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花大国オランダ 世界規模のアールスメールに学ぶ花市場の未来

連載企画:オランダ農業の現場から

花大国オランダ 世界規模のアールスメールに学ぶ花市場の未来

大規模かつICT化された施設栽培で、農業先進国と言われることが多いオランダは、花大国とも言われています。世界最大の花市場と言われるアールスメール花市場は、世界への輸出港として、その規模の大きさやシステム化されたスピーディーな取引で観光地にもなっているほど。今回はそんなアールスメール花市場を通じて出荷している花農家を訪問し、オランダ特有の花市場の現状と、現場の立場から見た花産業全体の未来について紹介していきたいと思います。

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オランダの花農家

ユリ農家収穫の風景

今回、話を聞いたのはオランダのヘールフゴヴァールト(Heerhugowaard)でユリを栽培する花農家です。オランダ最大の花市場であるアールスメール(Aalsmeer)花市場の隣に位置します。

花市場はオランダ国内に全部で4カ所あり、アールスメールをはじめとしたナールトウェイク(Naadlwijk)、レインスブルク(Rijnsburg)、エールデ(Eelde)といった花市場の周辺には多くの花農家が存在しています。オランダの花は世界各国に輸出されており、ナールトウェイクはヨーロッパ最大の貿易港ロッテルダムの近くにあり、アールスメールはオランダの首都アムステルダムにあるスキポール空港の近くにあります。

露地で球根を育てている様子

こちらのユリ農家、ユリの花を5ヘクタールの施設にて栽培しています。他にも35ヘクタールの露地でユリ球根を栽培しています。さらに、オランダ以外でも南半球のニュージーランドで5ヘクタールの球根栽培を行っています。オランダだけでは、秋冬の球根収穫時に切り花栽培ができないので、季節が反対になる南半球のニュージーランドで栽培を行うことで、秋冬はニュージーランドで球根を収穫し(ニュージーランドでは夏)、切り花栽培を年中行えるようにしています。

照明を使って栽培をしている様子

施設で栽培されるユリの花は、9月から4月にかけて電気照明下で栽培されます。照明の時間は時期によって変わり、9月から10月が5時間、11月から1月は12時間、2月から3月は6時間、4月は4時間です。
オランダの花農家ではこのようにほとんど全ての会社が電気照明を使い、一年のうち日照時間が短い時期には、日照時間を拡張するために照明が当てられ、開花を早めて、年間を通して栽培ができる環境を作っています。

オランダのほとんどの花農家と同じように、この農家は「ロイヤルフローラホーランド(Royal FloraHolland)」に加盟しており、毎日自分たちのトラックでアールスメールにある花市場に出荷しています。

世界最大の花市場 ロイヤルフローラホーランド

ロイヤルフローラホーランド(以下、フローラホーランド)は、花き園芸の競売の協同組合です。ナールトウェイク、レインスブルク、アールスメール、エールデの4つの市場はいずれもフローラホーランドが運営しており、その規模は世界最大となります。国内外から一旦花市場に集められた花き類は、オークションによって値付けが行われ、世界中へと運ばれます。ここのメンバーになることで、生産者は売り先の確保や情報交換をすることができます。

2017年のデータによると、フローラホーランドの年間売上高は46億8700万ユーロ(約5900億円)。5697の農家が出荷し、1日に約800万ユーロ(約10億円)の売り上げです。オークションでは20億5000万ユーロ(約2600億円・前年比マイナス3.5%)で、ネットによる直接販売は26億3700万ユーロ(約3300億円・前年比プラス5.1%)でした。

花農家がフローラホーランドを通して販売したい場合は、必ず全ての花をフローラホーランドを通して販売するという契約を交わす必要があります。もし、オークションで花を売る場合は売上の2.5%、契約販売での場合は1.3%をフローラホーランドに払わなければいけないようです。

オークションの様子。一番高い値段からスタートして安い値段へと推移する中でバイヤーが購入するという仕組み

フローラホーランドを通して売るメリットは、世界中のバイヤーに確実に買ってもらえるということもありますが、花が購入されてから1週間で売上金が入金されるという早さ、素早い運搬と徹底されたコールドチェーン(低温物流体系)、どこの会社がどの品種をどれくらいの金額でどれだけ買ったかなどを毎日知れることもメリットとしてあげられるとのことです。

現場から見たオランダにおける花産業の今後

このように世界中と取引しているからこそ、一農家であっても世界情勢とともに、経営を常に変化させなければなりません。ブレグジット(Brexit:イギリスのEU脱退)による影響はかなり大きいということです。
フローラホーランドの輸出国として、イギリスはドイツに続いて2番目に大きな輸出先です。ドイツの輸出額は1727万ユーロ(約22億円)で輸出全体のシェア率28.8%、イギリスは輸出額837万ユーロ(約10億5000万円)でシェア率13.9%(いずれも2017年)。この農場も大部分はイギリスに輸出しています。イギリスがEUを脱退した場合、輸入関税がかかる上にユーロがポンドより高くなり、イギリスではオランダを含むEU産の花の値段が高くなります。さらに、国境での植物検疫検査の基準が今までのEUの基準ではなくなる可能性があり、これまでのような取引が見込めない可能性があります。
そのため、この農場では、とにかくリスク分散のために、ユリ以外のシャクヤクという花の栽培を始めるそうです。

アールスメールの花市場の様子

また、直接販売の需要の増加やコールドチェーンやトレーサビリティーの発達で、バーチャルな倉庫での管理もできるようになり、現在主流の「オランダの花市場に一旦集められて、オークションを行い、世界中に運ばれる」という仕組みも、近い将来なくなるかもしれないということでした。ただ、世界情勢や技術の進歩で今後どうなっていくかということを完全に予想するのは非常に難しいようです。新たな価値として、環境負荷の軽減を考えること(サステナビリティ)も非常に大事だと話してくれました。

一農家として生き残るには、とにかくあらゆるリスクに備えて、リスクを分散すること、時代に合わせて変化していくことが必須だということでした。

世界中と貿易を行い、市場の周りに生産者が集積しているオランダの花産業の話を聞いて、生産方法もそうですが、物流の仕組みを時代に合わせて考え直すことも非常に重要なことだなと感じました。
 

次回は、オランダの有機農家の紹介をします。
 
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