戸上崇(とがみ・たかし)さんプロフィール
PSソリューションズ株式会社 CPS事業本部 農業科学Lab. 所長、博士(学術) オーストラリア ニューサウスウェルズ州 公立チャールズスチュアート大学卒(学士(応用科学))その後、国立三重大学 大学院の修士課程に進学し、農業ICT分野の研究に携わる。2012年 同大学院博士課程にて、農業現場におけるセンサーネットワークおよび情報の利活用に関わる研究で博士号(学術)を取得。2012年12月日本学術会議CIGR分科会でHonorable mentionを受賞。2013年1月にソフトバンクモバイル(株)(現ソフトバンク(株))に入社以降、本プロジェクトの技術開発をリード。2018年には米科学雑誌Scienceのウェビナーにも登壇。 |
経験と勘をフォローするe-kakashi
──e-kakashiは「農業を科学にするサービス」と位置づけていますが、そもそも“科学的農業”とはどんなものなのでしょう?
料理のレシピに例えるとわかりやすいかと思います。経験と勘に頼って料理をすると、おいしいものができたとしてもそれをまた再現するのって難しくないですか? 調味料の分量やタイミング、熱を加える時の温度など、あらゆることが関係してくる。食品科学的な話になってきます。農業でも同様に、できあがる作物に再現性を持たせるため、植物科学に基づいて数値を記録していく。これができる“箱”を作ろうと考えたのがe-kakashiのWebアプリケーションです。農家さんが持つこれまでの経験や勘を支えるツールとして使っていただけるのです。
栽培ノウハウで広がる農業の可能性
──戸上さんは今の日本の農業をどのように捉えているのでしょうか?
今日本で「甘い」と言われているスイカやメロンの原産国をご存じですか? 実はアフリカなんです。気候風土が違うと育てられないのではと言われることがありますが、日本ははるか昔より異国から伝来したさまざまな作物を日本の風土に合わせて作りこなし、国内に根付かせてきているんですよ。さらに、経済発展にともない食文化も発展したので、おいしいものをとことん追求してきた。
日本が誇る“食の匠”の文化が、農業の分野にもあるのだと思います。このように、普通日本の気候風土には適さない作物をおいしく栽培してきた日本は、ものすごい栽培ノウハウを持っているはずなんです。
今後、世界はどんどん人口が増えていくのに資源は限られている。そのため少ない資源でどう栽培の効率を上げていくのか、さらには環境の保全とどう両立させていくのかについても注目されつつあり、いずれ栽培ノウハウにも焦点が当たっていくと私は思っています。
日本の農業のポテンシャルはものすごく高いですよ。e-kakashiによって栽培ノウハウを料理のレシピのような形にすることができるので、世界中で農業の可能性がさらに広がると考えられます。
e-kakashiで乗り越える日本の農業課題
──“科学的農業”を取り入れることで乗り越えられるかもしれない、日本の農業の課題があれば教えてください。
1つ目は気候変動への対応です。
例えば米の場合、登熟期(米の粒が熟していく期間)の前後1週間が非常に重要と言われているのですが、日平均気温が27度を超えると生育不良となって品質に大きく影響を与えます。品質が落ちると当然、最終的に販売できる農産物の量が減りますよね。
でもいつくらいに登熟期がくるか予測をたてて、前後1週間の天気予報を作って、いつくらいに27度を上回りそうかアラート(警告)を出せれば、栽培作業として対処できることもあります。そうすればリスク回避ができる。ちょっと未来のことをサポートできる可能性は十分あります。
2つ目は、市場ではなく直売で作物を卸している農家さんのサポートです。
飲食店などに卸す場合、コンスタントにこの品質がほしいというニーズになります。科学的農業を用いることで、栽培計画がたてやすくなるため、そのニーズを満たす作物を栽培しやすくなります。
すなわち“マーケットイン型農業”がやりやすくなります。それにより買い手と作り手がタッグを組めるので、安定供給できますし、価格も一定の取り引きになりますよね。科学的農業でサポートできることの一つではないかと思います。
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戸上さんに“科学的農業”の可能性をわかりやすくお話ししてもらいました。「スマート農業って難しそう」と感じていた人も、今回のお話でスマート農業が具体的にどういう点で可能性があるのかをより身近に感じられたのではないでしょうか? 次回は、実際に使用されているe-kakashiの事例をご紹介します。
【取材協力】
平本貴広
PSソリューションズ「e-kakashi」
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