農福連携は「農における課題」と「福祉における課題」を解決する
農福連携とは「『農における課題』、『福祉(障害者等)における課題』、双方の課題を解決しながら、双方に利益があるWin-Winの取り組み(一般社団法人日本農福連携協会HPより)」とされています。
農福連携の取組は、地域における障害者や生活困窮者の就労訓練や雇用、高齢者の生きがい等の場となるだけでなく、労働力不足や過疎化といった問題を抱える農業・農村にとっても、働き手の確保や地域農業の維持、更には地域活性化にもつながることから、より一層の推進が求められています。
農業人口は年々減少
2018年の農業就業人口は2010年の3分の2程度にまで減少し、その平均年齢も60代後半と、高齢化が進んでいます。
2010年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | |
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農業就業人口 | 260.6万人 | 209.7万人 | 192.2万人 | 181.6万人 | 175.3万人 |
うち65歳以上 | 160.5万人 | 133.1万人 | 125.4万人 | 120.7万人 | 120.0万人 |
平均年齢 | 65.8歳 | 66.4歳 | 66.8歳 | 66.7歳 | 66.8歳 |
注:「農業就業人口」とは、15歳以上の農家世帯員のうち、調査期日前1年間に農業のみに従事した者又は農業と兼業の 双方に従事したが、農業の従事日数の方が多い者をいう
一方、新規就農者の経営面での問題・課題として「労働力不足(29.6%)」が挙がるなど(※)、農業現場での人手不足は深刻であり、こうした課題解決の方策として障害者が農業の担い手となることが期待されています。
※新規就農者の就農実態に関する調査結果(平成28年度)一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センター調べ
荒廃農地の増加が地域課題に
農村地域の農地の荒廃も進んでいます。
耕作放棄地となった原因について、どの地域においても高齢化や人手不足が挙げられています。
荒廃農地の増加による問題は農業生産の基盤となる農地が減少するということだけでなく、地域の農業インフラの維持管理や地域農業の伝統の継承がなされないことによる地域の疲弊につながります。
地域の課題解決の一つとしても障害のある人々に農業を担ってもらい、彼らが地域の一員としてともに暮らし障害のあるなしに関わらず受け入れられていくこと、それも農福連携の一側面です。
資料:農林水産省農村振興局調べ「耕作放棄地に関する意向及び実態把握調査(平成26年)」注:平成26年2月に全市町村を対象に調査したもの(回収率91.9%)
【参考記事】耕作放棄地と荒廃農地って何が違うの? 利活用のための交付金も解説
障害者が社会で働くこと
障害は人それぞれ
一言に「障害者」と言っても、人それぞれ。障害の種類の違いや個人差があり、複合的な障害を持っている方もいて、それぞれに適切な配慮が必要です。
身体障害
身体機能に障害があり身体障害者手帳を取得している人で、全国で約436万人。また、目に見える障害だけでなく、内臓の疾患など体の内部に障害のある人もいます。判断能力の高い方が多いため、一般企業での就業をしている人も多くいます。
知的障害
知的な障害があり、療育手帳を取得している人で、全国で約108万人。体力が必要な作業も行える場合が多いのですが、判断力が必要とされる作業が難しい人もいます。
精神障害
精神に障害があり、精神障害者保健福祉手帳を取得している方で、全国で約392万人。個人差はありますが判断能力の高い人が多くものの、障害のために集中力が続かない人もおり、配慮が必要です。
また、手帳を取得していなくても、医師の判断等により障害者の雇用サービスが受けられる場合があります。
障害者の働き方の種類
障害者雇用 | 就労移行支援事業 | 就労継続支援A型事業 | 就労継続支援B型事業 | |
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概要 | 一般企業や特例子会社などで、障害者に適切な配慮をして雇用する | 障害者に職場体験や就業訓練の機会を与え、求職活動や就職後の定着支援を行う | 障害者に雇用されて就労する機会を提供するとともに、能力等の向上のために必要な訓練を行う | 障害者に就労する機会を提供するとともに、能力等の向上のために必要な訓練を行う |
賃金等 | 雇用契約に基づく賃金が発生 | 発生しない | 最低賃金を保証 | 工賃が発生(作業量に応じて支払われる) |
年齢制限 | 特になし | 要件を満たせば65歳以上でも可 | 要件を満たせば65歳以上でも可 | 年齢制限なし |
仕事に際して直接的な支援を必要とする障害者は、一定の生産活動が可能であればA型作業所で雇用され、支援の度合いが高い場合などにはB型作業所を利用することが多くなります。
農福連携の形態
また、農福連携にはさまざまなパターンがあります。
1、障害者に関係する施設が農業に取り組む例
以前から障害者が作業や訓練として農作業に取り組み、施設内で採れた野菜を給食で消費するなど、農業に取り組む施設は少なからずありました。
農業はクリーニングなどの軽作業に次ぐ頻度で障害者施設での生産活動として機能しており、作業訓練としての側面も評価されています。また、およそ3分の1の障害者施設が農業に取り組んでおり、地域の農産品の加工に関わる施設も含めると、4割以上が農業と何らかのかかわりがあると言えます。
【農福連携実例はコチラ】社会福祉法人が過疎地に広大な農地を持つ理由~地域とつながるノウフク#2~
2、農業法人や農業関係の企業が障害者を雇用する
一般企業でも障害者雇用も広がっています。今企業による障害者の法定雇用率は2.2%で、46人の従業員のいる企業であればそのうち1人は障害者を雇用することに。今後この割合は高まっていく予定で、2021年にはあと0.1%上昇することがすでに決定しています。
農業法人も例外ではありません。
農業関連の企業が障害者を雇用するために法人を設立したり、農業に関係していない企業が特例子会社を立ち上げ農業分野に参入したりと、時代の流れとニーズを汲んで農福連携に取り組んでいる例もあります。
【農福連携実例はコチラ】出荷量日本一のタマリュウを支える農福連携~地域とつながるノウフク#3~
3、障害者の「施設外就労」として農作業を行う
障害者福祉施設などが実際に農地や農機具を保有せず、施設に通う利用者が施設の外で農作業をすることがあります。これを「施設外就労」と言います。農家の側からは作業量に応じて依頼をすることが可能であるため、1年を通じての作業量にばらつきのある農家にとっては常に雇用する必要がありません。
こうした形態を希望する農家のために、自治体などによるコーディネートも進められています。
【農福連携実例はコチラ】人手不足の農家と障害者をつなぐ仕組みとは~地域とつながるノウフク#4~
農作業による障害者へのメリット
単に訓練や収入の手段としての農業だけでなく、農作業そのものが障害のある人に良い効果をもたらすことを示すアンケート結果もあります。
農作業を通じて心身の状況が改善し、一般就労に向かうことができるようになったという例もあり、農福連携は障害者福祉の側面でも注目を集めています。
【参考記事】農福連携はここまで進んだ!成功事例と課題から見る未来
今後の課題は
農福連携に行政や農業、福祉の関係者の注目が集まる一方で、まだ社会全体への周知は十分ではありません。
現在、「ノウフクマルシェ」や農福連携による農産物のブランディングなど、障害者が農福連携を通じて社会の一員となるための取り組みは進みつつあります。
一方で、障害者に支払われる賃金や工賃の向上の必要性や、彼らを支える人材の確保などの課題も、今後解決すべき課題として挙げられます。
【農福連携キーマンが語る】障害者が地域と農業を支える未来へ~地域とつながるノウフク5~
日本の食を支える「農業」の課題解決に障害者の力が発揮され、「障害者が地域で役割をもって生きていく」という共生社会につながる農福連携の広がりが待たれます。