1700人の羊肉好きコミュニティー
──羊肉についてお話をする前に、まずは菊池さんが代表を務める「羊齧協会」とは何なのか教えてください。
「羊齧協会」は羊肉好きが集まる非営利団体で、羊肉のおいしさを広めるために普及活動などをしています。口コミやSNSで会員数が増え、現在、全国に約1700人の会員がいます。
主な活動内容は3つで、羊肉を食べる会を月に1~2回実施すること、年1回の羊の祭典「羊フェスタ」開催、ホームページやメディアを通じて羊に関する正しい情報を広めていくこと、となっています。
──非営利ということは仕事ではなく趣味のコミュニティーですよね。なぜ菊池さんはこのような活動を?
私は父方が岩手県遠野市の出身なんですが、遠野市はジンギスカンが名物なんです。スーパーで羊肉が売っていて、家で羊肉を食べるのは当たり前だったんですね。
子供の頃から三国志が好きだった私は中国の北京外国語大学に進学し、ウイグル族居住区の近くで学生時代を過ごしました。ウイグル料理にもよく羊肉が使われるので、中国でもいつも羊肉を食べていたんです。それが、大学を卒業して東京に来たら羊肉がどこにも売っていないので驚きました。そこで、中国で知り合った友人たちと首都圏で羊肉を食べる活動をはじめたのが「羊齧協会」結成のきっかけです。
羊肉ブームのワケ
──今、メディアでは羊肉ブームと言われています。実際に羊肉の消費量はどれくらい増えているのですか。
羊肉は国産が1%未満しかなく、9割以上がオーストラリアとニュージーランドからの輸入です。最近はアイスランドやフランスから高級ラム肉も入ってきています。財務省の貿易統計をもとにした農林水産物輸出入統計によると、羊肉の輸入量は2016年約1万9642トン、2017年約2万1734トン、2018年は10月までで既に約2万1146トンと、ここ3年間は右肩上がりです。
羊肉を扱う東京都内の飲食店数も増え、3年前は250店舗ほどだったのが、今は私が把握しているだけでも500店舗あります。実際はもっと多いんじゃないでしょうか。ジンギスカンやラムチョップを提供するお店が増えていて、中華料理店やインド料理店で新たに導入したところもあります。
その他、都内ではラム肉を取り扱うスーパーマーケットが増えました。私もイオンやマルエツで購入しています。先週は200グラム380円の肩ロースの切り落としを買って、鍋にして食べました。スーパーでの流通は地域差がありますが、関東より北では入手しやすくなっています。
──ここまで羊肉が普及した要因は何でしょう。
大きな要因として2つ考えられます。1つ目は、いろんな国の人が日本に来るようになったからです。羊肉は世界中で食べられているお肉で、宗教に関わらず食べられます。そのような人たちがインド料理店やトルコ料理店といった他国料理のお店を出店し、日本人が羊肉に触れる機会が増えました。
2つ目は、昔食べた人が戻ってきたのではないでしょうか。2004年にジンギスカンブームがあり、おいしい店もありましたがブームに乗っかったイマイチな店も多く「臭くて硬い」という印象を残して一時的な流行で終わりました。今はチルドや冷凍の技術が向上し、輸入品でもおいしさが保たれています。たまたま飲食店で羊肉料理を食べて「今どきの羊肉はおいしい」と気付いた人たちが、頻繁に食べるようになったと思われます。
──需要が増加しても、日本で羊農家が増えない理由は?
羊肉は関税が0%なんです。国産が推進されておらず、国内の飼育頭数は約1万7000頭しかいません。30~50頭の少数飼いの牧場がレストランと直接契約しているケースがほとんどです。農家さんが羊だけで生活を維持するのは難しいのが現状です。
家庭で食べる羊肉
──羊肉はブームを越えて定番化へ向かっているのでしょうか。
このまま羊肉が定着するか、もしくはブームで終わってしまうのか、今が瀬戸際だと思っています。私たちの次の目標は、家庭の食卓で羊肉料理を定番にすることです。牛肉や豚肉の代用品ではなく、羊肉を食べる目的がないと買わなくなってしまいますよね。そのために、これからは羊肉料理の正しい調理法を伝えたいです。
──食卓に羊肉料理を定着させるために、どんな活動をする予定ですか。
今進めているのは調味料の開発とレシピ本の出版です。例えば、羊肉で炒め物や焼き物を作ろうと思ったら羊用のスパイスが必要です。また、ラムチョップは焼き方が大切で、魚焼きのグリルだとおいしく焼けます。
──家庭でラムチョップが作れるなんて魅力的ですね。
羊肉は日本人にとって新しい食材です。まだ扱い方が知られていません。飲食店の羊肉料理はどんどんおいしくなってきています。一般の消費者ももっと育っていけるように、しっかり啓蒙(けいもう)したいです。おいしい羊肉を正しく食べられる環境を作るべく、私たちはこれからも努力してまいります。
写真提供:羊齧協会
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良質な肉へのこだわりは、羊が生まれた意味を最大化するため。羊の畜産で、取り組んだ証を残したい。