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外来シカ「キョン」千葉で5万頭! 元戦場ジャーナリストが有効活用へ

連載企画:ジビエ入門

外来シカ「キョン」千葉で5万頭! 元戦場ジャーナリストが有効活用へ

最終更新日:2018年10月23日

キョンは中国と台湾に分布するシカで、日本では特定外来生物に指定されています。レジャー施設から逃げたものが野生化し、千葉県で約5万頭、東京・伊豆大島で約1万5000頭に増加。農業被害が拡大しています。捕獲活動が難航する中、キョン対策と有効活用に立ち上がった元戦場ジャーナリストの石川雄揮(いしかわ・ゆうき)さん。現在は、千葉県いすみ市の地域おこし協力隊として有害鳥獣対策に取り組む石川さんにお話を伺いました。

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キョンとは

農業

──石川さんはいすみ市でキョン対策に取り組んでいるそうですが、キョンとはどんな動物なのか教えてください。

僕は3年前にいすみ市の「地域おこし協力隊」(※)に採用され、有害鳥獣対策を嘱託されています。今、いすみ市で最も増えている野生動物がキョンです。キョンはかつて勝浦市にあった行川(なめがわ)アイランドから逃げ出したと言われており、現在も勝浦市と周辺の市町村に生息域を拡大中です。

キョンは中国南部や台湾で自然分布しているシカ科の動物です。成獣の大きさは体重9~10kgほどで、小型犬ぐらいです。

※ 地域おこし協力隊:いすみ市

──なぜこれほどキョンが増えてしまったのでしょう。

警戒心が強いキョンは捕獲が難しく、また捕獲の担い手も少ないため、繁殖力の強さに追いつかず増え続けています。千葉県内で5万頭ほど生息しているのに対し、捕獲数は年間約2400頭(2016年度・千葉県環境審議会調べ)です。東京の伊豆大島でも約1万5000頭(2016年度・東京都環境局調べ)まで増えています。

──実際に起こっている農業被害は。

もともと草食動物のキョンは柑橘系の葉っぱが大好きです。他にも大豆の新芽を食べ尽くしたり、ハーブガーデンのハーブを食べてしまったり。ブルーベリーもやられています。

農家でも侵入防止に防獣ネットを張るなど対策をしていますが、オスの角がネットに引っかかってしまうケースが多々あります。農家の人から連絡が入ったら、僕たちが捕獲に向かいます。

ネットにかかったキョン。角にネットが巻き付いている
 

難航する捕獲活動とハンターの減少

前足がくくり罠にかかったキョン

──生息数を減らすことが急務だと思われますが、現在の捕獲方法は。

捕獲方法はくくり罠(ワイヤーなどで足をくくって捕らえる罠)が主力となっています。住宅地近辺での捕獲要請も多く、いすみ市では銃は使えません。箱罠も置いていますが、なかなか入りません。

猟友会で駆除をしていますが、若手のハンターが非常に少ないのが問題です。実際にキョンを獲っている40歳前後までのハンターは、自分を含めて3~4人ではないでしょうか。すばしっこく捕獲が難しいため、ベテランハンターにも敬遠されています。

猟銃を構える石川さん

──ハンターに敬遠されるなか、なぜ石川さんは積極的にキョン対策に取り組むのでしょう。

地域おこし協力隊に入る前、僕は戦場ジャーナリストや報道関係の仕事をしていました。やりがいを見失って悩んでいた時に、ふと思い立って狩猟体験ツアーに参加したんです。目の前で鹿が殺生されるのを見て、“命を奪う者”という自分の立ち位置を感じ、その場の空気にのまれました。戦場の前線でも経験のなかった感覚でした。あの鹿との出会いから、言葉では説明できない多くのことを学んだんです。

その後、東京からいすみ市に移住し、地域おこし協力隊で有害鳥獣対策を始めました。キョンのことを知ったのも、いすみ市に来てからです。動物の命と向き合うことの尊さや、追い込まれている農家さんを守る使命を感じて取り組んでいます。今年の8月で地域おこし協力隊の任期が終わるため、9月からは自分で事業をスタートします。

キョンの有効活用を通じて

キョン革のベビーシューズ

──新たな事業の内容を教えてください。

ただ殺されるキョンの命を少しでも活用するため、革と肉の製品化を進めています。台湾では、貴重な自然資源としてキョンが重宝されてきた歴史があります。特に革は柔らかくきめ細かな質感から、赤ちゃん用品の素材として使われてきたそうです。

シカやヤギ、ヒツジなどの皮をなめしたものを「セーム革」と言いますが、キョンの革はセーム革のなかでも特別な高級品なのです。

キョン革のキーケース

僕もなめし業者の協力を得て、いすみ市で捕獲したキョンの皮なめしに成功しました。その革を使用してベビーシューズやキーケースを作るワークショップを開催したところ、若い女性や主婦に喜ばれ、大盛況でした。

石川さん自らワークショップの講師に

キョンの肉も台湾では高級料理として食べられています。キョン肉は低温調理をするとおいしくて、特にローストは絶品です。今後は解体施設を設置し、キョン肉を流通させる計画もしています。

──革と肉の有効活用の他にも、なにか行う予定があるのですか。

定期的に狩猟体験ツアーを行う予定です。僕があの鹿に出会ったときのような場面に立てば、誰しも何らかの影響を受けるのではないかと。そんな体験を人々に提供できるなら、これこそジャーナリストとして人に伝えたいことだと気づいたんです。

今年の2月、地域おこし協力隊で1泊2日の狩猟体験ツアーを行いました。参加者に見学してもらいながら1日目に罠をしかけ、2日目の朝に見回りに行きました。解体にも参加してもらい、夕食は皆でジビエを楽しみました。

──それは貴重な体験になりますね。

今後は民間事業者として、キョン革を使った手作り小物のワークショップや、猟師の目線で動物の痕跡をたどる日帰りのハンタートレイルを定期的にやっていきます。

また戦場や報道の現場で培った経験も背景に、狩猟期間の11月中旬から2月中旬までは毎週1回のペースで、先ほどお話ししたような“深い気づき体験”をもたらす狩猟体験ツアーや企業教育研修を開催していくのが目標です。

仕事や人生に悩む人や気の弱い人、第2の人生を開拓したい定年退職者、そして女性や子供たちにもぜひ参加してほしい。狩猟を通じてキョンやイノシシなどの野生動物に出会い、自然に息づく「いのち」を感じ、「物事の本質に触れられる場」、「自分自身と向き合う場」を提供していきたいです。

石川さんの狩猟体験ツアーに集まった人々。命の現場に立ち合う、またとない時間に

「Hunt+(ハントプラス)」

写真提供:石川雄揮

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