なぜ多品目少量栽培が儲かるのか
多品目少量栽培のメリット
少ない品目を大量に作ることが、現在の農業では主流になっています。
しかし、こうしたやり方だけが農業ではありません。
多くの品目を少量ずつ作って販売するという多品目少量栽培を選んだコスモファームの中村敏樹さん。その魅力や、栽培の基本、6次化への取り組み、販路の確保などについて分かりやすくまとめた本が「多品目少量栽培で成功できる!! 小さな農業の稼ぎ方」(誠文堂新光社)です。
多品目少量栽培のメリットは、「新しい品目・品種に挑戦できる」「小規模農家でも可能」「価格を自由に決められる」「競争が少ない」の4つだと紹介しています。
成功に必要な4つのルール
さらに、多品目少量栽培で成功するために、中村さんは4つのルールを掲げました。
1.旬のものを作ること
2.作付けのバランス
3.加工を最優先にしないこと
4.自分が作る野菜について勉強すること
これらはそれぞれ、多品目少量栽培のメリットを生かすためのルールでもあります。
例えば、単品目では、年間で旬の時期は限られます。一方、多品目の場合は常に何かしらの旬が回ってくることになります。年中、旬の野菜が出荷できるということは、年中おいしさを届けられるということです。せっかくの強みを生かさない手はありません。
また、たまたまヒットした品目を翌年に多く育てることも勧めていません。翌年にも、その品目がヒットするとは限らないからです。多品目少量栽培は環境変化へのリスク回避にも適していると言えるでしょう。中村さんは「品種が多くて、何が当たったのか分からない」くらいが理想だとしています。
多品目で取り組む第6次産業
6次化するメリット
6次産業化についても、本では大きく取り上げられています。
多品目少量栽培の場合、西洋野菜や伝統野菜など珍しい野菜の栽培にも手を広げやすく、こうした野菜の加工品は目新しさで消費者を引き付けることもできます。
ただし、捨てるのにはもったいない少量の野菜を無駄にしないための手段が加工品です。先のルールに挙げたように、加工ありきではなく、あくまで栽培が主になります。
マーケットインの考え方で進める6次化
6次化で必要になってくるのが、「マーケットイン」の考え方です。
マーケットインとは、消費者が求めるものを作るということ。多品目でも単品目でも必要な考え方です。
例えば、イチゴ農家にとってイチゴジャムといった6次化は思いつきやすいものの、直売所やスーパーマーケットでは、そもそも商品力がないと売れるかどうかは難しいものがあります。低価格もあれば高級志向もある中で、埋もれない魅力を作らなければなりません。
これを避けるためにマーケットインの考え方は役に立ちます。
一例として、中村さんが指摘するのは「口に近いところまで持って行く」ということ。
消費者目線で考えれば、買ってから食べるまでに料理をしたり、さらに下ごしらえまでする必要があると手間がかかって敬遠してしまいます。これを避けるために、なるべく買ってからすぐに食べられるように、「口に近いところまで持って行く」。ただし、手軽さだけでは、コンビニエンスストアの総菜などの競合品に見劣りすることも。新鮮さなど、農家ならではの差別化を考える必要があるとも注意しています。
販路を拡大するための方法
「多品目少量栽培の農家が、『流通や販売』でつまずくケースはとても多い」と中村さん。
販路にも差別化が必要であり、「5W2H」を意識すると良いと紹介しています。
5W2Hとは、「いつ、どこへ、誰が、何を、なぜ、いくらで、どのように」ということ。これを考えていくことで、買う相手の立場に立った工夫が生まれ、野菜が魅力的に見えてきます。
コスモファームでは、マルシェへの出店を地道に続けた結果、出会いが連鎖して、取引先が広がったそうです。
多品目少量栽培を実践するための一冊として
本書では、他にも具体的な栽培について、品種の選び方や作付けモデルケース、コスモファームの12カ月の作業や収穫品目も詳しく書かれています。
6次化についても、いざ始める際に迷う加工所の置き方や、食品衛生法などに基づく営業許可などのアドバイスが豊富。
新規就農者、小規模農家にとっても多品目少量栽培を実践するための一冊となっています。
◆著者プロフィール◆
中村敏樹(なかむら・としき)
1956年生まれ。長野県上田市出身。香川大学農学部園芸学科卒業後、農業指導員を経て農業コンサルタント・農業プロデューサーとなる。日本野菜ソムリエ協会講師、都市農山漁村交流活性化機構アドバイザー等。コンサルタント業のかたわら、トマト・オクラなどの野菜栽培・出荷を行う。2009年より有限会社コスモファームにて多品目少量栽培に取り組む。
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