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これからどうなる? 都市農業が注目されるわけ【進化する都市農業 #1】

連載企画:進化する都市農業

これからどうなる? 都市農業が注目されるわけ【進化する都市農業 #1】

東京・国立市を拠点に、婚活や忍者体験、外国人観光など幅広く農体験を提供している(株)農天気の小野淳(おの・あつし)と申します。またNPO法人くにたち農園の会の理事長として、コミュニティー農園「くにたち はたけんぼ」も運営しています。
この連載では私の実体験と取材をもとに、これからの都市農業の可能性や課題について、なるべくわかりやすく紹介していきたいと思っています。
初回は、「都市農業」の定義や、変わりゆく存在価値についてお話しします。

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大学デザイン学部が開催した「都市農業シンポジウム」

タイ米

明星大デザイン学部主催のシンポジウム「都市とデザインと農業」

昨年(2018年)の12月8日、東京都日野市にある明星大学にて「都市とデザインと農業」というシンポジウムが開催されました。

主催は明星大学デザイン学部ですが、広く一般に参加者を募集し150人近い人たちが集まる大きなイベントとなりました。午前中は東京の多摩地域で展開するさまざまな農についての事例紹介。農産物や加工品の販売などもあるお昼をはさんで、午後にはグループワークで「農業とデザインをキーワードに地域課題に取り組むアイデア」をまとめプレゼンするというところまでやります。こちらにも60人ほどが参加。
最後の懇親会を含めると9時間半にわたる長丁場を「都市農業」をテーマにやりきったのでした。

タイ米

明星大デザイン学部主催のシンポジウム「都市とデザインと農業」

参加者で目立ったのは30~50代のミドル層。それぞれ地域活動にも積極的に参加する、いわゆる「まちづくり系」の人たちです。生活の拠点が定まり、その地域地域でより豊かに暮らしていきたいという思いが見て取れました。
しかし一体なぜ、まちづくりの現場でこれほどまでに都市農業に期待が集まっているのでしょうか?

タイ米

第2部グループワークには多摩地域で街づくりに関わるメンバーが多く参加した

「都市農業」の定義とは?

そもそも「都市農業」とはなにか?という定義はあいまいです。
2015年に制定された都市農業振興基本法では「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」と定義づけており、かなり広くくくっています。
まだ「都市農業」という言葉自体が社会的にも認知度の低い言葉だといえるでしょう。インターネット百科事典ウィキペディアにも「都市農業」という項目がずっとなかったため、2014年の11月に私がつくりました。そのくらいキーワードとして注目されていなかったのです。
当時は法律もできていなかったので、農林水産省のコメントなどを参照して「都市の中で都市と調和しつつ存在する農業を、都市の周辺の近郊農業ととくに区別して都市農業という。」と定義づけました。
私としてこの定義で着目していただきたいのは「都市と調和しつつ存在する農業」というところです。
都市の中にあっても周辺との関係が薄かったり断絶したりしていれば「都市農業」とは言い難いんじゃないかと思うのです。

タイ米

都市農業イメージとしてウィキペディアに掲載している写真(私の家族写真です)

都市の課題に農の力を生かす

シンポジウムにも登壇した東京・小金井市の農家、高橋金一(たかはし・きんいち)さん(JA東京中央会特別顧問)は「戦後、高度経済成長で首都圏が拡大、宅地が不足し、高騰した際には『都市農家が広大な畑を所持しているのが宅地不足の元凶だ』と批判された」という過去を紹介していました。
「都市に農地は不要だ」という考え方が長らくあって、2015年の都市農業振興基本法に基づく計画で「都市に農地はあるべきもの」と明記されるまでは、むしろ「不要論」の方が優先されて制度設計されてきました。
しかし、今では都市部も少子高齢化が進み、人口も減り、日本は縮小社会を迎えています。
新たな開発よりも、コミュニティーとして市民生活を支える力が弱った地域の立て直しが必要だと考える人たちも増えてきました。
そういった背景のもと、まさにコミュニティー再生の場として都市農地の活用が期待されているのです。事実、ワークショップの全9グループの提案をみても必ずそこには「農家、市民が食と農を通じてつながり、世代を超えて交流する」というテーマが見て取れました。
そういったコミュニティーづくりの場として既存の公民館や公園といった公共施設ではなく、田畑という白紙のキャンバスをうまく活用していこうという機運が高まっているのです。

畑がコミュニティーの場になるのは邪道?

「コミュニティーづくりの場」という風にサラッと書きましたが、そもそも畑をコミュニティーの場として市民が活用するという考え方自体がかつては邪道なものでした。
あくまでも農地は農業生産のために供される場であり、食料はもちろん植木や花などを農家が栽培して販売するのが本来のあり方。国の食糧安全保障を担う存在であるがゆえに固定資産税なども安く優遇されている。というのが基本的な考え方でした。
それを「市民の遊び場やイベント会場として使うのであれば、ちゃんと宅地レベルの税金を納めるべきだ」というのは確かにまっとうな意見といえます。
しかしながら結果として都市の農地はどんどん減少し、人口が減って空き家も増えることが深刻な問題となっているにもかかわらず、田畑をつぶした新築物件の開発がすすみ歴史的な風景や暮らしの文化も失われて行っているという現実があります。

そこで新法でも前面に押し出されたのが「都市農地の多面的機能の評価」です。“多面的機能”について、ちょっと長いですが引用します。

「都市住民に地元産の新鮮な農産物を供給する機能のみならず、都市における防災、良好な景観の形成並びに国土及び環境の保全、都市住民が身近に農作業に親しむとともに農業に関して学習することができる場並びに都市農業を営む者と都市住民及び都市住民相互の交流の場の提供、都市住民の農業に対する理解の醸成等農産物の供給の機能以外の多様な機能を果たしている(以下略)」(都市農業振興基本法 第1章3条)

これらの機能が十分に発揮されるよう推進していくという政策により、防災・環境・教育・福祉・コミュニティーの場としての都市農地の価値を国として認めるという大きな転換点となったのです。

次回からは実際にいま都市農業の世界でどんなことがはじまっているのか? 具体的に紹介していきます。

都市とデザインと農業(デザインセッション多摩 2018):明星大学

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