収益倍増へ! IoT農業で10アールあたり売上700万円のキュウリ栽培【農家が選ぶ面白い農家Vol.2】
公開日:2019年01月30日
最終更新日:
いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴 竣之祐さんが、宮崎のキュウリ栽培の中心で奮闘する山ノ上慎吾(やまのうえ・しんご)さんに環境制御の実際を聞きました! 実は、つるちゃんとは地元の古い友人関係。IoTを使った先端農業って実際儲かるの? 親しいからこそ聞ける赤裸々インタビューの始まりです!
つるちゃん
農家が選ぶ、面白い農家第二弾!
今回は宮崎県のキュウリ農家、山ノ上慎吾さんにお話を伺います!
山ノ上さん
そうやねぇ、うちは農家なんだけど実は農業を継ぐってことには興味がなくて……
僕もそうですが、これは後継ぎあるあるですね。だからこそなぜ就農したかを聞くのはとても面白いのですが
農業以外の何かで自己肯定できる場所を探していたかな。高校卒業後は福岡に出て、グラフィックデザインを学びながら音楽活動にも真剣に取り組んでいて
当時の山ノ上さんのことを僕は個人的によく知っていますが、お互い家が農家だなんて一切意識していませんでしたね
そうそう(笑)でも、帰郷したときに改めて農業の魅力を感じるようになって、後継ぎだということを強烈に意識し始めたかな。まずはキュウリ栽培の達人と呼ばれる師匠のところで1年間研修させてもらって、それから自分でキュウリ一本の農業経営をはじめたんだ
農業経営の状況
山ノ上さんは産地でいち早く環境制御を導入し、データを駆使したいわゆる“IoT農業”で収量を上げたりと、非常に先進的な農業をされているように感じます
俺なんてまだまだだよ。キュウリ部会でもまだ上はいるし、他県にはもっとすごい、尊敬できる人がたくさんいるしね
ちなみに、1反(約10アール≒33メートル×33メートル)あたりどのくらいになるのか聞いてもいいですか?
大体1シーズンで25トンくらいの出荷量になる。キロ単価の平均が280円くらいだから、売上ベースで1反あたり700万円くらいかな
おお! 700万円! それを一体何人で回しているんですか?
1反あたりで言うと、0.8人で回してるよ。全てのハウスを管理するためには自分自身と家族労働、それから雇用も合わせてそのくらいだね。個選(収穫物の選別や箱詰めなどを農家自身でおこなう形態)だから人は要るね
1月や2月は1反あたりにして100~120キロ/日の収穫量なので比較的余裕があるそうですが、3月以降、気温が上昇してきてからは200キロ/日以上の収穫量になります。そうすると収穫、選果、出荷にかかりきりになってしまうということです。
環境制御との出会い
県外の指導員も山ノ上さんの圃場(ほじょう)を視察に来ています
視察研修で他県の環境制御技術を見たときに感動してね。すぐに地元の農家で作るキュウリ生産部会の若手を中心に、生育調査会“ラプター会”を設立して、7年前から環境制御を使った栽培に取り組むようになったんだ
具体的にはどういったことに取り組んだんでしょうか?
ハウスに設置した環境測定器を利用して、温度、湿度、CO2濃度、日射量、1分ごとの平均外気温から地温までデータを細かく分析して、適切な量をコントロールしている。とくに炭酸ガス(CO2)の施用は影響が大きいよね
宮崎県は、日射量が非常に多い地域です。光合成に必要な太陽光、二酸化炭素、水のうち、太陽光(日射量)は豊富にありますが、それに見合う十分な量のCO2が供給されていないことが多いのです。それでは本来のキュウリの能力を最大限発揮しているとはいえません。
人為的に特定の植物の能力を発揮させるのが“栽培”という行為である以上、環境を制御すること以上に合理的な手段はないでしょう。
元々施設キュウリ栽培では、1反あたり15トン収穫できれば良いと言われていたけど、環境制御を始めてから年々収穫量が上がり続けている。18トンから20トン、23トンと、目に見えて伸びてきている。部会では30トンを超える人もいるし、本当に植物のことを隅々まで理解して、足りないものを補ってやれば40トンは収穫できるはずなんだ
先陣を切って調査会を設立したり、新しい試みをどんどん取り入れて、周囲の人もよくみんなついてきてくれますね
もちろん今までのやり方に慣れている、例えばよその地域の人なんかには、「そんなに重油たいてどうするんだ」とか言われることがあるよ。でも結果を出せばね、見る目は変わっていく。今新規就農でここに来たら、すぐに生計立てられるよ。データはまだ十分じゃないにしても揃ってきているし、農協や行政のサポート体制も整ってるからね
僕も宮崎で就農し直そうかな(笑)環境制御って、もう農園芸の世界においては避けられないものになりつつあると思います。人類が農業という行為を始めたからには、たどり着かざるを得ない結論への過程として、絶対に今向き合わなければいけない技術ですよね。これを否定する場合、農業の進化をあきらめることになってしまう
そうやね、そこが農業の面白いところだろう?って思うし、農家であることを誇らしく思える。若い人にこそ、もっと環境制御を取り入れてほしいね
若手農家で研究する様子。資料やスマホを駆使します
今後の目標 ~面積当たり収量を倍に~
山ノ上さんの目標としているところは一体何でしょうか?
そうやね……。個人的には、2町(約2ヘクタール≒200メートル×200メートル)くらいの規模で経営するつもりではいるから、まだハウスは増築する予定だね
ただ勘違いしてほしくないのは、面積を増やすこと自体を良いことだとは思ってないってところ。あくまで面積あたりの収量を倍にすることの方が重要だよね
なるほど、“小さい面積で大きく稼ぐ”ことは大切ですね
でも、そんな個人的なことよりも、地域全体をどう引っ張っていくかをずっと考えているかな
そうだね。例えば、今やりたいことのひとつに、“地域エネルギーの活用”がある
その議題を聞いただけで個人では難しそうだなって思いました(笑)
うん(笑)実践しているところは全国にあるんだけど、その地域ごとに得られる再生可能エネルギーっていくらでもあるんだ。工業地帯の農家が工場の廃熱を利用したり、温泉が出るところではその熱源を利用したり。宮崎だったら太陽光をどう利用するかって発想になるよね
あるね。ただ、行政や他産業を巻き込んでいかないと現実化しない。やらなければいけないことだらけだよ!
多忙な中、仕事中に従業員へ指示をしながらも電話取材に対応してくれました。仕事が終わったら終わったで、夜はさまざまな会議等目白押しだそうです。
農家は一個人事業主ではありますが、組合をつくり、大きなコトを動かす力を手に入れました。山ノ上さんのように自主的に前へ前へと進もうとする農家が一人いれば、最初は理解できていなかった仲間たちも、農協も技術指導員も、地域まるごとが本気になって動きだします。
他にもたくさんの夢を語ってくれた山ノ上さん。活発な産地の、一番の“地域エネルギー”とは、そこに居る“人”に違いないと、そう強く感じました。
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