キョンの生態
キョンとは中国や台湾を原産とする小型のシカで、国内では動物施設から逃げ出したものが繁殖して定着。生態系などに害を及ぼすおそれがあるとして、国が「特定外来生物」に指定しています。
頭胴長約70〜80センチ、体高約40センチ、体重約10キロと、ニホンジカと比べてかなり小さく、愛くるしい目が特徴的。濁った声で鳴くホエジカ属の一種で、常緑広葉樹や種実類などを好み、ニホンジカよりも良質な食物を選ぶ傾向があるとされる草食性の動物。嗜好種としてはアオキやカクレミノが知られています。単独で行動することが多く、それぞれになわばりを持っていることが分かっています。
和名 | キョン |
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分類群 | 哺乳綱 偶蹄目(ウシ目) シカ科 |
外見の特徴 | 体色は茶褐色で,腹面は黄色。目の上から頭頂にかけて黒い線が走る オスは角長15センチ以下の角を持ち、上顎犬歯が発達している |
行動特性 | 単独またはペアで行動。活動は朝と夕方盛んになる 危険を感じると、イヌの声のような警戒声を発する |
キョンによる被害
現在、千葉県・房総半島南部と東京都・伊豆大島のほぼ全域で分布が確認されているキョン。驚くべきことに房総半島では14年間で約50倍に個体数が増え、農作物への被害が後を絶ちません。特に千葉県ではキョンの定着が確認されている市町村数が2004年度の5市町だったのに対し、2020年には17市町まで拡大。
年間数百頭程度捕獲されていますが、年間数千頭の捕獲が必要という試算が行われているそうでう。
■農産物被害
千葉県内では2006年度からの農作物被害金額が増加傾向にあり、近年は 100 万円から 200 万円程度で推移しています。被害品目は水稲、豆類、いも類、野菜類、果樹、特用林産物など多岐にわたり、被害が発生した市町村も増加傾向に。2006年度は 1 市町村から農作物被害が報告されましたが、2019年度には 8 市町村から報告がありました。伊豆大島では特産品の葉物野菜・アシタバへの被害をはじめ、椿油用のツバキやキュウリなどの食害が深刻。島の生態系への影響も懸念されています。
■生活環境被害
庭の植木や芝、花壇の花への食害のほか、キョンの鳴き声による騒音、フンなど、生活環境への被害が住宅地を中心に確認されています。
特定外来生物のため、その生態がまだ把握されておらず、繁殖の速度に対して捕獲が追いつかないことから、被害が拡大しているようです。
■生態系被害
ニホンジカとキョンの分布が重なっており、餌資源をめぐる間接的な競争が起こっている可能性があると言います。また、キョンはニホンジカが忌避するアリドオシを採食することが知られており、自然植生へのさらなる影響が危惧されています。イギリスでは、キョンによる下層植生等への食圧により、森林の更新の阻害や、チョウ類の産卵植物種が消失することが報告されており、在来の生態系に被害を及ぼす恐れがあると言います。
キョンから農作物を守る、その被害対策とは?
キョンからの農作物被害を防ぐため、まずは農地に寄せ付けないような環境整備をすることが大事です。農地周辺の草刈りを徹底して見通しを良くし、森林との境界線をはっきりさせましょう。果実や野菜くずをキョンの餌にされないよう、きちんと管理・処理することも大切です。
金網、ネット、電気柵などの侵入防止柵を設置する場合は、ジャンプ力のあるキョンが垂直に飛び上がることを考慮して、90センチほどの高さにするのが効果的です。
くくりなわでの捕獲が有効?
捕獲にあたっては、箱わな、くくりわななどを使用します。伊豆大島では2008年度から箱わな、くくりわなを使い、キョンの好物のアシタバを餌にして、けもの道にわなを設置したところ効果てきめん。千葉県では2019年度の捕獲数が5008頭に達し、実にその8割がくくりなわを使ったもの。
カクレミノ、アオキといった常緑広葉樹も餌として効果を上げていることから、地域によって異なる餌の好みを見極めて対処することが、キョンの捕獲に役立つようです。また、忍び猟(獲物を追跡して忍び寄り仕留める猟法)など銃器による捕獲も行われています。
その昔、「八丈島のきょん!」というギャグが流行りましたが、月日は流れ、農家にとってキョンは笑って見過ごすわけにはいかない存在に変わりました。知られざる生態を探りつつ、さまざまな対策を講じることで、キョンから農作物を守っていきましょう。
これからも農家にとっての憎らしい天敵、アブなすぎる害獣に注目していきます。
参考
野生鳥獣被害防止マニュアル(中型獣類編)(PDF):農林水産省
野生鳥獣被害防止マニュアル -アライグマ、ヌートリア、キョン、マングース、タイワンリス(特定外来生物編)-:農林水産省
キョン 房総で大繁殖14年で50倍5万頭 農業被害拡大:毎日新聞(2017年4月13日)