予約3年待ち! みんなを笑顔にする完熟イチジク栽培【農家が選ぶ面白い農家Vol.3】
公開日:2019年02月06日
最終更新日:
いま、農家が会いたい農家に、農家自らがインタビュー! 農家による農家のラジオ「ノウカノタネ」のパーソナリティー・つるちゃんこと鶴 竣之祐さんが、愛知県の農家で三州(さんしゅう)フルーツ工房の鈴木誠(すずき・まこと)さんに、予約3年待ちというイチジク栽培について、根掘り葉掘り聞いてみました!
就農の経緯
つるちゃん
こんにちは!
面白い農家企画第3弾は、愛知県のイチジク農家、鈴木誠さんです!
鈴木さん
まずは定番の質問ですが、就農の経緯から伺ってもいいでしょうか?
そうですね。うちは元々親父の代ではナスを栽培していたんだけど、自分が経営に加わろうかという段階でもうすでに赤字でね。ハウスの借金もまだ残っていたし。ナスの勉強をするために農業大学校(農家非農家問わず、主に就農準備のために通う実践中心の科目がある農業学校)に通っていたんだけど、実は、就農は一度あきらめたんですよ
はい。帳面上の赤字じゃなくて本当に赤字経営だったので。今自分が経営に入っても、誰も笑顔になれないなって思って、一度社会を見ようと農業資材の卸売り関係の仕事につきました。いずれは継がなければならないんだし、農薬や肥料の勉強にもなると思って。ただ、卸売りの仕事をして愛知県内の農家さんを回っていると、儲かっているところと儲かっていないところがはっきりして分かっちゃってね
単純ですよ。何の作目をやっているかで全然自宅の豪華さが違うんだもの。少なくともこの地域では、イチゴ、トマト、イチジクの農家さんと、それ以外の農家さんは一目瞭然で別格なんです
なるほど、たしかに作目の選択は決定的ですね。その地域によって品目は変わりますけど、例えばキャベツやレタス農家だけが断トツで稼いでいる地域もあるし、その選択を間違えたら悲惨な気がします。ちなみに稼いでいる農家はやっぱり大規模の大百姓が多いですか?
いや、イチゴなんかでは10アールで1000万円以上売り上げる人もいるし、そうとは限らないですよね。ただ、その時の僕は、イチジクなら重量野菜(一個あたりの重量が大きい作物。キャベツ、ハクサイ、カボチャなど)みたいに高齢の両親にきつい仕事もさせなくていいし、皆笑顔になれるぞ!って決断できました
儲かるイチジク栽培
やり方次第です(笑)8割は農協を通しての市場出荷だけど、平均して1パック280円くらいにはなるし、自分のやり方で10アールあたり3トンくらいの収量だから。(単純計算で210万円/10アール)何よりも経費がほとんど掛からないのが良いですよね
そうですね。イチジクはそこが大きなメリットとしてありますね
今年はショウジョウバエが出て、酵母腐敗病という病気を出してしまったから5回散布したけど、出なければ2回くらいのもんですよ
やっぱりハウスイチジクは素晴らしい。その間にイチゴやトマトなどの野菜類なら何十回散布しているかを考えれば……
イチゴなんかとは比べものにならないですよね(笑)毎日毎日休みなく収穫になるんで人手は必要ですけどね。3月から11月までずっと収穫。加温ハウス、雨よけ、露地と作型をずらしてイチジクのみでほぼ1年間埋まりますね。12月から3月のパートさんの仕事をつくるために一応イチゴも栽培しています
一つ僕が鈴木さんに見せてもらって面白かったサーモグラフィーの画像があって
そう、これは今年から導入したスマートフォンに取り付けるカメラで、温度がわかる。水分の蒸散量が多いところ、つまりかん水量が充分足りているところは温度が低くなり、青黒く表示されるけど、逆に足りていないところは温度が高いので赤く表示される。結局植物って水ですからね。今年はこれで高温障害も全然でませんでした
これは素晴らしいですね! 今年のような記録的猛暑のなか充分なかん水で収量を確保するには今後必須になっていく気がします
このコーナーを始めて段々と分かってきたのは、稼いでいる農家は皆、植物が何を求めているのかを理解することに対してがむしゃらです。鈴木さんももちろんそんな農家です。
みんな笑顔になれるのが理想
現在2ヘクタールのイチジク栽培を担っている鈴木さん、まだまだ絶賛規模拡大中のようですが、今後はどのような展開を狙っているのでしょうか?
そうですね。もちろん規模拡大、特に現在ほとんどの面積を占めている「桝井(ますい)ドーフィン」以外の品種を導入することなどありますが、僕の中で一番大切にしていることは、何より周りの人が笑顔でいられる環境をつくれるかっていうところなんです。これだけは本当に僕にとっては重要で……
はい、だからお客さんに本当においしいものを食べてもらえたらそれは一番幸せなことですよね。でもそれは誰だってやっていることです。僕は家族や従業員にも笑顔でいてほしいんです。だから従業員もフレックス制を導入していて
こき使おうと思えば確かにもっと稼げるんですよ。自社での6次産業化にも一度手をつけたけど、もっと安く多くの従業員を働かせたり、周りに迷惑かけたり、周囲の農家の処分に困っているイチジクを(原料として)安く買い叩いたりもやろうと思えばできたんです。皆困っているし。でもそれで喜んでくれる人って誰なんだろうって思うんです
一度、僕のイチジクがテレビで特集されたときに、僕のイチジクだけが売れていったことがあったんですけど、これは違うなと思いました。その後に取材を受けたときは、この直売所にいけば僕のイチジクがありますよって宣伝したら、直売所全体の値下げ合戦が止まったんですよ。最初は疎んでいた人も「お前もっとテレビ出ろ」って言うようになって(笑)
なんか鈴木さんって、他に表現が見当たらないので月並みですが“良い人”ですね
宣伝よりユーザーエクスペリエンス
贈答用にわざわざイチジクを送る人って、本当にイチジクが好きな人が多いんですよ
確かに。それでいて、本当においしい完熟イチジクって実は市販では手に入りにくいですよね
そうそう。昔は一家に一本イチジクの木が植わっていて、それぞれの家庭で完熟イチジクを食べられたけど
完熟は本当においしい! ああ食べたくなってきたなぁ
その味を知っている人は、本当に喜んでくれます。そして、それを誰かに贈るときには、あの人はイチジクが好きだから、完熟イチジクを送ってあげよう、って思いがあるんです
その際に普通、箱とかパッケージに農園の名前を書いてたり、農園のパンフレットが入っていたりするじゃないですか
うちはあれをやめたんです。屋号の“三州フルーツ工房”も消して、パンフレットも何も入れずに送るようにしました
はい、でも、僕にとってのお客さんって二人いるんですよ。お金を払ってくれるお客さんと、贈られて受け取るお客さん。どっちにも満足してもらうために、贈り手から受け手へのメッセージを入れるようにしたんです。本人が書いて同封することもあれば、こちらで代筆することもありますけど。そのメッセージや思いを邪魔する要素を消したんです
なんちゅうこっちゃ! そうあるべきでした! すごいなぁ。いわゆるユーザーエクスペリエンス、つまり“お客さんが商品を通して得られる経験”を大切にしているんですね。でもこれ、言っちゃったら真似されませんかねぇ
真似できるもんならやってみろ!って感じですね。めちゃくちゃ面倒臭いですよ(笑)
周りを笑顔にしたいという思いでイチジク経営に踏み出し、絶賛規模拡大中の三州フルーツ工房の鈴木さん。
御本人も終始にこやかで、そんな鈴木さんの人柄もあってか、贈答用の完熟イチジクは、今や予約も3年待ちという盛況ぶり!
おいしいイチジクを通して日本中に笑顔を届けています。
三州フルーツ工房
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