“植物目線”の計測とは?

e-kakashiの正しい設置場所は“植物目線”でハウスの中央、低い位置
──ハウス農園「BASE」が建ち、「e-kakashi」を設置するにあたり、どのような工程があったのでしょうか?
平本:2018年の9月、BASEにキュウリを定植しました。
特別な定植方法ではなく、ハウスでキュウリを栽培する際の一般的なやり方です。同時にPSソリューションズの方に来ていただき、e-kakashiが仮設置されました。
この設置でBASE内の通信状態の確認を行い、気温、湿度、太陽の光、土壌の水分量、地温の計測がスタートしました。
設置の流れで難しい点はなかったですね。
戸上:スイッチを入れればデータを取れる仕組みになっているので、農家さんにとって難しい作業はそこまでないかと思います。
大事なのはe-kakashiの設置場所。通信を確認したあと、私もBASEにお伺いし、機械の位置をチェックしました。
というのも私たちが科学的農業を実践するにあたって、“植物目線で考える”という重要な観点があるからです。
人は、“人間目線”でデータをとってしまうことが非常に多い。例えば、温度計を見やすいように人間の目の高さに置いたり、邪魔にならない入り口に設置したりとか。人間都合ですよね。
でも植物目線で考えると、空気の入れ替わりが多い入り口の温度と、植物が感じている温度は違う可能性がありますよね。そのため私は極力、植物の近くで温度を計測できるように、機械をキュウリの横に設置し直しました。
平本:そうそう。僕もつい、ハウスの入り口にe-kakashiを設置しちゃった。
戸上さんから「“植物目線”のデータをとりたいから、葉っぱ付近の温度や湿度、根っこ付近の地温や水分量を測れるような場所に変えたい」と言われ、なるほど!と思いましたね。
作物に合わせた計測ポイント

キュウリの根は横に伸びるので、土壌水分センサーは根の深さに合わせて刺す
──計測のポイントはありますか?
平本:戸上さんから、地温を計るサーミスターについても土に刺す角度を細かく指示していただきました。
キュウリは横に根を張るから深めではなく、根の近くの浅めに刺して計測したほうが、有効なデータがとれると言われて納得しましたね。
戸上:データのとり方がすごく重要なんです!
よく「センサーはどこに設置するのか」と聞かれるのですが、植物目線で考えると一様ではありません。
例えばサーミスターの場合ですが、作物の種類によって根の張り方は異なりますから、「地表から何センチの深さに埋めてください」と答えるのは難しいんですよ。
だから一つ一つ対象の植物を見たうえで決めていきます。
キュウリだったら根が横に張るので、下ではなく斜め方向。逆に果樹などは縦方向に根を張るので、木の大きさから根の深さを考えて計測位置を決めます。
平本さんは作物の根がどのように張るかをよくご存じなので、説明したらすぐに理解してくださいました。
植物のストレスを軽減させる

キュウリの栽培を終えたハウス内の様子
──管理するうえで気をつけた点があれば教えてください。
平本:夜ハウスを閉め切って、朝日が昇ってくるとハウスの室温がぐっと上がります。
そのため朝は室温を下げるためにハウスの側面を大きく開けていたんですが、戸上さんから慣らしながら開けていったほうがいいと言われて。
だから日が昇ってきたくらいから、徐々に換気をしてゆるやかに室温を調整していきました。
戸上:植物って急激な環境変化がストレスになって、病気や生理障害を起こしやすいんです。
よくあるのは、データを見て室温が高いとまずいということをご存じの農家さんが、ハウスを開けて急激に室温を下げるんですよ。
そうすると環境が変わってしまうので、ストレスになってしまいます。特別な場合を除き、できるだけストレスを与えないように生育させることが品質や収量の向上につながるため、平本さんにお伝えしてご協力いただきました。
平本:戸上さんのご自宅がたまたま平本ファームのご近所なので、こまめにBASEを見にきていて、お互いの目線で意見を交換しましたね。
戸上:偶然にも本当に自宅から近いんですよね。びっくりしちゃった!
子どもと一緒によく見学に行きましたよね(笑)。農家さんのリアルな声は本当に参考になりますね。
* * *
農業の経験を積んだ平本さんの目線と、e-kakashi開発側の科学的な戸上さんの目線から、e-kakashi導入時の様子についてお話を聞くことができました。
次回は、戸上さんから“科学的農業”などについてわかりやすく教えてもらいます。
【取材協力】
平本貴広
PSソリューションズ「e-kakashi」
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