シキミは強い
「シキミは、強い木じゃ。一度植えたら50年はもつ」と加茂シキミ生産組合の山口将男さんがシキミ畑を歩きながらつぶやく。
組合ができたのは1972(昭和57)年。それまでも山に自生していたシキミを切って出荷していたが、水田の転作作物として本格的な栽培が始まった。山口さんの集落の「粘土でじゅるい(湿り気が多い)」田んぼでも、排水の工夫さえすればシキミは栽培できた。
強いといえば、シカなどのケモノにも強い。「ちいとは食べるけど、それっきり。毒の植物じゃから」。シキミの枝葉には毒が含まれている。だからこそ墓前に供え「ケモノから墓を守る」植物として広まったという説もあるのだ。
切れば切るほどいいものができる
集落を見渡すと、1〜1.5メートル間隔でシキミがぎっしり植わった山や畑がある。自生したものを掘り取って移植したり、タネをまいたり、あるいは挿し木で増やしたりしたものだ。
「じゃが、最近は大きぃなりすぎだ」と山口さん。つまり、高齢化で組合を辞める人が増え、収穫も剪定(せんてい)もされない「大きな木」が増えてしまった。
わが家にあるシキミも4メートルほどまでに大きくなっており、祖母が仏壇に供えるために切りに行くが、木の下の方で影になったヒョロンとした枝しかとれない。
──そんな木は、どうやって小さくしたらいいですか?
簡単じゃ、という山口さん。収穫も兼ねて、剪定の方法を教えてもらった。
「胸の高さくらいがベスト」と、空に向かって3メートル以上に伸びた太い枝を胸の高さで切り戻すように指示する山口さん。
「背が高いと収穫するのも大変だし、クスリ(農薬)もうまくかからん」
そして、地面と垂直に伸びた長い枝(徒長枝)や、横の木の枝に重なりそうな横向きの枝、下に垂れたような枝を切る。
結果、あれだけ茂っていたシキミが数分でつんつるてん。
これだけ切っても大丈夫なのだろうか、ちょっと心配になる。
「大丈夫。シキミは年に3べんも芽吹く。5月、7月末と9月の彼岸。2メートルまではいかんが、毎年1メートル以上のびて、すぐに元どおりになる」(山口さん)
萌芽(ほうが)力の強いシキミは枝の途中で切っても芽吹くものの、1本の枝に2〜3芽残すようにしたほうが回復が早く、いい枝になるそうだ。
ここで、奥さんの一枝(かずえ)さんも参加。
「もったいないと思っちゃうけど、あなたのところのもスパッと切った方がいいよ。シキミは切れば切るほど、いい芽がいっぱい出るよ!」
たたけば増えるでおなじみのビスケットの歌みたいだ。
日持ちをよくする技
収穫した枝は、一枝さんが古葉や、虫食いの葉、「冬やけ」などで黄色くなった葉をかき取って、掃除する。余計な葉が多いとそこから水分が抜け、日持ちが悪くなるからだ。春先につく白いツボミも、大きく膨らんだものは枝の体力を落とす原因になるので、摘んでおく。
そして、山口さんが出荷用の大きさと重さになるように切り揃え、5本の枝を組み合わせながら束ねて、すぐに切り口を水につける(水揚げ)。
「出荷日の5日前から水揚げする」。あまりの長さにちょっとびっくりしたが、これだけしっかりと水揚げをすれば、店頭に並んでも長持ちするそうだ。
シキミは「葉が命」
仏に供えるものだからこそ、ちょっとでも汚れていると売れないのは直売所も同じだ。汚れているからといって価格を下げてもダメ。「シキミは葉が命」なのだ。
害虫の中で一番恐ろしいのがサビダニだという。葉裏に小さなダニがつくと、成長点を中心に葉が黄色くなる。そして、3〜4日たつと瞬く間に圃場(ほじょう)全体に広がる。
山口さんは、大事な葉を守るためにしっかり防除をする。耐性がつかないようにクスリをローテーション(成分を変えること)させながら、年に7〜8回防除。
そして、もう一つ肝心なのが、葉に美しい照りを出す「攻め」の作業。ポイントは施肥だという。そんなに難しいことではない。芽が吹くタイミングのうち春(3月末)と秋(9月)の年2回、オール(窒素・リン酸・カリ)14の化成肥料を一握りずつ株元にまくだけだ。
「それと、木酢もエエぞ」。木酢とは炭焼きの時にでる副産物。これを1000倍に希釈して、5〜6月のあいだに1〜2回まくと、葉の照りが強くなる。
ついでに、木酢のニオイのおかげか、あまり虫も来なくなるそうだ。
夫婦2人の年金以上稼げる
シキミは毎週出荷するが、特に春や秋の彼岸、盆は注文が殺到する。去年の春のお彼岸には、組合の農家十数軒で1万2000束ほど出荷した。
「これだけ年中稼げるものはない」と山口さん。「頑張れば、私たち2人の年金よりも稼げるのよ」と一枝さん。そして、「誰か、若い人がおりゃせんか」と私に言う。
歴史あるシキミ産地だが、じつは今、高齢化で組合員の人数が激減しているそうだ。
売り先はすでにあるし、仕立て直せばすぐお金になるシキミ畑も空いている。やり方は、私に教えてくれたように、みんなで教えるとのこと。ここまで一生懸命守ってきたシキミ産地を若い人につなぎたい。それが、現在の山口さんの切実な願いだ。
※ご興味のある方は筆者(伊藤)までご連絡ください(下記プロフィール参照)。
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