酒米の出来を支える‟土”と‟人”【きき酒師の漫才師が泉橋酒造にツッコミ!Vol.2】
公開日:2018年11月30日
最終更新日:
ヤッホー! 世界で唯一のコンビ揃ってきき酒師の漫才師「にほんしゅ」です!大好きな日本酒にまつわる活動や漫才をするうちに、日本酒の原料「酒米」への興味が膨らみ、田んぼへの愛情まで湧いてきた僕たち。こうなったら「酒米作りをする蔵元」さんに話を聞きに行くしかない!というわけで、20年以上前から首都圏の住宅地近くに広大な自社田を持ち、様々な酒米を育てる「泉橋酒造」を3回にわたって直撃! 2回目は「稲刈編」。酒米を収穫している日に訪問し、徹底インタビュー!
今年の異常気象。酒米の出来や収量は?
10月下旬の見事な秋晴れの日、今回もやってきました! 20年以上前から自社田で様々な酒米を育てる「泉橋酒造」です。新宿から急行電車で50分ほどの海老名駅から少し離れた住宅地に酒蔵と一面の田んぼ。秋の収穫の時期を迎え、黄金色となった田んぼを背景に泉橋酒造の社長、橋場友一(はしば・ゆういち)さんがダンディかつ爽やかな笑顔でお出迎え。インタビューは前回から心配していた酒米の出来の話題から始まりました。
蔵の目の前に広がる酒米の田んぼについて解説する橋場社長
橋場さん! 橋場さーん! 今年の夏と秋は関東でも大変な天候でしたね!!
酒米は……酒米の品質は無事なんでしょうか?
あさやん
橋場
あさやん
落ち着けって(笑)! 同じ酒飲みとして心配な気持ちは分かるけど。
橋場さん、すみません。今年は観測史上最速の梅雨明け、夏の災害レベルの酷暑、猛烈な台風・・食べるお米よりも栽培が難しいと言われる酒米は無事に収穫までたどり着いたんでしょうか?
北井
酒米は背が高いから台風が大敵なんですよね?
もう台風が来るたび心配で心配で……(泣)。
お願いですから本当のことを……。
あさやん
橋場
いやいや。今年は大型台風も多くて、特に9月末に襲ってきた台風24号が1番のピンチでしたが、海老名はなんとか直撃を免れたというのと、今年は例年より稲の背丈が低かったのも倒伏を逃れたポイントですね。
北井
橋場
そうなんです。今年は梅雨がほぼ無くて日照が十分だったので稲が太陽を求めて背が伸びる必要があまり無かったんですよ。
なるほど! 今年の梅雨の短さが台風対策になっていたと……。
「わざわざ転じて福となす」ですね。
あさやん
北井
橋場
そんな感じですね(笑)。おかげさまでうちの蔵の酒米の品質は今年の天候でも悪くなかったんです。収量は例年よりやや少ないかなという程度で済みました。
ただ、全国的には水害で用水路が壊れて農業自体ができなくなったり、台風で海水が稲にかかってダメージがあったりという話は聞いているので、全国的に見ると米の収量が少なくなってるんじゃないかな、とは思います。
なるほど。今年もおいしい日本酒「いづみ橋」が無事仕込めそうで一安心です。安心したら眠くなってきたので少し寝ますね。
あさやん
北井
神奈川県海老名市の風土・土壌の中での酒米づくり
酒米は全国で作られていますが、海老名の土地ならではの風土や土壌の特徴ってありますか?
北井
橋場
うちの蔵は海老名の中でも北部にあるんですが、うちの酒米を一緒に作ってくれている農家さんは北部にも南部にもあります。
ざっくり分けると海老名の南部は粘土質で、北部はさらっとした砂状なんですよ。
稲刈り後の泉橋酒造の田んぼの土
なるほど。ただ、酒米の王様といわれる「山田錦」は兵庫県の山間部の粘土質の田んぼで育ったものが最高級だと日本酒好きの僕たちはイメージするんですが。
北井
なるほど! 確かに!
しかし……泉橋さんの蔵がある北部は粘土質ではない……。
追い込まれましたね橋場さん!
あさやん
北井
橋場
もう白状するしかありません! というのは冗談で(笑)。確かに山田錦は粘土質がいい(天候が悪く水が少ないときも水分や栄養がとれる)と言われるんですが、海老名に関しては北部の方が例年安定した酒米栽培ができているのかなと思います。
へー! そうなんですか! ここをもう少し詳しく聞かせて下さい!
北井
橋場
海老名は空梅雨でも動じないくらい水が豊富なので田んぼの土が水を蓄える必要があまりないんですね。それゆえ南部は肥料や栄養が多すぎるかな、なんてこともあるくらい。酒米は食べる米と違って栄養(タンパク質や脂肪)が少ない方がいいので、そのコントロールのしやすさを考えると、北部のように砂状の田んぼでもいい山田錦ができると思っています。
山田錦は粘土質でないとダメとか、そんなに単純な話ではないんですね。
北井
うんうん。意外に知識と経験が豊富ですね、橋場さん。
あさやん
北井
橋場
あと、秋に収穫が終わってから土の肥料成分などがどうなったかを調べるんですよ。田植えをして育ててる最中はそこまで詳しく調べられないので天候や稲の状態を見て追肥したりするんですが、「それがちゃんと効果的だったのか!?」というところの答え合わせみたいな感じですね。で、結果を見て、次の田植えをする春までに足りなくなった栄養を見極めて土を作っておく。それが安定した米作りに繋がると思います。
収穫の早い早稲品種と収穫の遅い晩稲品種をどちらもやることでその年の天候が稲にどう影響するかがわかって来たり、温暖な海老名には西日本の品種である山田錦や雄町など晩稲の品種が合ってるみたいだなぁ、というのが分かってきましたね。
順調に収穫される酒米「雄町」の田んぼを見守る橋場社長
安定した酒米づくりをするために大切なこと
土そのものの特徴のみでは酒米栽培が語れないのは分かったんですが、他に大切にしていることって何でしょうか?
北井
橋場
そうですね、結局「人」がどういう想いで米を作るかが大切なのかなと。今はもう海老名でも酒米が作れることが分かったんですけど、それは僕が「酒米を作ろう!」と動いたときに想いを理解してくれて協力してくれた地元農家さんたちがいたからこそ、ですからね。
あさやん
北井
橋場
酒米農家さんとの繋がり、「顔が見える」仲間でやっているからこそ、酒米の状態が生育期からよく分かるし、醸造までイメージが繋がるというメリットがありますよね。
北井
橋場
20年以上酒米作りを継続してきたことで品質が特に重要視される米麹用の酒米はこの農家さんのお米かな、とかも大体決まってるんですよ。これが助かる。
お酒の仕込みのスタートがバタバタせずに済むんですね!
北井
継続してきたからこそ「見当がつく」酒米作りが出来るんですね!
あさやん
橋場
あさやん
北井
お酒造りをする蔵人さんが酒米の栽培・収穫も行う
橋場
あと、「顔が見える」仲間でやっていると収穫時期に農家さんの顔を見たら本当に今年の収量とか出来がわかるんですよ(笑)。
今年はなんとか米は穫れたけど、大きな台風の被害の後、秋に雨も降らずで収量が2割も落ちた平成25年は酒米農家さんたちの顔が違いましたから(笑)。その年は酒米農家仲間での忘年会すらできなかったんです。
なるほど。自分の酒蔵で使う酒米を作ってくれている農家さんの「顔が見えて」いて、顔を見れば今年の酒米の出来が分かるって良いですね!なんだか飲み手の僕たちまで安心です!
では最後の質問なんですが、今年(2018年)の大変な天候の中での酒米づくりの経験から来年以降に生かそうと思うことってありますか?
北井
あさやん
忘年会のために酒米作ってるわけちゃうねん!
ほんで橋場さんに聞いてるから。
北井
橋場
うーん……。台風にも負けない丈夫な稲を実直に作ることに尽きますね!
なるほど! 気持ちのいい回答をありがとうございます!
北井
あさやん
いや、誰がまとめようとしてんねん! 話聞いてなかったやろ!
北井
「土」そのものの特徴という意味での「土壌」も酒米づくりに関係するけど、それと同時に「海老名でいい酒米ができるんだぞ!」という想いをもとに継続した取り組みをしてきた海老名の「人」という名の「土壌」も大切ということですよね?
あさやん
橋場
北井
◆次回は「仕込み編」
泉橋酒造株式会社
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