊くのではなく、白米1合に大さじ1杯程度を混ぜる炊飯を推奨しています。

米屋でありながら米農家

それにしても、なぜ志村さんは米屋でありながら、田んぼを借りることができるのでしょうか?

実は、志村さんは米屋でありながら、農家資格を持った米農家でもあるのです。

米屋でありながら米農家でもある志村さん(写真提供:志村屋米穀店)

現在45歳の志村さんは、29歳のころに地元の農家の田んぼで一から米作りを学び、10年前に認定農業者(※)の認定を受けました。徐々に経営面積を増やして、現在では市内の1.65ヘクタールで米を栽培しています。

※ 5年後の経営目標と達成に向けた「農業経営改善計画」を市町村に提出し、認められた個人や法人。地域農業を担う意欲的な農家を育てるのが目的で、低利融資などの対象になる。

「田んぼが好きで米屋だけでなく米作りまでやっているのは、子どものころに田んぼに触れる機会があったからだと思っています」と志村さん。だからこそ、地域住民、特に子どもたちに田んぼに来て体験してもらうことを重視していると言います。

おだあし田んぼアートで稲刈りを楽しむ参加者たち(写真提供:志村屋米穀店)

「今の子どもたちは田んぼに触れる機会が少ないですが、触れなかったらその良さが分からない。テレビやネット動画で見るものだけではなく、田んぼでの体験を通して興味や特技や将来の夢などにつながる選択肢の一つになればいいなあと思うのです」(志村さん)。今年6月のおだあし田んぼアートには地元や都内から約140人が参加。うち3分の1ほどが子どもだったそうです。

子どもたちが田んぼに触れるきっかけに(写真提供:志村屋米穀店)

アートは目的ではなく、あくまで地域に向けたメッセージを伝える表現方法の一つ。だからこそ、より多くの子どもたちに田んぼに触れてもらうために、おだあしでは来年の田んぼの作付けでは「アート」よりも「体験の場」を重視していこうと考えています。

◆おだあし田んぼアート稲刈りイベント参加者募集◆
日時:10月20日(土)8:00〜13:30
場所:大野山ハイキングコース(神奈川県足柄上郡山北町谷峨・JR御殿場線「谷峨」駅から徒歩7分)
詳細は「おだあし田んぼアート2018」Facebookページ

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