そもそも「e-kakashi」とは?
──「e-kakashi」とは、どんなものなのでしょうか。
e-kakashiは、気象データや作物を栽培する田畑から自動で収集した環境データを、植物科学の知見を組み込んだAIで分析します。そしてその結果をもとに、作物の生育ステージに合わせた“最適な栽培方法”や“病害などのリスク回避策”などをフィードバックしてくれます。
既存の農業にITを導入し植物科学の知見を加えることで、新たな農業の形作り、科学的農業の実現、そして農業のさらなるスマート化を目指す、農業向けIoTソリューションです。
──平本さんのもとに、IoTソリューションe-kakashiの実証実験に協力してくれないかというお話が、開発元のPSソリューションズさんからきたんですよね。最初にお話を聞いた時はどのように思いましたか?
お話を聞いた時は「おもしろい」と思う反面、「できるかな」と思ったんですよ。
だけど僕は基本的にやってないことをやる前から「良い」、「悪い」と言えないと思っているので、1回やってから答えを出そうと。失敗してもいい経験になると考えているんです。
そういう僕の考え方は、「平本ファーム」の農業経営の礎にもなっています。
e-kakashiに感じた可能性
——農業の活性化にも可能性を感じましたか?
スマート農業って、興味はあるけど手を出せないという人がけっこういるんですよ。やっぱりみんな、管理がしやすくなるんじゃないかって思っているみたい。
でも農家からすると、難しそうだし自分からは取り入れづらいんですよね。
だから僕が一つの道しるべというか、結果や足跡を残せたら、後に続く後輩の農家さんが出てくると思いました。そうすれば地域農業の活性化につながりますよね。
既存のやり方だけでなく、新しいやり方をプラスしてより良い形の農業経営になればと思っています。
そんなことを考えてe-kakashiの導入を決めました。
e-kakashi導入にあたって
──実際にe-kakashiを導入するにあたって、どのようなことを準備されたのでしょうか?
e-kakashiの実証実験を行って、理想的な栽培方法、つまり「栽培のレシピ」ができたらいいねと、PSソリューションズさんとお話ししました。
だったらハウスで栽培した方がデータのブレが少ないだろうと。
それに露地だと天候の影響を受けやすいので、レシピが完成しても理想通りに環境を制御するのが難しいんですよね。うちは露地しかやっていなかったので、敷地内にe-kakashiの実証実験を行うハウスを建てることにしました。
e-kakashiの実験農園は“Bridging Agriculture and Scientific-knowledge by e-kakashi”(e-kakashiによる農業と科学的知見の架け橋)の略でBASE(ベイス)と呼ばれているそうです。
これがけっこう大変で。ハウスを建てたことがなかったので、まず建設を依頼するために各社に見積もりをとったんですが、会社によってけっこう金額が違って(笑)。
何を基準に選べばいいのか分からず、分からないことだらけでしたがなんとか建て、時期的にデータをとりやすいキュウリを栽培することになりました。
──ご家族の反応はどうでしたか?
12代続く平本ファームでハウスなんて建てたこともなかったから、最初は「こんなことをやって大丈夫なの!?」っていう反応(笑)。
でも僕がやることは、ハウスを建ててそこで作物を栽培することだし、PSソリューションズさんの協力も得られるということだったので「じゃあいいんじゃない?」と最終的には理解してくれました。
平本ファームはそれまで露地のみだったので、冬場の出荷は限られていました。BASEができたことで、冬場もハウスで作物を作れることになり、そのあたりも楽しみでした。
* * *
ついに実証実験を行うハウス農園BASEが完成し、キュウリの苗が植えられました。いよいよe-kakashiによる観測がスタート!
次回はe-kakashiの開発者の一人であるPSソリューションズの戸上崇(とがみ・たかし)さんが登場。平本さんと共に導入時の様子や観測経過を振り返っていきます。
【取材協力】
平本貴広
PSソリューションズ「e-kakashi」
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