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ベテランの技術を分かりやすく若手へ伝えるスマート農業の実力【平本さんのスマート農業日記#5】

連載企画:平本さんのスマート農業日記

ベテランの技術を分かりやすく若手へ伝えるスマート農業の実力【平本さんのスマート農業日記#5】

神奈川県の農業活性化に励む「平本ファーム」代表の平本貴広(ひらもと・たかひろ)さんが、自らの取り組みをさらに前進させる一助としてスマート農業に挑戦する様子をお届けする連載。第4回は、栽培ナビゲーションサービス「e-kakashi(いいかかし)」開発者の一人であるPSソリューションズの戸上崇(とがみ・たかし)さんに、“科学的農業”の可能性について伺いました。第5回は戸上さんに、平本さん以外にもe-kakashiを導入した事例について伺っていきます。

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ベテランから若手へ技術を継承

福岡県宗像市では「あまおう」のハウスに設置

──e-kakashiが実際に導入された事例について聞いていきたいと思います。
まずは、福岡県宗像市でイチゴ「あまおう」を栽培する農家にe-kakashiを導入した事例。
JAむなかたのイチゴ部会に所属する生産者のうち、21の農家さんにe-kakashiを導入したそうですね。

この地域は若手農家さんが多いのですが、ベテラン農家さんと若手農家さんの収量に倍近くの差ができることがあり、ベテラン農家さんの技術を継承するのが難しいという課題がありました。
そこで、地域でNo.1の売り上げを誇る農家さんや、若手農家さんも含め、21の農家さんにe-kakashiを導入しました。

比較するとやはりベテラン農家さんは、理想的な環境を整えられているということがデータからもわかりました。ベテラン農家さんの経験や勘がともなう“職人技”を数値化でき、リアルタイムでデータを共有できるので、若手農家さんがすぐに参考にできることがe-kakashiのメリットです。
また若手農家さんからは、「データをもとに、ベテラン農家さんに直接話を聞くことができた」など、コミュニケーションツールにもなっているという意見もいただきました。

環境が異なる土地でもデータは生かせる

師匠のデータを元にキクラゲ栽培を行う永島農園のハウス

──キクラゲ栽培で師弟関係にある西会津と横浜の農家にもe-kakashiを設置して、データを比較したそうですね。西会津と横浜では気候もだいぶ違いますが、どのように比較するのでしょうか?

もちろん地の利があるので、どうしても制御できない部分はあります。ただ、一番近しい環境のデータを切り取ることもできます。横浜の環境がどんな状態の時に西会津の師匠のデータの通りに栽培できるかを比較します。そうすることで、横浜だったらこの時期にこうしたほうがいいということが具体的に言えるわけです。気温や湿度、菌床の温度など、さまざまなデータをとっているので、目的に応じてクラウド上で自分が見たい数値を簡単に出すことができます。

ベテラン農家の経験と勘を裏付け

──e-kakashiのデータを読み解いて、ベテランのコメ農家さんに中干し(田んぼの水を抜いて土を乾かす作業)のタイミングをサポートした事例もあるそうですね。

例えば京都府の与謝野町ではコメの栽培にe-kakashiを導入しています。稲作では非常に大事な中干しのタイミングを見誤ると、収穫量にも大きく影響してきます。これまで農家さんが経験や勘でされてきたことです。ある地域のベテラン農家さんたちと、2018年の中干しのタイミングについて6月中旬頃にお話ししていたとき「もう少しで中干しをする予定だが、今年は寒いから遅れる」と言ったんです。その言葉が気になって分析をしてみました。

中干しをする目安は、一株当たりの最終的な茎数の約80%が出穂した時期からの日平均気温の積算温度で決まります。2016年、2017年の中干し開始時期の積算温度と2018年を比較すると、すでに今年の積算温度が上回っていました。だから「もう少しで中干し」というのはほぼ正しいです。ただ「今年は寒いから遅れる」というのはあてにならない。2018年は曇天が続いたので、寒いと勘違いしたのだと思います。人間の感覚ってすごく曖昧ですよね。

より適正な中干し時期を分析するために、植物が生育するために必要な環境データも見ることにしました。コシヒカリを1平方メートルあたり60株で植えている場合、中干しを開始するには一株の茎の数が15本程度と言われています。
2018年は曇天が続いた。そこで「環境データからすると現段階で12本程度ではないか」と予測しました。実際に農家さんに茎を数えてもらうと、やはり12〜13本しかない。この2つのデータから中干しのタイミングは遅らせることで間違いない、と確認することができました。データを分析して説明すると、ベテラン農家さんほど納得してくれるんですよね。

京都府与謝野町ではコシヒカリ「京の豆っこ米」の栽培に活用

科学的農業というのは、実は昔から行われています。コメの場合、穂がつかないと収穫できないので、茎に何本の穂をつけさせるか考えたうえで逆算して栽培する。一般的には目標とする穂数の80%くらいができた段階で中干しを開始します。そうやって逆算したのが今回のケースです。「栽培ごよみ」などわかりやすい基準となるものができてくる中で難しい話が見えなくなってきていますが、本来はそれらにもものすごく科学的な根拠があります。

これまでは毎年同じような気候だから経験と勘で作業をしてこられたと思いますが、最近は気候変動などがあってそれが使えなくなってきた。だからこそ、なぜその時期にその作業をしていたのか、植物がどういう状態の時にその作業をしていたのか、ということをもう一度ひも付けしていくことが必要になってきます。それがe-kakashiのような科学的ツールの役割です。我々はデータでもって、農家さんの判断の後押しをすることができます。

* * *

とても興味深いe-kakashiの事例について聞くことができました。
今後さらにe-kakashiの活用が広がっていくことに期待がふくらみます! そして、ついに次回でこの【平本さんのスマート農業日記】がラストを迎えます。最終回は平本さんと戸上さんに、今回のe-kakashi導入実験についてお互いに感じたことをお話ししていただきます。

【取材協力】
平本貴広
PSソリューションズ「e-kakashi
 

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