シカは木を食べる
シカが食べる物
草食動物のシカが草と葉を食べるのはご存じだと思いますが、木の枝や皮も食べます。表面の粗い皮をはいで内側の皮をかじるのです。食害が進むと木の内部が腐って、だいたいの木は枯れてしまいます。
人工林のスギやヒノキ、また天然林ではミズキやリョウブなどをよく食べます。雪のために多数のシカが沢などに追い込まれると飢餓状態になり、ふだんは食べない大木の皮まで食べてしまうこともあります。
シカは大量に食べる
大人のシカが1日で食べる植物の量は、生の葉だと5~6キロです。これだけの量を多数のシカが食べ続けたら、植物は強い影響を受けるでしょう。山に行くと木の下の地表には草が生えていますね。あの下草が食べ尽くされてしまうことも珍しくありません。下草がなくなれば木が食い荒らされてしまいます。
シカ激増が社会問題に
増えすぎたシカ
平成に入ってからシカが爆発的に増えました。環境省の調べによると1989年の推定生息数(本州以南)は約30万頭だったのが、2016年は約272万頭に。数が増えて生息域も拡大し、全国各地でさまざまな被害を引き起こしています。
奥多摩の土砂崩れ
下草や苗木を食べられ地表の植物がなくなり、さらに木の葉が食べられて落ち葉も少なくなると、雨が直接地面にあたって土が流れやすくなります。山の傾斜が急であるほど影響を受けやすく、表土の流失が進むと、豪雨の際に土砂崩れを引き起こす恐れもでてくると考えられます。
実際に、東京都の奥多摩にある日原(にっぱら)地区では、シカの食害による裸地化が進んだ山腹が集中豪雨等により崩落したと東京都森林事務所が公表しています。崩壊面積は10.4ヘクタールという大規模なものでした。
ロードキル
激増したシカによる人的被害も起こっています。「ロードキル」という言葉を聞いたことはありますか? 自動車に衝突した野生動物の死亡事故です。大型動物のシカがぶつかると非常に危険で、場合によってはドライバーや同乗者が負傷する人身事故につながります。
高速道路は山の中に建設されることが多く、シカの生息域でもあることから、ロードキルが多発しています。もし突然シカが飛び出してきても、大事故につながりかねないため急ハンドルは避けてください。ブレーキで回避できない場合は衝突するしかありません。もしひかれた動物を発見したら、二次被害を防止するために道路緊急ダイヤル「#9910」に連絡することになっています。
シカ肉を食べる意義
シカが増えすぎた理由
シカが増えた原因については、さまざまな議論があります。ハンターの減少、温暖化、オオカミの絶滅、2007年までメスジカが禁猟であったことなどです。その中で特に影響が大きいと考えられ、さまざまな分野で懸念されているのが「農山村の衰退」です。
野生のシカは臆病で人がたくさんいる場所を避けます。ところが、農家が高齢化して農地の除草や雑木林の管理が行われなくなると、山の奥にいたシカが低地の里山に侵入するようになります。低地は山の奥より暖かい上に日当たりの良い場所が多く、瑞々しい草がたくさん茂っています。
特に耕作放棄地は土壌に養分があり、そこに生える植物は栄養価の高いエサになります。たくさんのエサと新たな生息地を得たシカは、タガがはずれたように繁殖し続けるという見方です。
シカ肉の消費量と捕獲数は必ずしも比例しない
シカの捕獲数が増え、シカ肉の普及を進める団体が増えています。しかし、ジビエ肉を一般流通させるには一定の条件を満たす必要があり、捕獲の技術が必要となります。例えば、腹部に着弾したものは肉の品質が損なわれるため食用として提供できません。また、大量のダニが寄生している動物や、極端に痩せていたり脱毛があったりして病気が疑われる動物も不可です。
そもそもジビエ肉は商品です。おいしくなければ売れず、血抜きなどの後処理にてこずると味がまずくなり、売り物になりません。売るためのお肉を取る目的で、猟師が数をこなすのは簡単ではありません。
安定供給ができないのでジビエ業者は経営が難しいのが現状です。野生ですから、増えているとはいえ一頭もとれない日もあります。ジビエだけで経営者が生計を立てるのは困難です。以上のような理由からジビエ肉は価格が高く、消費者にとっても購入しづらいものになっています。
これは地域だけでは手に負えない、社会全体が取り組む問題です。とは言え、都市で生活する人にはどうしてもひとごとかもしれません。
シカ肉を食べてシカを知る
これは筆者の見解ですが、ジビエを食べた人が野生動物に関心を持ち、一人でも多くの人が被害の実態を知ることが解決の糸口になるのではないでしょうか。異国の料理がおいしいと、その国に親近感がわきませんか? 同じように、まずはおいしいシカ肉を食べ、シカを知ることが出発点になります。農村だけでなく都市部の人が、つまり社会全体がシカの現状に目を向けてくれたら、シカ肉は自然を救えると思います。
参考文献:
「シカ問題を考える」(山と溪谷社発行)
「Venison うまいシカ肉が日本を救う!!」(かんぽう発行)
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