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農家が教えるシシトウの栽培方法 収穫作業が一番の肥料!?多収の秘訣とは

鶴田 祐一郎

ライター:

連載企画:農家が教える栽培方法

農家が教えるシシトウの栽培方法 収穫作業が一番の肥料!?多収の秘訣とは

シシトウは家庭菜園でもとても作りやすい部類の野菜です。なんと言っても収穫量が多い! 毎日毎日楽しめます。特別難しい技術も必要なく、ある程度の放任栽培でもかなりの収穫量を確保することができます。シシトウ栽培において多い質問は、「シシトウの実が辛くなるがなぜか」といったものや、「強風で倒れるがどう仕立てたら良いのか」といった単純なものが多いようで、ほぼ同様の技術が要求されるはずのピーマンと比べても成果の出やすい作目だと言えるでしょう。

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シシトウを種から栽培したい場合は?

シシトウの栽培暦
※地上部重量:根を含まない葉・茎・果実の総重量

シシトウの播種(はしゅ)時期は2月中旬~下旬頃。もちろんこの時期は外気温が一桁台の地域がほとんどであるため、ビニールハウスと温床(人工的に加温した苗床)を所有していないと育苗に挑戦することはできません。シシトウ専業の農家でも苗は購入している場合がほとんどですので、よほどの理由でもない限りは購入苗を利用することをおすすめします。
よほどの理由がある人は、ハウスと温床を用意するか、もしくは最低気温が12℃を下回らなくなる4月下旬まで待つ方が賢明でしょう。収穫期間はその分極端に短くなりますが、収穫に至ることは可能です。
おおよそ80日程度で定植できる苗に育ちます。生育適温は25℃以上なので、気温が低ければ更に日数が必要です。

1年間の生育と必要な作業【4~5月の作業編】

圃場(ほじょう)準備

夏野菜の定植で作業が集中し、忙しい時期です。特にこの時期が定植に適しているのは、温度の関係もありますが、しとしとと優しい雨が断続的に降りそそぎ、草木の若葉を茂らせる自然の恩恵を受けるためでもあります。
定植の時期がまだまだだとたかをくくっていては、雨のせいで畑の準備ができず、大幅に定植が遅れたり、苗が老化したり、最悪の場合は濡れた畑を無理やり耕して劣悪なコンディションの土で1年間栽培することを余儀なくされます。
必ず早めの圃場準備を行ってください。目安としては1カ月前に堆肥(たいひ)、石灰散布、15日前に肥料散布、畝づくり、マルチング(土の表面をビニールやわらなどで覆うこと)を済ませておきます。
一般的に、畝の高さは20センチ、畝幅100センチ程度で、株間50~70センチの1条(1列)植えとなります。長期間の栽培になりますので、マルチ資材の使用を推奨します。

シシトウの栽培方法1

施肥

1平方メートルあたり牛ふん堆肥20キロ、苦土石灰(くどせっかい)1キロ、化成肥料(8-8-8の場合。数字は窒素・リン酸・カリウムの割合を表します)2キロを施用して耕しておきましょう。苦土石灰に含まれるカルシウム分が他の肥料成分と化学反応を起こすことがあるため、石灰と肥料の散布は1週間程度間を置いた方が良いとされます。
もちろん堆肥に含まれる肥料成分でも反応は起きますが軽微なものなので、堆肥と石灰は同時に散布する農家も多くいます。

定植

苗は深植えになりすぎないように気を付けましょう。畝面に対して平らになるくらいか、少し浮いてしまう程度でも構いません。
植穴を掘ったら、その植穴にたっぷり水やりしておけば、露地であれば収穫時期までほとんど水をやらずにすみます。よほど晴れが続いて葉がしおれるようであれば、その時にまたたっぷり水をやってください。
仮支柱は斜めに差し込み、できるだけ高い位置できつく止めすぎないように余裕を持たせて苗を固定します。

シシトウの栽培方法2

根付いて成長しはじめるまでの2週間ほどはじっとしているように見えますが、しっかり根付いていればその後の気温の上昇と共に一気に葉が開き、脇芽の伸長がはじまります。

1年間の生育と必要な作業【6~10月の作業編】

誘引(※)・整枝

ナス科作物の誘引作業は非常に手間のかかる作業で、ピーマン・シシトウ栽培にも当てはまるのですが、露地栽培に関してはそこまで細かな誘引・整枝作業は要求されません。枝の伸長がそれほど多くなく、ある程度の放任でも倒れさえしなければそれなりの収量を確保することができます。
ここでは倒れないために必要最低限の仕立てとして最も多く普及している手法を紹介します。
“フラワーネット放任栽培”です。

※ 誘引:茎や枝を支柱に結びつけて固定し、倒れるのを防いだり、成長の方向を調節したりすること。

シシトウの栽培方法3

図のように、50センチ程度の高さに「フラワーネット」という花き栽培で用いられる専用のネットを張り、そこに枝を引っ掛けてしまうというもので、安価で簡易かつある程度長期間の栽培に耐える耐久性を持っています。その他ネットを代用しても良いでしょう。
ハウス栽培においては、それぞれの枝を支柱で支える「4本仕立て」という方法が用いられ、更なる増収を狙う方法もあります。しかし、より高度で細やかな剪定、整枝を求められますので、フラワーネット栽培の方をお勧めします。

ただし、全くの放任では収穫時期の後半、極端な曲がり果や石果(固くて食用に向かない果実)、病気の多発や減収が起きてしまいます。花を落としてしまうのは惜しいでしょうが、混み過ぎて葉陰で真っ暗にならない程度に枝をばっさりと落として、地面に木漏れ日が射す程度には透かせてあげましょう。

収穫

枝が混み過ぎず、梅雨明け以降に水が切れなければ、シシトウ栽培はひたすら収穫収穫の日々です。シシトウ栽培とは、終わってみればただただずっと収穫だったと思うことでしょう。採れば採るだけたくさんの収穫ができますが、収穫せず放置すればなかなか実がつかなくなっていきます。気合をいれて日々の収穫に励みましょう。収穫が一番の追肥です。
シシトウ栽培の一番のポイントは収穫作業に飽きないメンタル面の工夫です。ラジオでも聞きながら楽しんで、涼しい朝のうちに収穫しましょう。

追肥

収穫が始まったら、月に一回程度追肥を施します。1平方メートルあたり化成肥料8-8-8で400グラムを散布してください。6月の追肥は畝の上にマルチをはがすか穴をあけて施肥した方が効果的ですが、7月以降は畝間の通路にばらまきしておけば、充分に効果があります。

シシトウ栽培で気を付けたい病害虫とは?

シシトウは病害虫もさほど多くなく、家庭菜園であれば無農薬栽培も可能ですが、やはり気を付けておかなければならない病害虫はあります。

青枯病(あおがれびょう)(細菌)

葉が青々していながらもしおれて、夜~朝見るとまたシャキッとしているように見えるが、陽がのぼるにつれまたしおれてしまうことを繰り返した後に枯れる。一株発生すると立て続けに感染し、ナス科作物全てを枯らしてしまう。ナス科作物に共通の超重要病害で、これが発生した圃場にはもうナス科作物は数年間植えられない。感染経路は土壌。
よく言われる「連作障害回避」とは主にこの病気の回避のこととも言える、最も恐れるべき病気。発生した株は即引き抜き焼却する。一度作付けした圃場には3年以上ナス科作物を植えつけないようにするか、青枯病耐病性のある台木を使用した接ぎ木苗を使用。

モザイク病(ウイルス)

ウイルス性の病害で、治療手段は無い。葉が縮れ萎縮し、植物全体が奇形となる。初期症状として葉にモザイク状の斑点が発生するため、発見次第即引き抜き焼却する。感染経路は切り傷やアブラムシなど吸汁系の害虫であるため、アブラムシ防除が最も大切。

うどんこ病他(糸状菌)

その他ほとんどの病害に関してはそれぞれに対応した薬剤を使用して発生を予防したり、抑制することができる。

ヨトウガ・タバコガ

葉や実を食害する蛾の幼虫。大量発生することも多いため注意が必要。実に穴を開け、中身を食害するのはオオタバコガであることが多い。

アブラムシ

特に植え付け初期や秋口など涼しい時期に大量発生しやすい。植え付け時、植穴に粒状の殺虫剤をひとつまみまいておけば初期の発生はかなり少なくなる。

シシトウの実が辛い原因って?

シシトウ栽培において最も相談が多いのが、「収穫した実が辛い」というものです。
まれに、トウガラシを近くに植えると辛くなるという話を聞きますが、そうではありません。
結論から言うと、シシトウの木がストレスを受けると、果実内のカプサイシンという成分が蓄積され、ある一定量を超えると人が「辛い」と認識するようになるのです。
もっとも多い例で言えば「水分ストレス」。特に梅雨明け後の晴天続きの時、1週間以上雨が降らないようであれば必ず水やりを行ってください。カラカラに乾燥した状態だと、シシトウはストレスを受けて辛くなってしまいます。
また、気温が低くなってきたり、収穫せずに長い期間実をならせ放題にしても、シシトウの中にカプサイシンがたまっていき、どんどん辛くなっていきます。
基本的には肥料や水の不足、もしくは外気温など何らかの環境要因がシシトウにとってストレスになっていると考えましょう。

以上がシシトウの育て方となります。基本的にはピーマンやトウガラシ栽培も全く同じ要領で栽培することができます。夏野菜の代表格といえるトマト・ナス・キュウリ・ピーマンの中でも、特にピーマン(シシトウ・トウガラシ)は初心者におすすめと言えるでしょう。

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