中小規模ハウスでもICT農業 環境制御システムを自作できる注目書を著者が語る

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中小規模ハウスでもICT農業 環境制御システムを自作できる注目書を著者が語る

連載企画:おすすめ農業本

中小規模ハウスでもICT農業 環境制御システムを自作できる注目書を著者が語る

最終更新日:2019年03月01日

収量増加や労働力不足などの課題に有効と考えられるICT(情報通信技術)を活用した農業。高コストで大規模農業だけの話と思われがちですが、中小規模農業でもICT農業を比較的安価に導入できる手があります。それはシステムを自分で作ってしまうこと。書籍「ICT農業の環境制御システム製作」にはその方法が詳しく書かれています。さらに、書籍で紹介しているシステムは、コスト以外にもメリットがあるのだとか。編著者から聞いた、中小規模農業でもできるICT農業について紹介します。

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施設栽培にICT技術導入で情報活用

UECSを利用したハウスの例(農研機構NARO)植物工場 つくば実証拠点のキュウリ圃場)

ICTと農業を組み合わせて課題解決

2018年8月に書籍「ICT農業の環境制御システム製作」(発行:誠文堂新光社)が発行されました。今日、注目されるICT農業について詳細に解説し、中小規模の農家でも実践できるICT農業について触れている点で個性的な一冊です。
広い意味ではSNSを使った情報共有もICT農業と言えますが、ここで取り上げるのは、収量や労働効率の向上など主に栽培の現場で役立つICT農業についてです。

ICT農業へのハードルを下げるために出版を企画

本書は「ICTを農業に利用する際のハードルを下げたい」という思いから企画されました。
ICTシステムは一般的に高価で、ものによれば1000万円クラスとも。このため、ICT農業と言えば、1ヘクタールを超える大規模な植物工場を営む農業法人のものと捉える方は少なくないでしょう。
これを、中小規模に活用できる形として示したのが本書です。
核となるシステムが、UECS(ウエックス)です。UECSとは、ユビキタス環境制御システム(Ubiquitous Environment Control System)の頭文字をとったもので、ハウスなどの施設の環境をICTで計測・制御するためのシステムです。装置が個々に自律して動く、“自律分散”が特徴です。それぞれの通信は、誰もが自由に使えるように公開された規格(オープンソース)になっています。
専門的な説明は省きますが、ほしい機能を絞って、コストをかけずに取り組みを始められます。慣れてくれば段階的に機能を付け加えられ、中小規模ハウスから大規模な施設まで活用できるシステムだと本書では紹介しています。

環境制御システムを自作できる本

編著者の一人である中野明正さん。野菜ソムリエ上級プロの資格も持っている

雑誌の連載から出版へ

本書は雑誌「農耕と園藝」(発行:誠文堂新光社)の連載に大幅に加筆したものです。
編集の中心となった人物が、農林水産省の農林水産技術会議事務局に研究調整官として勤める中野明正(なかの・あきまさ)さんです。
「ICTに詳しいわけではないんですよ」と中野さん。
1995年から国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で作物の生産技術などの研究を行ってきました。その中で、ICTやロボット分野にも詳しい研究者ともチームを組んで研究をしていったため、自然とICT農業についても知ることになりました。
今後、多くの人が取り組めるしくみを示しておくことが重要になるとの思いから、2016年に研究仲間などと連載をスタートすることに。

“見える化”、“植物の声を聞く”、“仲間との連携”

ICT農業のポイントを中野さんは3つ挙げます。
“見える化”と“植物の声を聞く”こと、そして“仲間との連携”です。
中野さんはダイエットを例に挙げて「ICT化は、いわば体重計で日々の体重を記録するということ。毎日、体重を量っていると『最近増えてきたから食事を控えめにしよう』と思いますよね。ハウスも同じで、まずは客観的に数字で見るだけでも変わってくると思います」と説明します。
これが“見える化”です。
そして、その時の“植物の声を聞く”。生育は順調か、植物の状態を観察し、収量、品質を記録することです。これらのデータが“仲間との連携”につながります。
「環境と収量のデータがあれば、仲間同士でうまくいっている圃場との違いをより客観的に議論できます」(中野さん)

環境の計測や測定システムをハウスに

自作の手順は写真とともに説明されている

本書の特徴のひとつが、UECSを使ったICTシステムを自作できるハウツーが掲載されていること。
必要な部品・ソフトなどが紹介されており、ひとつずつをハンダ付けするなどして組み立てることで、環境制御システムを作ることができます。
組み立ての手順は一工程ずつカラー写真で説明されているため、プラモデル作りのような面白みも感じられます。
しかも、その製作コストが10万円程度に抑えられるという点は魅力的でしょう。

チャレンジングな本として

技術は日進月歩のため、情報はすぐに古くなります(※)。それでもICT農業の考え方を示す意味で、あえて書籍に残すことに「チャレンジしてみた」そうです。
電子基板やコードなどの写真から、工学的にも見えるため、「拒否反応を示す方もいるかもしれない」と中野さん。そういう人には自作は難しく感じられるかもしれませんが、概要をつかむ情報や、実際の農家による製作・導入事例も掲載されていて、理解を助けてくれますし、ICT農業の考え方を知るだけでも有用です。
「農業ICTの草の根的な取り組みを支えるツールとして、ぜひUECSなどのシステムを活用してもらうと同時に、市販品で組み立て可能な安価な機器も使っていただければと思っています」(中野さん)

※ すでに販売されなくなり代替品が出ている部品などもあるため、著者は本書をあくまで考え方の総体を学ぶ書籍としての活用を勧めています。なお、具体的な実習は、農研機構等で不定期に開催されています。

労働力不足の解消にICT農業を

写真や図表も豊富で読みやすく編集されている

「農林水産省でも、スマート農業を推進しています。農業の担い手が不足する中、いろいろな施策はありますが、ICT化などの技術によっても、効率的に農業を行うことをサポートできると思います」と中野さん。
一方で、過度に頼るものではないと指摘します。
「ICTは技術ツールのひとつに過ぎません。地域や農家の実情によって取り組めることには差があるでしょう。UECSは、段階的に発展できる点でも通常のシステムとは発想が異なります。一歩一歩ながらスピード感をもってICT農業を推進させるツールとして活用し、ICT農業をさらに進めていきたいと考えています」
 

◆著者プロフィール◆
中野明正(なかの・あきまさ)
山口県出身。1990年九州大学農学部農芸化学科卒業。1995年京都大学大学院農学研究科博士課程中退。1995年から農研機構にて園芸作物の生産技術および品質制御に関する研究開発を実施。農学博士、技術士(農業)、野菜ソムリエ上級プロ、土壌医などのさまざまな資格を生かし、農業と科学技術の架け橋を目指した取り組みを行っている。また、JICA専門家として海外でも取り組みを広げる。現在、農林水産省農林水産技術会議事務局研究調整官。
 

誠文堂新光社
 

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